010 封じられた力
コンコンコン
吾月はまだ寝ているだろうか。そもそも、部屋にいるのだろうか。不安に思いつつも、夜遅くに部屋の扉をノックした。
態狸と街に出てから部屋で考え込んでいた。鳴月と話している時に持った漠然とした不安。相談できるのは誰をおいても吾月のように思えたからだ。
この世界にきて碑透の力に何か変わった所があるようには思えなかった。吾月は、神力を使うことに慣れてから、どうするか考えれば良いと言ってくれた。神力をどうすれば使えるのか分からない。そもそも、そんな力が自分にあることすらも疑問に思えていた。
「どうぞ」と言う返事が聞こえ、部屋に入る。碑透の顔を見ると吾月は笑顔を見せてくれた。朝に会った時と同じように、執務机で仕事をしていたようだ。
最初の印象から吾月は大人びていると感じていた。それでも、そう歳の変わらない吾月が執務をこなしている様子は異様に映った。今日までも十日間缶詰で仕事をしていたはずだ。吾月の年頃の少年がするべきことには思えない。
「相談があるの…姫神子の力のことで。」
忙しい吾月に相談をするのは悪いと思いつつも、他に頼る気にはなれなかった。
「姫神子の力ってなんなのかしら…。吾月の言う力なんて全然感じないの。」
ぽつりぽつり、不安を込めた言葉はゆっくりと口から溢れた。吾月は続く言葉を待っているのか何も答えてはくれない。
「心配なの。本当にこの世界にいるべきなのは私であっているのかしら。ちゃんと何かできるようになるのかしら…。」
元の世界に戻りたいかと聞かれたら、是とは即答できない。まだ乗り越えられない罪が残っているように思えた。
この世界にいれば、麻痺したように元の世界のことを考えずにいられた。確証はないが、ここで何かを為すことが出来れば、少しは罪悪感が消える気がした。だが、本当にこの世界で何かが出来ればの話だ。現実は甘くないのかもしれない。元の世界にいた頃と同じように、何も変わらない自分にうんざりしていた。
不安そうな碑透を見て、吾月はため息をついた。しかしそれは、呆れや幻滅したようなものではなく、申し訳ないといったように気遣うものだ。
「すまない、不安に思っていたんだな。」
吾月はなにか迷っているような表情をした。少しの沈黙のあと、ドアをノックする音が聞こえた。吾月が、ドアに目を向けて、どうぞと入室を促す。
「失礼します。」
入ってきたのは燈夜、その後ろに誰かが居るようだ。
「お話中のようですね。お客様がお見えになっているのですが…。」
吾月が頷くと、燈夜の後ろにいた人物が会釈をして一歩前に出る。その人物、鳴月は吾月と碑透をそれぞれみてにこりと微笑んだ。
「吾月様、姫神子さまもお揃いだったのですね。どうしてもお話ししたいことがあったので、夜分も遅くに無礼とは思いましたが…。」
吾月を見ると、驚いた顔をしているように見えた。呼んでいた訳ではなく、突然の訪問だったのだろう。
「貴女からお越しいただくなんて珍しいな。しかもこんな時間に…。何か問題でもありましたか。」
鳴月は、吾月にとって特別な存在なのだろうか。玲郭の前で話した時ほど畏まってはいないが、吾月にしては丁寧な口調だ。
「そうですね。問題がございます。姫神子さまの体調も落ち着かれて、吾月さまの手も落ち着かれたようなので、お伝えしたいことがあって参りました。少し調べ物をしておりまして…このような時間になってしまいました。」
そう言うと、鳴月は碑透に目を向けた。その先には、日中に鳴月から受け取った勾玉がある。
「姫神子さまの神力は、何者かによって封印されているようなのです。」
その言葉に、碑透と吾月は顔を見合わせた。




