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未来神話  作者: 相木 夕依
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031 噂の姫神子

 街の中心部まで来ると、少しは人通りが増えた。食事時ということもあってお店には人が入っている。


「四人なんだが、入れるか?」


 目ぼしい店で吾月が声をかける。

 多くの店が看板を出していない中、比較的明るい声が聞こえた店だった。


「入れはしますが…お客さん、外から来た人ですよね?今はこの雨です、悪いですが品揃えは保証できないですよ。」


 中から、看板娘であろう栗色の髪の愛らしい少女が顔をだした。


「あぁ、構わない。雨の影響は大きいのか?」


「そうなの!もぅ大きいなんてもんじゃないのよっ!…っと、すみません。作物が育たないもんだから、サラダも作れないし肉料理ばかりで…。外から取り寄せるにも高くなってしまいますし。遠出しないと手に入らなくて…。」


 不満を漏らしながらも少女は碑透達を席へと促す。吾月の容姿を見てつい敬語が抜けてしまったのだろう。


「あ、でもお酒は美味しいんですよ。未成年には飲ませられませんが、旦那さんや奥さんはもし良かったらどうぞ!」


 態狸と楼蓮に目を向けてお酒を勧める。碑透は少女が恐ろしい言葉を放ったように感じて、楼蓮を見ることができなかった。


 心なしか冷たい空気が流れて来るように感じる。


「違うの!私たちは家族じゃなくて…、なんていうか…仲間みたいなものよ。」


「あぁ!そうなんですか。美女と野獣って響きがピッタリなので、いっそご夫婦かと思っていましたー。」


 焦って碑透が少女に注意するが、少女は悪気ないような笑顔で言い放った。この対応でよく接客を任せられるといっそ感心する。


 恐る恐る楼蓮を見ると満足そうに頷いている。女神の怒りは無事静まったようだ。そのかわり、態狸は野獣と言われて固まっている。

 体は大きいが根は優しい無害なくまさんだ。


「注文いいか?」


 吾月と態狸はメニューを見ていたらしく、そのうちのいくつかを読み上げた。少女は注文を繰り返すとその場を去って行った。


「案外、街の人間は明るく過ごしているんだな。外の様子を見る限りはそう感じなかったが。この天気でもっとギスギスしているのかと思っていた。」


 店内は賑わっており、暗い顔をした人は少なかった。外の様子との差に違和感を覚えるほどだ。お酒と姫神子を話題に出すことで、気分を晴らしているのだろう。


 周りは雨と姫神子の話で持ちきりだった。聞き耳を立てなくても話が聞こえて来る。


「雨は困ったもんだが、街長が神殿にかけあって姫神子様が来てくれるってんだから楽しみだな。」


「神殿にかけあってから随分経つらしいじゃないか、本当に神殿は来てくれるのか?」


「姫神子様は髪の色も目の色も綺麗な空色らしいぞ。一目拝んで見たいもんだ。」


 姫神子という言葉を聞くたびに、碑透は居心地の悪い気持ちになった。


(この国の人たちにとって、姫神子ってそんなに大きな存在なのね。私なんて何も出来ないのに。)


「大丈夫か?碑透。顔色が良くないぞ。」


 吾月に声をかけられて、はっとする。こんな些細なことで落ち込んで周りに心配をかけるわけにはいかない。


「うん、大丈夫よ。それにしても、姫神子の存在ってこんなに知れ渡っているものなのね。この国にはテレビもラジオも通信手段もないのに驚いたわ。」


「てれび?らじ?…まぁ、人の噂は広がるなんて一瞬だからな。」


「そうですわ。私だって、思わず神殿に野次馬に行ってしまいましたもの。偽物とはわかっていましたけどね。」


 最後は声を小さくして楼蓮が言った。


「街の様子を見る限りは、危険はなさそうだな。神殿の使いが来ているわけでもないようだ。明日は大蛇と会う可能性だってあるし、今日はゆっくり休むのがいいだろう。」


「あら、と言うことは朝からうるさい声に叩き起こされることなくゆっくり眠って入られますのね。」


「おいおい楼蓮、そりゃぁこっちのセリフだぞ!朝からおめぇさんを起こすくらいなら熊を冬眠から叩き起こしたほうがマシだ!」


 態狸の苦情に碑透は寝起きの悪い彼女の様子を思い出した。彼女の寝起きはまさに最悪という表現が適切だった。なかなか起きれないという話ではない。寝起きの不機嫌さで八つ当たりに神力を使うことが何度もあった。


 しかも、その全ての不機嫌さは態狸にぶつけられていた。態狸の巨体を木に吊し上げられるくらいならまだ可愛い。態狸に熊の耳と尻尾をつけられた時には、吾月と碑透二人で笑いを堪えるのに必死だった。


 まさに神力の無駄遣いだろう。態狸からしてみれば熊なんて可愛いものだ。


「碑透は朝早いよな。」


 話をそらすように吾月が訊ねた。聞かれて碑透は、自分の元の世界での話をした事がほとんどないことに気づいた。


「私の家は神社だから。朝が早いなんて当たり前なの。」


「へぇ、神社か。なんていうか…姫神子らしいな。」


 そうね。と、返すが、神社で育ったからといって碑透に霊感のような何があったわけではない。母親の力は凄いものだろうが、自分はその血を引いていないのだ。母からは赤子の頃に施設から引き取ったと聞いていた。


 話しているうちに注文していた食事が運ばれてきた。

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