主夫
疲れた様子の妻を気遣い、夫は家事を頑張ります。
夫が馬を飼い始めて数日が過ぎた頃の、妻の私が夜勤明けの朝。
今、そのバカ夫が、家の中で馬を走らせながら掃除を始めやがった。
────うるせぇ。
某アニメの影響の為か、片手に持ったハンディ掃除機を大きな矛のように振り回しながら、即興的に歌っていく。
────うるせぇ。
だが徐々に、夫の声にカリスマ性が宿り始める。
「へいへいジジイ!乳母捨て山から迎えに来たぜっ、へいジジイ!今度はテメェを背負ってやるぜ!ジジイ捨て山まで送迎してやるぜ!へいジジイ!」
────ババアがんばれー(フランス語)
「へいジジイ! 送迎料金払えや! 金が無いなら……体で払いな♪」
────へいへいへいへい♪(フランス語)
「ババア、ババア、ババア、ババア!」
────ジジイっ、ジジイっ、2番いけぇ♪(フランス語)
「おぅ♪。」
五里霧中……ジジイに染み入る……ババアの記憶……
────演歌かよ。(フランス語)
右手に残る 萎びた乳袋の 滑らかな凹凸
左手に残る 窶れた頬の 優しい温もり
両脚に残るは 背負ったババアの 命の重さ
鼻に残るは ババアの死臭
唇に残るは ババアの痰塩
両耳に残るは ババア最期の言葉……
────ジジイ……愛してるぜ(フランス語)
アノ時 確かに ババアの心音が止まったんだ。
アノ時 確かに 山に埋めたんだ。
────次の日の……激しい雨の……悲しき日……(フランス語)
豪雨で 乳母捨て山が崩れ 村まで 流れて 流れて
全ての 全ての ババアが 家に押し寄せて
ジジイを 闇落ち させたのさ
ジジイは その時 泣いたのさ
その時 再会したババアと 泣いたのさ
「ババア……ババア……ババア……ババア……」
「んん……いつの間にか寝てたな。」
「えっ……いつから?」
「……歌い始めた頃。」
────ウンコしたい(フランス語)
「今、馬が喋ったか?」
「喋ったな。……他に喋れ……おい。」
────出るぞ、出すぞ、力むぞ(フランス語)
「わああっっっっ」
「わあああああっ」
────ふう(フランス語)
「おいっ、トイレは向こうだぞっ!コラッ!」(馬語)
「落ち着けっ、落ち着くんだっ!」(馬語)