表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ブックシェルフ

無自覚の傲慢とハリボテのプライド



まあおそらく誤謬を招くことにはなるだろうが、たとえ話をしよう。俺の思う、君の"善意"と理想の無自覚な傲慢さの。

君は近くの広場に知人友人を集めてこう言う。

「ここに30㎏の資材がある。これで1㎞先の公園に子供たちのための遊具が作りたい。30人で1㎏ずつ持ったら大した荷物じゃないし、手分けして持っていこう」

集まったみんなは、そりゃあ同意して手伝ってくれる。1㎏の荷物も、1㎞歩くのも、大した負担じゃないと、君と同じく思ってるやつらだからな。

だけど、俺は断る。1㎏の荷物も1㎞歩くのも、しんどいからだ。君たちは知らないが、俺は広場に来るまで10㎞くらい延々と歩いてこなきゃならなかったし、子泣き爺が背中に乗ってて重いし、道中で脱水を起こさないように持ってきた水筒にはまだ3Lくらいお茶が入ってるし、リュックの中にはついでに図書館に返却しようと思った本が五冊くらいは言っている。正直これ以上動きたくないくらいしんどい。

いや。そもそも、俺は荷物がなくとも1㎞延々歩くのはキツい。君は1㎞くらい大した距離じゃないだろうと思ってるだろうけどな。そういうところなんだよ、基礎的な体力の差ってやつは。万全の状態とかそういうこと以前に俺はそもそも最大HPが君より著しく低い。君が同じ数値になったらレッドゲージか、いってもイエローゲージになるくらいには低い。そして俺は基本的に最大HPと現在HPがイコールの時がない。

そんな風に見えない、って?当たり前だろ。見せないようにしてるんだから。君たちに弱ってるところなんて見せるわけないだろう。

痛みを訴えたところで何も解決しない。痛みで泣いたって痛みが和らぐわけじゃないし、精々鎮静剤を出されるだけだ。薬を飲んだって痛みが治まるまでの時間が短くなるだけで、その内また痛くなる。心配されたって鬱陶しいか気まずいだけだ。なら、わざわざ他人に痛みを訴える意味なんてない。

そりゃあ、医者はもしかしたら痛みの原因を突き止めて治療してくれるかもしれない。でも訴えたその場で解決してくれるわけじゃない。医者でも解決しない苦しみが、医学の詳しく正しく信用できる知識を持ってるわけじゃない相手に対処できるわけがない。なら伝えることに欠片の意味もない。

弱みを見せて何の利がある?憐れまれるなんてまっぴらだ。俺は一人で生きていける。少なくとも精神的な意味では、君の助けは必要としていない。俺は弱いが、何もかも人に頼らなきゃ生きていけないわけじゃない。

…否。

俺はそもそも、生き続けたいとは思っていない。死にたいとも思わないが、突然死ぬことになったとしてもそれを恨んだりはしない。多分。

10年後を生きている己をイメージできない。これから死ぬ俺をイメージできるかといえば、痛みに苦しんでる時とかでなければそんなことはないけれど、生きている俺はそれよりもっとよくわからない。10年後も俺は変わらず存在しているのか?本当に?

君は自分が死ぬところなんて考えたこともないんだろう。ずっと年を取ってからのことだろうと漠然と思っているんじゃないのか。君にとって死は、縁遠いものだから。

俺にとって死は、そこまで離れたところにいる概念じゃなかったよ。実際死にかけていたかはともかく、何度も俺はこのまま死ぬのだろうかと思った。自分から死のうと思ったことは一度もないけれど。痛くて、苦しくて、寂しくて、冷たくて、そのまま死んでしまうかと。まあ、こうして生きているが。

人は簡単に死ぬ。比喩的な意味でも、字義のままの意味でも。水深が脛の高さまであれば溺れるし、体内の血液が一定量切ったら死ぬし、一度に大量の血を喪えばショック死する。心臓に穴が開いたら死ぬし、肺から空気を取り込めなくなったら死ぬ。脳が壊れたら死ぬ。高いところから落ちれば、自動車が突っ込んできたら、土砂に押し潰されたら死ぬ。人が死ぬ原因なんていくらでもある。

まあ、そもそも生まれたものはいつか死ぬものだ。人であれ人以外の生物であれ。俺も、君も、誰でも。いつかは死ぬ。生きているのなら、死ぬ。いつ死ぬか、どう死ぬかはともかく、それは避けられない。引き延ばすことはできても、完全に逃げ切ることはできない。人間にどうこうできるものではない。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ