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未来神話  作者: 相木 夕依
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033 楼蓮の想い人

 あっという間に食事の時間は過ぎていった。外にでると、相変わらず雨が降り続いている。


「こんなに長く雨の中にいるのは生まれて初めてかもしれないな。」


 吾月が空を見上げた。厚く広がる雲は風に動く様子もなく留まり続けている。


「だなぁ、雨なんざ、自分からあたりに行かなきゃみれねぇかんな。空から水が降ってくるなんてよく考えりゃ不思議だよなぁ。どうなってんだ?」


「うーん、私にとっては雨が降らない世界の方が異様だもの。この世界の天候はどうなっているのかしら?」


 態狸と碑透、二人で首を傾げる。自然のままなら天候が決まっていることはありえないはずだ。なんらかのカラクリがあるのだろう。もしくは神様とやらが決めているのだろうか。それにしても、望んだ場所にしか雨が降らないとは、ご都合主義な天気だ。



 宿に着き、翌日の集合時間を決めて解散した。楼蓮とはいつもの様に同じ部屋だ。


「それで、さっきははぐらかされてしまいましたが、どうなんですの?碑透様。」


「え?どうって何が?」


 お風呂から上がってベッドに座ると、楼蓮が声をかけてきた。どうやらまだ諦めていなかったようだ。足元や袖口がずぶ濡れの碑透に対して、楼蓮は雨具を被っていなかったにもかかわらず全く濡れた様子がなかった。ベッドにゴロンと寝転んで碑透を見上げている。


「碑透様の意中相手ですわよ!いらっしゃるのでしょう?」


「そ、そうね…楼蓮は恋バナが好きなの?」


「恋バナ?意中の異性についての話をそういうのかしら?もちろん好きですわ!嫌いな女性なんでいますの?」


 さも当然とばかりに言い放つ彼女に碑透は少したじろいだ。昔から恋愛の話をするのは苦手だった。幼馴染をどう思っているかは、良く周りに聞かれたが、聞いてくるのは昌に好意を寄せている娘ばかりだった。つまり嫉妬という悪意付きの恋バナだった。


「そういう楼蓮はどうなの?」


 話をそらすために聞いては見たが愚問だったかもしれないと思い返す。これだけ女尊男卑で男など眼中にない楼蓮だ。いくら恋バナが好きといえ、恋愛という言葉に縁があるようには思えなかった。


 しかし、楼蓮から帰ってきたのは予想外の答えだった。


「わたしは旦那様一筋ですわね。あんなに素敵なかたは世の中どのように探したとしても見つかることはないと思いますの。」


 嬉しそうに頬を染めてうっとりと言う楼蓮に、碑透は驚いた顔で「旦那様?」と聞き返してしまう。


「あら?ご存じなかったのでしょうか?わたしの旦那様は吾月の片腕として仕えている切れ者の燈夜様でしてよ。」


 燈夜…というと、眼鏡をした堅そうで吾月に振り回されているあの燈夜だろうか。確かに気の利く紳士だ。おそらく切れ者なのだろうが碑透の目に映る彼は切れ者というよりは、心配事と胃痛の絶えない不憫紳士というイメージだった。碑透には楼蓮に夫がいたことも意外だったが、燈夜がすでに所帯を持っていることも意外だった。


「そうだったのね。驚いたわ。でも楼蓮は薄茜の国に住んでいないのよね?」


「えぇ、わたし達の屋敷は学園都市の近くにありますのよ。普段は一緒に暮らしてはいませんが、物理的な距離があったとしても心はすぐ近くにありますわ。」


 学園都市とは、神力やこの国の歴史について年齢としては小学校、人によっては高校生ぐらいまで学ぶことができる幅広い学舎が集中している場所だ。


 古代文明を研究する者やレジスタンスが隠れ蓑にするには最適の場所だという。学園で燈夜と出会った楼蓮は最初は喧嘩腰だったそうだが、その穏やかで常に冷静沈着な燈夜に惹かれていったそうだ。


 惹かれ始めてからは、猛アタックで最初は拒んでいたようだが押しに押されて折れたらしい。楼蓮にとってみれば、拒んでいたのも照れ隠しに違いないそうだ。


 燈夜のことを思い浮かべる楼蓮は、いつもの強気な雰囲気はなく、夫に恋をする可愛らしい妻の顔だった。


 碑透は昌の顔を思い浮かべた。どんなに時間が経っても、どんなに遠くに来てしまったとしても、すぐに思い出すことができる。確かに好きなことには距離は関係ない。


「もしかして、吾月だったりしませんこと?」


「吾月?え?なにが?」


 予想外の発言に思わずおうむ返ししてしまう。上擦った声が出ていて自分でも驚いてしまう。


「あら、お気付きになっていませんの?吾月はどう見ても碑透様のこと好きですもの。あの過保護っぷりは異常すぎますわよ。」


 言われて、吾月の言動を思い返す。確かに碑透に対して気遣う様なことは過剰なまでに多く感じる。しかし、守部である責任を感じているのかもしれない。


 鳴月が言っていたように碑透と吾月にはなんらかの繋がりがあるらしい。力を封じられた碑透には分からないが、吾月にはそれが見えているようだった。


 恋愛感情と言うならば違和感がある。ただ、吾月のことを考えれば、温かい気持ちになるのは確かだ。吾月が思うように碑透も守部として刷り込みのように信頼しているのだ。


「そんなことないわ。吾月はすぐに軽口を言うし…私に対して過保護なのは守部だからだと思うの。私も吾月は大事な仲間だと思っているわ。」


 着替えを終えて、ベッドに入ると眠気が襲ってきた。雨で普段より体力を奪われたのかもしれない。眼を擦るとあっという間に夢の中へ引き込まれていく。


「だから、れんあ…か…なんて…あづ…」


 途切れていく碑透の言葉は、意味を伝えるには不十分だった。


「吾月も憐れね…。」

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