表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来神話  作者: 相木 夕依
37/40

032 好きな人

「そう言えば、碑透がここに来る前どんな生活を送っていたか聞いたことなかったな。」


 碑透は元の世界について考えないようにしていた。昌の事があって全てを忘れたかったというのがいちばんの理由だが、この世界での事について知る事に必死で自分について話すなんて考えていなかったことも理由にあった。


「たいした生活じゃないわ。学校に行って友達と遊んで…そんな普通の学生生活よ。なんの変哲もなかったと思うわ。」


「学校か…。そう言えば、碑透は学校に通うような年齢だよな。年齢なんて気にしたことなかったが、何歳なんだ?」


「この世界に来た日が16の誕生日だったわよ。」


「16歳。若いですわぁ。私もそのくらいの頃は学園に通っていましたわ。蝶よ花よと周りからチヤホヤとされたものですわ。ふふふ。」


「それはそうよね。楼蓮はとても綺麗だもの。」


「それがこのひでぇ性格に拍車を掛けたんだな」


 女性同士の話に水を差した態狸を楼蓮がきつく睨む。しかし、すぐに碑透を見て華やかな笑顔を向けた。


「碑透様は元の世界で意中の殿方なんていらっしゃらなかったんですの?」


「え?」


 きょとんと楼蓮の顔を見返してしまう。意中というと異性として好きな人ということだろう。楼蓮の男性への対応を思うと意外な発言に思えた。


「それは、おれも気になるな。」


 吾月が面白そうに碑透を見つめる。態狸はくすぐったそうに顔を背けている。色恋沙汰が苦手なのだろう。


「どうだったかしら…。」


 昌の顔が思い浮かびはしたが、答えをはぐらかすことにした。とはいえ、この世界に来た頃と比べると、昌に対する罪悪感は薄らいだように思えた。


 昌と会えたように思えたからだ。それでも消えたわけではない。思い出す顔は静かに眠る昌の姿だった。


 あと何日で満月なのだろうか。雨のせいで月を見ることは叶わない。もし幻でなければ、また昌と会える。そう信じたかった。昌の名前を口にしてしまえば泡のように消えてしまうと感じた。


「そう、残念ですわ。碑透様の意中の相手ならさぞ素敵な方だと思ったのですけれど。」


 碑透の翳った表情を見て詮索することはやめたようだ。


「うーん。碑透にそんな顔をさせる奴だとしたら、おれにも望みはあるか。」


 軽口を叩いて吾月は笑った。


「何を言ってますの。碑透様と吾月では歳が違いすぎますわよ。こんなおっさん気になさらなくてよろしいですわよ、碑透様。」


「おいおい、楼蓮も同じ歳だろ。それに、見た目上は碑透とそんなに変わらないだろ。」


 楼蓮の容姿からは年齢を窺うことはできない。美人の年齢というのは総じてわかりにくいものだ。吾月は楼蓮に対して若返った姿を自慢している。


「見た目はちんちくりんなのに歳ばっかりとっているなんて残念で仕方ないですわー。」


 やれやれ、と両手をあげて反論する。どうあっても吾月を褒めたくはないようだ。


「歳ばかりといやぁ、鳴月様だろ。」


 吾月と楼蓮のやりとりに顔を背けていた態狸が口を挟む。瞬間、空気が凍りついたように感じた。吾月は苦笑いをしており、楼蓮はわなわなと震えている。


「え?鳴月って私より幼いくらいだと思ったけど…。違うの?」


「鳴月様はいいんですのよ!あの方は神力を扱う者にとっては崇拝すべき対象と言っても過言ではないですもの。おいくつかは存じませんけれど、あの変わらない姿に神秘を感じるんですのよ!」


 楼蓮は、碑透の質問にも気づかず態狸に反論した。その様子から楼蓮が鳴月に傾倒していることがよくわかった。


「鳴月は、俺たちが赤ん坊の頃からすでにあの姿だったんだ。正確な年齢は分からないが…恐らく相当長く生きているはずだ。随分昔から薄茜の国の結界は鳴月が管理しているしな…。」


「どうも苦手なんだよなぁ、鳴月様は。」


 疲れたように態狸がこぼした。楼蓮といい鳴月といい、態狸は女性が苦手な節がある。碑透に対してはそんなそぶりは見せないが。


「なんて勿体無いことを!もう、本当にありえませんわ。どうして貴方みたいなズボラでデカイだけがとりえの野蛮人が鳴月様に好かれるのか見当もつきませんわ。」


 楼蓮はがっくりと肩を落としたが、それを聞いた態狸の方が憐れだ。ズボラは取り柄ではないし、デカイと言う言い方に好感は感じられない。

 こう見えて気のいいお兄さんなのだが、楼蓮の目にはそうは映らないらしい。


「…え?鳴月に好かれてる?」


 碑透が楼蓮の言葉を思い返して問いかけると、態狸は苦い顔をした。


「碑透…勘違いしないように言っておくが…。鳴月様のアレは犬猫…というか動物に接するような可愛がり方だ。」


 吾月が残念なものを見るように態狸に目を向ける。それでも、鳴月がなにか特定のものに執着するのは意外だった。


「動物のように接するの?あの鳴月が?」


「そう。動物扱いだな。肩車をせがんだりよしよしと頭を撫でたり。餌付けしようとしたり…。」


「マジで…かんべん。」


 げんなりとする態狸の様子に碑透と吾月は声を上げて笑ってしまう。確かに童謡にでてくる森の熊さんの様に思えなくはないが、耳や尻尾が付いているわけでもない。碑透達には見えない何かが鳴月には見えているのだろうか。それとも態狸の容姿が気に入っているのだろうか。


 確かに楼蓮は野蛮だなんだと言っているが、顔が悪いわけではない。髪はボサボサだし目つきは割と鋭いし無精髭は盗賊めいているが、髪や髭を整えればおそらく精悍な顔つきになるはずだ。整えるということをしないから粗野な顔付きに見えてしまうのだ。


(あの鳴月が…。)


 態狸を撫でている鳴月を想像して、神秘的だと感じていた鳴月だか碑透は少し身近になったように感じたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ