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未来神話  作者: 相木 夕依
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009 薄茜の街並み


「またおいでくださいませ」という声に見送られ店を出た。外では態狸が仁王立ちで立っている。碑透に気づくと「もういいのか?」と声をかけてきた。


「そんな風に立っていたら営業妨害よ。」


 ため息混じりに言葉が出る。お店の妨害になっていたとしたらと懸念したが、碑透にとっては人が来なかったことで安心して話すことが出来たように思える。


「ここのお店の子、私の怪我を治療してくれた人だったみたい。態狸、知ってた?」


 聞くと、態狸は気まずそうに目を逸らしながら頷いた。知っていたのなら教えてくれればよかったのにと訴えようと思っていた。しかし、態狸の苦い顔をみてやめた。ふと、お店に入る時にもそんな表情で外で待っていると言っていた事を思い出す。匂いに顔をしかめたというわけではなかったようだ。


「悪ぃな。ちょっと苦手な奴なんだ。…さぁ、姫さん他も見るだろ?行こうぜ。」


 追求されたくないのか言葉を続け、ずんずんと歩いて行ってしまう。態狸の歩幅に追いつけず、焦って小走りで追いかける。


 人を包み込むような暖かさを持った少女に思えたが、碑透の見た彼女は一面にすぎないのだろうか。態狸の様子を見ては聞くことができない。


「態狸!早いわ!」


 息を切らせてようやく大きな背中に追いついた。少しも悪びれた様子もなく態狸が「悪い、悪い。」と返事をする。


 態狸は護衛として碑透についてきていたはずだ。護衛が対象を置いて行っては意味を成さないだろう。人通は少なくないが態狸の大きな体は少し離れたくらいでは見失うことはない。そういう意味では買い物のお供として最適だ。女性の買い物に付き合わせるのは申し訳ないが。


 ペースを落としてくれたので、またゆっくりとお店を見て回る。特に欲しいものはないが、見ているだけで十分に楽しめる。


「姫さん、これ食ってみろよ」


 そう言って串を渡される。態狸の中で食べ歩きは、お行儀の悪いものではないようだ。

 串には四つ小さな丸い揚げ物が刺してある。見たことのないようなものなので、不安に思いつつもひとつを口に含ませた。態狸は「どうだ?」と、嬉しそうに聞いてくる。


「…美味しい…かも。」


 勝ち誇ったような態狸の顔を見て、つい意味深な言い方をしてしまった。正直に美味しかった。串に刺さっていたのは小さな丸いおまんじゅうで、それを天ぷらの衣で揚げてあるのだ。おまんじゅうと天ぷらの組み合わせが合うだなんて意外としか思えなかった。外はカリッとしており、中はしっとりしたこし餡。


 碑透の元いた世界でも揚げまんじゅうというものはあったが、こんな食べ物は見たことがなかった。もとの世界にも、どこかには存在しているのかもしれない。


「これはなー天ぷらまんじゅう串っつってオレの好物なんだ。揚げたてだからうめぇだろ!すげぇ意外だと思うが、この天ぷらまんじゅうは蕎麦にもあうんだぞ!」


 ガハハと豪快に笑いながら、態狸も天ぷらまんじゅうを二ついっぺんに頬張った。ずいぶん大きな口だ。好物というだけあって、とても美味しそうに食べている。


 その後もこれもあれもと、美味しい物を紹介された。しばらく何も食べなくていいと思うくらいにお腹いっぱいになっていた。



 どれ位お店を見て回っただろう。いつの間にか空も暗くなり、道はたくさんの灯籠で照らされた。電気を使わない優しい明かり。


 吾月は、文明が神の手によって失われたと言っていたが、完全に失われたわけではない。吾月の屋敷には電気の照明が使われていたことを思い出す。しかし、街にあふれるほどには行き渡っていないようだ。道を照らす灯籠は幻想的に街を彩っている。


「さて、そろそろ帰るか」


 態狸の言葉に、現実に引き戻される。すっかり明かり無しでは歩けないような時間だ。屋敷に戻ったうが良いのだろう。


 吾月は疲れていたようだからまだ眠っているだろうか。この世界に来て初めての外出は思いの外楽しく思えた。


「そうね。付き合ってくれてありがとう。色々美味しかったわ。もうお腹いっぱいよ。」


 そう笑って答えると、態狸は嬉しそうに笑った。


「またうまいもん食いに行こうぜ。」

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