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未来神話  作者: 相木 夕依
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023 不思議な対話

 行ってくる。と言っても、馬は薪を用意した場所から、すぐ側の川沿いに繋いであった。



 内容は聞き取れないが、態狸と楼蓮がなにか言い合っているのが聞こえるくらいの距離だ。お互いに喧嘩腰ではあるが、二人の仲は悪くはないのだろう。碑透はバケツに川の水を汲む。


(冷たいかしら?)


 水に手を浸すとキンと冷えていた。

 この冷たさで馬にたわしをかけては可哀想に思う。だからと言って温水で洗うというのも聞いたことがない。


「うーん…とりあえず先にブラシで汚れを払おうかしら…」


背中の蔵はすでに外されていた。首筋をブラシで撫でると、馬が気持ちよさそうに嘶いた。もっと撫でて欲しいと首を碑透にかしげてくる。


「ふふ、気持ちいいのかしら?かわいい。」


 思わず口にしながら、馬の要望通りに首を撫でる。


「姫神子さん、緊張しているようだね。」


 聞きなれない声がすぐ側から聞こえた。身構えるようにフードを目深にかぶる。


 少し幼い少年のような少女のような声だ。フードから覗くように見回すが誰かがいるわけではない。


 耳をすませても相変わらず態狸たちの言い合いが遠くから聞こえているだけだ。


「おや。馬が話す訳がない…そんな顔をしている。そのまさかかもしれないよ。」


 からかうような声が再び話しかけてきた。

 ブラシをかけていた馬を凝視する。不思議な力が存在する世界だ。考えてみれば馬が話すことなど、珍しいことではないのかもしれない。


「ちょっとびっくりしたわ。あなたも話せるのね。木の精みたいなのがいるのだからなんでもありなのかしら。」


 言いながらも、手を動かすのは止めない。背中に手が届かず必死に背を伸ばしていると馬が身を少しかがめてくれた。


「うーん。まぁ少なくとも、君と一緒の人間たちは馬が話すとは思わないと思うな。」


「そうなの?私が姫神子だから話しかけたの?」


「ふふふ。そうだともそうでもないとも言えるかな。」


「まぁ、ちょうど良かったわ。あなたの足をブラシで洗いたいのだけど、水は冷たくていいのかしら?それとも温水がいいの?」


 ブラシをかけおわり、いよいよ足を洗う段になっていた。


「うーん。どちらでもいいんじゃないかな。冷たすぎるのはどうかと思うけどね。」


「分かったわ。水で良いのかしら。」


 碑透は少しだけお湯を混ぜ、足についた泥をたわしで洗っていった。蹄ではなくかぎ爪の足には泥がこびりついてなかなか落ちない。


「たくさん走ってくれてありがとう。明日もお願いするわ。」


 言葉がわかるのだと思うと、お礼の言い甲斐もある。馬は答えるようにブルルと声を上げた。


「碑透は馬にも話しかけるんだな。」


 おかしそうな声色が背後から聞こえた。振り返ると、結界を張り終えた吾月が立っていた。吾月もブラシを手にして、もう一頭の馬にブラッシングする。


「吾月。戻った…のね。」


 楼蓮の話を思い出し、ぎこちない声が出てしまう。本人の知らないところで秘密を聞いてしまったようなものだ。罪悪感に胸が少し痛んだ。


「えーと、あ。違うのよ。この子が、私に話しかけてきたのよ?ね?」


 馬に問いかけるが何も返事はない。先ほどまでの反応はどこに行ったのか。吾月がおかしそうに笑っている。


「この馬たちは神力もないただの馬だ。話したりはしないぞ。」


 でも…と、碑透は反論しかけたがやめることにした。吾月の前で話さないということは、話したくないのだろう。馬が話そうが話すまいが、無理に騒ぐことでもないように思える。


「…良いのよ。頑張ってくれたありがとうは、動物だろうが人だろうがものだろうが、ちゃんと伝えなくちゃいけないって思うから。」


「そうか。良い考え方だな。」


 先ほどのバカにしたような声色は含まれていなかったが、どこか嬉しそうに聞こえた。足の泥が綺麗に落ちると、碑透は吾月がブラシをかけている馬の泥を払い始めた。一人だと時間がかかったが、二人だとすぐに小綺麗になった。


 楼蓮との話の続きは気になったが、無理に聞く話でもないように思い話題には上げなかった。


 必要になれば、きっと吾月が自ら打ち明ける日が来るのだろう。それまでは楼蓮から聞いたことを心の奥にしまっておくことにした。


「終わった!さっき態狸が作っていたスープすごく良い香りだったわよ。お腹すいちゃったわ。」

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