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テニス少女1 U12  作者: コビト
16/35

-4-2 天才少女(2)

優花は萌菜とラリーをしていた。

萌菜はデビュー戦で勝利を飾った後、3年生に0-6で負けるという出入りの激しいプレーをし、その次の大会では本来の実力を発揮して1回戦で敗退すると、萌菜の母、千佳子をがっかりさせた。

ところが次の0P主体の初心者向けの大会では出入りの激しさが良い方向に出て、ドロー運にも助けられてベスト8に進出した。

そんな萌菜だったがもちろん優花にはまったく歯が立たない。

優花は萌菜に合わせてスピードを落としたボールを出来るだけ丁寧に打っているが、少しでも深く振ると萌菜はすぐにミスをした。

「萌、そんなすぐにミスしたら練習にならへんでー!!」

優花の姉御振りは健在だ。

「ごめんね。優花ちゃんも明日試合やのに」

千佳子が優花の母にお礼を兼ねたお詫びを言う。

「ええんよ。優花も自分の練習でやってんねんから」

「いやいやそんな。いっつも打ってもらってて申し訳ないわ。優花ちゃんの調子が崩れへんかったらええねんけど」

千佳子は優花の調子を気にする。

萌菜のようなヘタクソとラリーをしてペースが乱れなければいいがと心配してしまうのだ。

「そんなん全然大丈夫やって。逆にあれが安定感付ける練習になんねんて。だから今日もまた萌ちゃんに打ってもらおうって言ってたもん」

優花の母、夕子は二人の練習を安心した気持ちで見ていた。


大事な冬の大きな大会で優花が第1ブロックに入ってしまい夕子も旦那もそれはひどく落胆した。そして優花にいつ伝えるべきかと考えたが、人伝に優花の耳に入るよりきっちりと自分達から話した方が良いということですぐに話すことにした。

そう決めたそばから翌朝になると旦那は後は任せたとさっさと仕事に出てしまい、夕子は思いきって朝の学校に行く前に優花に話をした。

優花は一瞬表情を強ばらせた。

そして「ふーん」と言って視線を落としたが、やがて小さく頷いて「厳しいけど、がんばるしかないわ」と言って視線を戻した。

「それに七海ちゃんとやんの夢やったから、それは嬉しいことやもん。優花、今、調子ええし、どこまでやれるか楽しみやわ」と笑顔で言った。

優花の切り替えの早さにドロー運の悪さを呪った夕子も気持ちを切り替えようと努めた。

それからもそれまでも一生懸命、練習にトレーニングにと励んだ優花だったが、12月に入ると自分で考えたのかコーチに聞いたのかわからないが自主練のメニューを決めて行動するようになった。

そして試合1週間前からメニューを更に具体的にして今週の課題を考えてきた。

しっかり者の優花は親の想像以上にしっかりしていた。

「今日は基本に戻って修正していくみたいよ。だから逆に萌ちゃんに付き合ってもらってこっちがお礼言わなあかんわ」

「何言ってんのよ。お礼なんてこっちが言わなあかんって。優花ちゃんに打ってもらって萌菜すごく練習になってんねんから」

「私らも萌菜と打ってるで、なあ」

大人がお礼のラリーをしていると本当のラリー練習から戻ってきた萌菜の先輩たちが自分も協力しているとアピールしてきた。それはもちろんだ。

「みんなありがとうね」

「優花とも打ってるしー」

優花の先輩もアピールしてきて夕子は「そうやって先輩たちが後輩に教えていく流れを作ってくれてんのよね。ありがとう、みんな」と言った。

「じゃ、ボール集めて集合しよ。そんで8の時ドリルやろー」と優花が仕切って、みんながそれに従うと、「おう、優花は相変わらず口だけは達者やなー」とコーチが冷やかした。

「練習の流れは先輩たちが作ってきて、仕切りは優花ちゃんがやんねやったら、ほんまコーチいらんのちゃうん?」と誰かのお母さんが冗談に聞こえない冗談を言ってみんなが笑った。

すると「おいおい、その環境を作っているのはコーチですー」と言ってコーチが拗ねるから、強かな女の子たちは「コーチ、8の字でお願いしまーす」と甘えた声を出してコーチを持ち上げておいた。


それからコーチの速いテンポの球出し練習が始まり、そこでも優花は好調を維持させていた。

この調子が10月の大会で出ていれば、もしかしたら準々決勝を勝てたかもしれないと夕子は思う。

「前の試合の準々決勝すごかったんやってね?」

千佳子は萌菜がポイントが足りずに出場出来なかったその大会のことを聞いた。

「えー、たまたま。まぐれやって」

夕子は謙遜しながらもすごかったことは否定しなかった。事実優花はすごかったのだ。


対戦した第2シードは北嶋陽未、ランキングは10位。

夏の大きな大会ではベスト16に進出している。

これまでの優花ならまったく相手にもしてもらえないような実力者だ。

ただこの時の優花は違っていた。

1回戦を苦戦しながら乗り切ると、2回戦では第6シードを相手に接戦を演じ、みるみる調子を上げていった。

勢いそのままに2回戦を突破すると準々決勝でいよいよ第2シードと対戦することになった。

優花はゲームが始まると好調だったそれまで以上の力を発揮して、序盤に2-0とリードを奪った。

優花はショットに集中しながらも、合間合間に隣のコートを見た。

そこでは反対の山を登っている第1シードの服部七海が優花と同じく準々決勝を戦っていた。

七海は優花の憧れであり目標であった。

その七海が今、自分と同じ立場で戦っている。

そして万が一、後二回、自分のプレーが自分の思うようになれば。

決勝戦で七海と戦えるかもしれないことに気付いた優花にプレッシャーなどなかった。

ぐんぐん調子を上げる優花はこの大会を通して、完全に[化け]始めていた。

隣の七海が6-0という圧勝であっさりとゲームを終わらせる中、優花は第2シードの北嶋陽未と対等に打ち合っていた。

優花の長い長いゲームの中、隣の山は早々と準決勝をスタートさせた。

七海の相手はランキングを急激に上げてきたトップスピナーだった。

ただそのゲームはあまり見ることは出来なかった。

北嶋陽未が一段、一段とギアを上げてくると優花はボール以外に気が回せなくなった。

スコアは接戦であったが終盤は陽未の強さが際立つ内容となった。

結局善戦むなしく優花は負けてしまった。

優花は七海と戦うことが夢に終わってしまったことは残念に思ったが、同じような土俵で戦えたことには満足していた。

「お母さん、優花めっちゃ、うまくなったんちゃうん?!」

夕子の目にもそれは明らかだった。

「七海ちゃんとやってても接戦になったんちゃう?!」

という優花の言葉に夕子もここまでは同じ思いだった。

そして、そう言いながら二人が見ている目の前で七海は準決勝の強敵をも6-0と圧倒した。

「さすが[天才少女]やな」

どこかの誰かがため息混じりに言った。

「あれで4年やもんな。[天才少女]って言われるんのも納得や」

と他の誰かも言った。

そしてその天才少女は決勝戦で陽未を6-2で一蹴した。


「どうしよ?お母さん!!」

練習の帰り、優花は興奮気味に夕子に話しかけた。

「何?どうしたんよ?!」

「優花、めっちゃ調子いい!!」

それは夕子も見ていて知っている。

優花は予選前日にして自分を最高のコンディションに持ってくることに成功した。

「明日、いけるかも!!」

夕子もそうであって欲しいと思う。

「絶対に本戦行くねん!」

優花の口からその台詞が出たのは久しぶりだった。

そして優花は母の返答を待った。

夕子は娘の真正面な台詞に一瞬戸惑い躊躇する。

それでも娘は母の返答を待つ。

そして母は娘を信じて戸惑いを無くす。

「絶対に大丈夫!」

夕子が力を込めてそう言うと、優花はニッコリと笑った。



テニス少女U12 -4-2 

『天才少女(2)』


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