022 薄茜の領主の過去
日が傾き始めると、夜営の場所を探すことになった。暗くなってからでは場所を探したり、薪を探したり、テントを張るのに余計な時間がかかるのだ。
吾月と態狸はテントの準備、碑透と楼蓮は薪として使える枯れ枝を探している。
箒やマントをどこからともなく出してしまう楼蓮がおとなしく枯れ枝探しに付き合ったことは意外だった。楼蓮の話を聞くと、箒やマントは無から生み出したものではなく、しまっていたものを取り出しただけだったそうだ。
こんな事ならば薪も買っておけばよかったと文句を言いつつ手伝ってくれている。
「楼蓮と吾月たちはどんな知り合いなの?」
「あら、吾月から聞いていませんの?」
碑透は首を横に振り、合流する人がいるということさえ今日聞いたことを答えた。案の定、楼蓮はこれだから男は…とため息をついた。
楼蓮の根強い女尊男卑はいったいどこから来ているのだろう。
「碑透様は吾月の双子の姉はご存知かしら。…その様子だとご存知無いようですわね。もともと、レジスタンスを作ったのは姉の四葉でしたの。私は四葉の学友のようなもので…親友でしたわ。今でこそ双絶の魔女だなんて言われていますけど、四葉がいた時は、彼女を含めた三人で三大魔女って言われていたんですのよ。」
吾月に姉がいたことにも姉がレジスタンスを作ったことにも驚いた。
家族がいないわけがないことは分かっているが、大きな屋敷で沢山の人々を従えて暮らす吾月には家族の影が一つもなかった。
レジスタンスを作った姉は吾月に押し付けて蒸発でもしてしまったのだろうか。
「吾月からは言わないと思いますので、わたしから申し上げてしまいますが…。吾月の家族は吾月以外皆惨殺されているんですの。五年ほど前でしたわ。」
(惨殺…。)
不穏で、日常では聞きなれない言葉につい身構えてしまう。
「それは…神殿ってところに?」
「そう…ですわね。当時、レジスタンスのリーダーをしていたのは薄茜の国の一人娘…ということになっていましたの。」
「え?一人娘?」
思わずといった様子で、碑透が口を挟む。
「よくある話ですわ。薄茜の一族は代々娘が生まれて後を継ぐんですのよ。男児が生まれるのは禁忌で…病弱に生まれた吾月は隔離されて育てられていましたの。私は四葉から聞いていましたが、知るものはほとんどいなかったはずですわ。」
「そう…なの…。」
ようやく、吾月がレジスタンスをしている理由が腑に落ちたように思えた。
「隔離といっても家族が吾月をおざなりにしてたわけではないんですのよ?四葉は吾月のことを大事に思っていましたわ。もちろんご両親も。」
言いながら、楼蓮は枯れ枝を拾い上げる。拾い上げた枝をくるくると回すと枝先が明るく光った。周囲はすっかり陽が落ちている。
「ぺらぺらと話し過ぎてしまいましたわ…あとは、機会があれば本人から聞いてみるといいと思いますの。」
にっこりと笑うと、楼蓮は碑透に灯りがついた枝を渡した。
「すっかり暗くなってしまいましたわ。足元に気をつけてくださいませ。」
「姫さんたち随分遅かったな。」
戻ってきた碑透たちの顔を見るなり、態狸が声をかけてきた。態狸の足元では既に火が起こされていた。
「あら、手際が良いこと。褒めてさしあげますわ。」
実際、態狸は料理の手際が良かった。漂う香りから味付けの良さがうかがえる。食べるのが得意なことは知っていたが、作る方も得意なのだろう。
「あれ?吾月は?」
周囲に吾月の姿はなかった。態狸と共に野営の準備をしていたはずだ。拾い集めてきた沢山の枯れ枝を置き、もう一度周囲を見回す。
「吾月は周囲の安全確認と結界を張りに行った筈だ。姫さんは結界で守られてっからな。居場所は分からない筈だが、獣やら盗賊やら何がいつ来るかわかんねぇしな。」
「あら、そんなもの私がちょちょいのちょいで張って差し上げましたのに。」
「ちょちょいのちょいが出来るやつが戻って来ないから張りに行ったんだが…。」と、態狸がボソボソと呟いたが、幸い楼蓮の耳には届いていないようだった。
「ほかに何か手伝う事はある?」
「うーん。そうだな。じゃぁ馬の手入れを頼めるか?」
「馬…手入れってなにをすれば良いの?」
「あぁ、とりあえずタワシで足を洗ってやってくれるか?と、その前にブラシで体の汚れを払ってやったほうがいいな。」
態狸に言われてバケツとたわしとブラシを受け取る。たわしで擦ったらいたくないのだろうか。
手伝いを申し出たは良いが、もちろん馬の世話なんてした事がない。少し不安になりつつも手渡された道具を見つめる。
「碑透様はそんなことなさらないで、男どもに任せてしまえば宜しいのに。」
どこから用意したのか、楼蓮は洋風の優雅な椅子に座ってティーカップに入った紅茶をすすっていた。
「いいの。何かしていたくて…。行ってくるわね。」




