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39-15

イザベルとマリーナは考え込んでいる。

「まずいな」

「ええ。サバーカが我が国に来ているのですね」

クロエは話しに付いて行けない。

サバーカとは何だろう。

「いや、好都合では無いか、なあ、ヴラド」

アランが挑発的な眸でヴラドを見た。

ヴラドは黙して下がる。

しかし、その湖の水底のような眸がゆらゆらと怪しげな光を称えている。

「まあ、良い。アラン、クロエ、今宵はご苦労であった。近く、今回の件を正しく広める。王にそこまで話しをさせると襤褸が出るからな。今回の計画に関わった者の名を伝えてくれ。貴族平民問わずだ。国を救った功を評する場を設けよう」

イザベルの言葉にアランとクロエは深く頭を垂れた。














そして日は流れ、王城の王の間———。



「前へ」

宰相が、まずはナタン、エマ、モネの名を呼ぶ。

三人は粛々と進み、玉座の前に跪く。

宰相が功を読み上げる。

「貴殿らは、此度の麻薬に関わる貴族の汚職を暴く助けをし、アルトリア王国の威厳を保つ大きなる助けとなった。よって、第四功とする。

ナタン・リシャールとエマ・リシャールにはそれぞれ男爵の爵位を与え、カンクール領と、ドワイアス領をそれぞれ授ける。モネ・ジラール伯爵には新たに子爵の位を与え、トラスニタ領を与える。貴殿らのより一層の活躍を期待する」



「謹んで、頂戴致します」

三人は深く頭を垂れた。

エマは動揺からか小刻みに震えている。


「続いて、ロベルト・ランベール、その妻マリー、

前へ。

貴殿らは此度は危険を顧みず、我が国に泥を塗った者らに屈する事無く、調査に関わってくれた。

本来であれば、マリーにも爵位を授ける所であるが、本人の意思により、その褒賞は夫ロベルト・ランベールに合算する事になった。

よって、ロベルト・ランベールの爵位を伯爵に上げ、アトレイユ領と、金貨二百枚を与えるものとする」


「ちゅ、ちゅちゅしんでお受けしましゅ」

動揺の余りロベルトは口が回らない。


「第二功、クロエ・ルソー。前へ。

貴殿は、此度の件で、真相を解明すべく、皆を纏め、重要な情報を的確に使い、粛清の手助けをした。

本来であれば、矢張り爵位を授けるべきではあるが、本人の希望を持ち、ガネーシュ領並びに、トルメリア領を与える。

功に対する不足分は金貨二百枚で埋めるものとする」


「有り難き幸せ」

クロエは頭を下げながらもハラハラしていた。


クロエが一歩下がると、次の番が始まる。


「最後に、第一功!

アラン・ルソー伯爵、並びにランベール家使用人マーサ!前へ」


王の間がどよめきに包まれる。

クロエは胃の中身を総てぶち撒けてしまいそうな程緊張している。

なんなら自分が呼ばれた時よりも緊張している。

冷や汗がダラダラと伝ってくる。


「まずは、アラン・ルソー伯爵。

此度の件で、貴殿の妻であるクロエ・ルソーが集めた情報を元に、罪人を捕らえるべく、私財を投げ売り一網打尽にする手筈を整えた。

そして、クラタベルタとの同盟の締結に奔走した功を評し、第一功とする。

アラン・ルソー伯爵は、伯爵位に加え、侯爵位を新たに授ける。

シャルネ領と、金貨五百枚も与える」


アランは無言で平伏した。



「続いて第一功、マーサ。

貴殿は此度の事件に関わる様々な情報を自らの手足を使って収集し、そなたが仕えるランベール家、ひいてはアルトリア王国全体を救う多大な功績を納めた。

よって第一功とする!

平民の第一功授与はアルトリア王国始まって以来の快挙である。

爵位と領地を与えたい所であるが、年齢を加味すると共に、本人の希望に則した物を与える」


マーサはぽかんと口を開けて中空を見ている。


「……はっ?……えっ?何これ、嘘、これ褒美?ほんと?えっ?いいの?ほんとに?間違いじゃないの?」

宰相は隣にいる宰相補佐に再三確認を取る。

暫くの間の後に咳払いを一つ。


「ほ、褒賞は、ぐふっ、げふ、げふ、い、芋を十年分。ん、んふぅ、それからドライフルーツ十年分、マーサの住まうランベール子爵邸にマーサ専用の、んふふ、汲み取り式便所の設置を褒美とする。んふ、んふふ」


宰相は笑いを必死に堪え、顔を真っ赤に読み上げた。

なんと間抜けな物を強請ってしまったのだ、とクロエは頭を抱える。

玉座に座る国王はキリッとした顔でぶるぶる震えている。

笑いを我慢しているのだ。


そしてマーサはといえば、宰相の言葉に何も反応を示さない。

仕方なく隣に立つアランが肘で小突くと、視線をゆっくりと宰相に合わせた。


「便所は大事ですだ。芋ー、食うと腹ぁ、下してしまうんです。わしの腸、健康ですけん」


もう駄目だった。

荘厳な王の間に、下品な笑い声が響いた。

誰も彼もが腹を抱えて笑っている。

それはけしてマーサを愚弄した笑いでは無い。

単純におかしかったのだ。


クロエも、呆れながらも笑った。


それは春の陽射しを彷彿とさせる晴れやかな陽だまりの笑顔だ。


もう時期、春がやって来る。





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