002-4 姫神子の役割
「…ありがとう。おかげで少しは落ち着いたと思う。それに、何もわからないもの。今の私が何なのか知りたいわ。…出来ればあなたの知る範囲で。」
吾月と初めて会った時、碑透の守部だと言っていた。守部が何かはわからないが、碑透のために動く人物ではあるのだろう。
それに、老女に碑透を休ませたいと申し出てくれた。吾月は信頼しても良いと思えた。
堅苦しく取っつきにくい老女より、吾月に話される言葉の方が受け入れられるだろう。吾月は窓の外に顔を向けてから頷いた。
「そうだな…俺が答えられる範囲なら簡単に話そう。姫は何が聞きたいんだ?」
やはり偉そうな感じでそう言うと、そのまま窓に近づき、窓枠に腰掛けた。窓の外には澄んだ青空が覗いている。きっと外は気持ちの良い陽気なのだろう。
「そうね…まず…姫ってやめてくれるかしら…。あなたにとって私が何なのか分からないけれど、そういう呼ばれ方するとムズムズして気持ち悪いわ。それに、言ったと思うけれど私には碑透って名前があるの。変わった名前過ぎて、気に入ってる名前じゃないけどね。」
吾月は「姫って柄にもみえないよな。」と、にやにやした。碑透は膨れては見せるが、気を使わずに居られるのは、からかうような振る舞いのおかげかもしれない。
(…もし。これが計算だとしたら吾月は侮れないんじゃないかしら。つい信用してしまうけれど。私と同い年ぐらいにしか見えないし、同年代の気安さなのかしら…)
じぃ…。そう音が聞こえてしまうくらいに見つめる。
初めて会った時にも思ってはいたが、吾月は整った顔立ちをしている。爽やか、と言うよりは少し生意気そうな雰囲気。つり気味の瞳は賢そうにも見える。濃い顔立ちではないが、学校にいればクラスの女の子や後輩に騒がれそうなタイプかもしれない。
「そんな、睨むほど怒らなくてもいいだろう。聞きたいことがあるんだろう…碑透。」
つい考え込んで見てしまったことを、怒っていると勘違いされてしまう。
「あ、うん。変なことを聞いてる気がするんだけど、私ってなんでここにいるのかしら。…っていうか、ここがどこかも分からないんだけど…。なんで、目が覚めた時あなたがいたの?そういえば、目が覚めた時にあった女の人も誰なのかしら…。あ!そう言えば…」
気恥ずかしもあって、慌てて気になっていたことを特に考えもせず口にしてしまう。
「ちょっとまて。そんな一気に聞かれても覚えられない。」
吾月に制止される。ついつい、捲し立てるように質問してしまった自覚はあった。
「うん、そうだな。三つに絞れ。そうしたら答えてやる。はい。一つ目は。」
どうぞ。と、手を差し出される。三つに絞るとなると慎重になってしまう。しかし一番聞きたいことは、はっきりと決まっている。
「私はなぜこの世界にいるの?この世界にとって私は意味があるということなのよね。まるで呼ばれて、引き寄せられたように思うの。」
幼い頃に告げられた未来。母がどのように未来を知ったのかは分からない。しかし、「予定された未来」でなければ、母が知ることはなかったのではないだろうか。この世界に、一六歳ちょうどの碑透を引き寄せる何かがあるとしか思えない。
「この世界…か。そうだな…碑透がここに来たのは、呼ばれたからだ。世界を救うため…であってほしいな。正直俺は、ここ…神殿と呼ばれるんだが、碑透を呼んだ意図に確証がない。だから、あのばぁさん…あー、神殿の巫女の話にくっついていこうと思ったんだ。碑透は…この神殿では姫神子と呼ばれる。伝承によると姫神子は、神と同様に神力と呼ばれる特殊な力を強く持つそうだ。だから呼ばれたんだろう…。」
「神…!この世界には神様がいるの!?当たり前のように?」
間髪入れず、疑問を投げかける。神社育ちの娘の発言ではないが、質問の回答を部分より神の存在が当たり前であるような吾月の言葉が気になった。
母は不思議な力を持っていたが、碑透が信じていたのは母であり、神という存在ではなかった。
「姫神子のくせに神の存在を知らないのか?二つ目の質問ということにするぞ。」
碑透が頷くのを確認して、話を続ける。
「この世界には神という存在がある。この世界の現状を作り上げたのも神だ…神には絶対的に抗えない。世界を滅ぼすも恩恵を与えるも神のさじ加減だ…ただ、神は人間一人ひとりの願いを叶えることは基本的にない。まぁ気まぐれで叶えてくれる事もあるのかもしれないが。その代わりに巫女は神と人間の間に立って人の願いを叶えるとも言われる。それが神殿の巫女の役割だ。碑透は巫女ではなく神の子、神力を持っていてその力を使って願いを叶えることができる。」
願いを叶える。そうは言われても、自分にそんな力があるようには思えなかった。「最後の質問だ。」吾月の言葉に、聞きたいことを整理する。ここは神殿だと言っていた。碑透が呼ばれた神殿…自分の体が変わってしまったことも、神の力という物も未だ現実味が湧かなかった。多分、実際に目の当たりにするまでは何を聞いても現実味は無いのだろう。それならば…。
「この世界は…何かに脅かされているの?」
なぜ呼ばれたのかという、最初の質問に類似しているところもあった。二つ目の質問で遮ってしまった事もあり質問を改めた。質問の内容に吾月が神妙な顔をする。「そうだな…」そう言っだ後、何かに気づいたように扉の外をみる。




