表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来神話  作者: 相木 夕依
39/40

034 雨降りの朝

 目覚めると相変わらずの雨の音が耳に入ってきた。空は厚い雲に覆われ、空の明るさからは、今が何時なのか知ることはできない。


 碑透が隣のベッドを見ると、楼蓮がスヤスヤと眠っている。部屋に置かれた時計はまだ朝の早い時刻を差していた。昔から目覚ましをかけなくてもいつも同じ時間に目が覚めてしまう。旅を始めてからは、朝早くから行動を始めることが多かったので習慣に助けられた。


 出発まではまだ時間があるが、特にすることもなく手持ち無沙汰だ。うんと伸びをして身支度を整える。


「外に出たら吾月に怒られるかしら…。」


 答える人はいなかった。いつも一人になると話しかけて来る馬も今日は外につながれている。


(馬小屋に行くくらい良いわよね。)


 いつでも出発が出来るように荷物を片付けそっと部屋の外へ出る。扉を閉める前に様子を窺った。楼蓮は全く起きる様子がなかった。




「おはよう。」


 厩に潜り込むと、馬は碑透に頭を寄せて撫でてくれとせがんで来る。


「君は朝から元気だね。今日はせっかく宿での宿泊なのだからゆっくりと眠っていれば良いのに。」


 彼の話し方はいつもからかうような調子だ。それでも、気安い口調に碑透の気持ちは楽になった。昨日の晩ブラッシングをしたからか、まだ毛並みは柔らかく整っている。


「ゆっくり眠るのは性分に合わないみたい。この世界に来たばかりの頃は眠り続けることが多かったみたいだけど…。そんなの勿体無いと思わない?」


「うーん、僕は人間じゃないからなんとも言えないなぁ。でも、人間にとって睡眠が大事だということは知っているよ。」


 馬の表情の変化は碑透には読み取れない。淡々と話す彼との会話はいつも碑透の興味を引いた。


「ふふ。あなたは物知りなのね。あれ、そう言えば今まで聞かなかったけれど、あなた名前はあるのかしら?」


「名前、名前ねぇ…確かあったはずなんだけど忘れちゃったな。あんまり呼ばれないし。なんでもいいから君が決めてよ。」


「え、そんな大事な事私が決めていいの?うーん。」


 突然の事で良い名前は浮かばない。馬につける名前といえばどんな名前になるのだろうか。早く走れる名前が良いかもしれない。しかし、安易に名前を決めるのは良くないことのように思える。


「…今度までいい名前を考えておくわ。その前にあなたが名前を思い出せばいいけれど…。」


 碑透は今まで生き物に名前をつけたことはなかった。ぬいぐるみや人形に名前をつけることはあったが、生き物に対して名前をつけるのとは重みが違う。


「それにしてもこの雨…いつかやむのかしら…。」


「雨?この雨はやまないよ。だって…。」


 言いかけて言葉が止まる。誰かが来たのかと周りを見回すがそんな様子はなかった。ただ、雨音が厩の屋根を静かに叩くだけだ。それが余計に不安を煽る。


「なに?どうしたの?」


「うん。この街からなるべく早く去ったほうがいいよ。君の従者たちを連れて。」


「え?どうして?」


「きっと君と一緒に寝ていた彼女なら気づいているはずだ。とにかく急いで部屋に戻って。」


 言われるがままに、碑透はその場を後にした。部屋に戻ると、ベッドに楼蓮の姿はなく、彼女は難しい顔をして窓の外を見ていた。


 馬小屋に居たのもそれほど長い時間ではない。普段よりは少し遅いが、楼蓮からすれば十分に早い時間だろう。


「どうしたの?楼蓮。」


「碑透様。寝坊助な男どもを叩き起こしてさっさと街を出ましょう。」


 朝が弱い楼蓮とは思えないほどにテキパキと荷物をしまった。しかし発言は完全に自分のことを棚に上げている。


 碑透達の隣の部屋が吾月たちの泊まる部屋だ。楼蓮は急かすように扉を叩いた。


「男ども!すぐに街を出ますわよ!」


 扉越しに声をかける。扉が開かれると、吾月も態狸も外に出る準備ができていた。楼蓮の様子に驚いた様子を見せている。


「鉢合わせたらろくな事になりませんわ。この雨でも分かるくらい…この怖気…この気持ち悪さは間違いなくあの偽物ですわ。」


 偽物と言われて思い浮かぶのはただ一人。偽の姫神子だろう。そう言えば、楼蓮が彼女を目にしたと言った時にも禍々しいと話していたことを思い出す。


「…あの子が言っていたのはこの事だったのかしら。」


 小さく呟いた声に楼蓮が首をかしげる。碑透は何でもないと返したが少し不審に思われただろう。


 あの馬は不思議となんでも知っていた。現身になるほどに年齢を重ねているようには見えなかったが…。


 この雨の原因さえもなにか言及しようとしていた。あとでまた聞いておいた方が良いかもしれない。


 しかし、今は雨に気を取られている場合ではなかった。結界で守っているとは言え、一度は襲われている。偽の姫神子の攻撃を受けない補償はどこにもない。万が一鉢合わせして仕舞えば次はどんな目に合うかわからない。


 背筋に冷たいものが走り、碑透は身を震わせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ