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未来神話  作者: 相木 夕依
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026 寄獣の気配

 薄茜の国を出てから八日が過ぎた。

 朝早く起きてひたすら馬を走らせ、街が近ければ宿に泊まり、なければ夕方にはテントを張って休む。そんな生活に慣れと疲れが出てきた頃だった。


 テントと言っても碑透と楼蓮はとてもテントの中とは思えない様な空間で寝泊まりしていた。テント自体は普通だが、内装はグランピングさながらの環境だった。カーペットの上には、ベッド代わりのフカフカの綿が敷かれ、野営というには贅沢な生活を送っていた。


 神力とはこれ程までに何でもできるのかと感嘆の言葉しかでなかった。


「まずいな。」


 そう呟いたのは吾月だった。


 通りがかった街で買い出しをしていた。

 碑透と楼蓮は馬の番として吾月達を待っている。

 碑透をなるべく人目につかせないためだ。フードを被っているとはいえ、碑透の青い髪と瞳はどうあっても人目を引いてしまう。


「どうした?吾月。なんか悪りぃもんでも食ったか?」


 手分けをして必要なものを揃えて合流すると、吾月が浮かない顔をして地図を広げていた。


「そっちでは聞かなかったのか?このまま最短の道は奇獣の被害が多いらしい。迂回しようにも山に囲まれた土地だからな。この辺りは雨季の地帯に囲まれているらしい。」


「奇獣?どんなんかわかんねぇけど、なんか面白そうじゃねぇか。」


「おれ達二人なら面白そうで済むかもしれないが、碑透を巻き込むわけにもいかないだろう。怪我をさせたら大変だ。」


 吾月は俺たち二人ならとは言ったが、本来態狸は吾月の身を案じるべき立場だ。燈夜がいれば苦い顔をしていただろう。態狸はトラブルや争い事に浮き足立って喜ぶタイプだった。


「吾月よう。姫さんだって身を守る術は身につけているんだ。ちょっと過保護すぎんじゃねぇのか?」


「そうだな。自分でも気にし過ぎだとは思うんだ。碑透の存在は不安定に感じる。水面に映る姿のようで、僅かな波紋であっという間にかき消えてしまいそう…というか。」


「どう見たって姫さんはそんな玉じゃねぇだろうよ。ありゃぁ、だいぶお転婆だぞ。」


 態狸の言葉に、吾月は苦笑いするしかなかった。碑透の突拍子がない行動には皆驚かされていた。


 屋敷に来てしばらくは大人しくしていたようだが、吾月の知らないところでは、態狸から逃げ回っていたと聞いた。


 態狸はお転婆という言い方をしたが、碑透は決してガサツなわけではない。出会った瞬間に打撃を受けたことはあったが、突然目の前に人がいれば驚くのも仕方ないだろう。


 吾月は気を失ってしまったが、碑透の力が強かったわけではない。あの時は碑透に力を奪われたからか、猛烈な脱力感に襲われていたのだ。


 それ以外の碑透の行動は、自分を省みない行動が多かった。自己犠牲となったとしても存在意義を認めてもらおうと必死なところがあった。



 呪いによって恐ろしい目にあった時は、周りばかりが騒ぎ立てているように思えた。


 力の封印によって最悪、死んでしまうという話があった時にも、吾月には碑透がどこか受け入れているように見えた。


 鳴月に神力の使い方を教えて貰っていた時には、どう見ても無茶なやり方をしていた。


 現身の力を使うとはいえ、本来なら力を使いこなすまでには相当の練習が必要になる。もちろん、二、三ヶ月程度の付け焼き刃程度で習得できるものではない。それを碑透は一月もかからずに身につけた。


 努力だけでも天性の才能だけでも片付けることはできない。

 一度の契約でかかる精神的な負担は相当なはずだ。


 どこか投げやりで無茶をする姿は、過去の吾月自身を見ているようでとてもどかしく感じていた。

 だが、それと吾月の感じる不安定さは全く別物だ。


 おそらく吾月は、鳴月が言っていた力の封印を感じているのだろう。


 碑透とこの世のつながりは希薄に感じた。不思議な感覚だが、守部としての繋がりを持ってから碑透の状態は手に取るように分かった。


「で?どうすんだ、吾月。迂回するにしても、雨季地帯は地盤が弱ぇ。土砂崩れや道が崩れやすくて結構あぶねぇぞ。」


「あぁ、そうだな。奇獣とやらについて少し調べるか。雨季地帯を通る方が危険な可能性もある。それに、なるべく早く目的の街にたどり着いて、草薙の剣(くさなぎのけん)の手がかりが欲しい。」


 幸い、街は近辺に出没する奇獣の噂で溢れていた。人が集まる場所に行けば情報には困らないだろう。吾月と態狸はそのまま街で情報収集に努めることにした。


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