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33-9


それから更にカミーユは爆弾発言をする。


「な、な、なんとー!その手紙がこちらです!!」


ヒラリと一通の封筒を懐から取り出す。


何の変哲も無い白い封筒だ。

その手紙を掲げてカミーユは得意満面だ。


「カミーユ!何て無茶をっ」

クロエが叱り付けるとカミーユは首を振った。

「この手紙を受け取ったのは、マーサよ」

そう言った。







それは偶然だったそうだ。


カミーユとマーサは貧民街での聞き込みを終え、下位貴族の邸宅が並ぶエリアで聞き込みを開始した。

カミーユが精力的に動き回る側をずっと付いて回っていたマーサは、バテた。

老人に少女のお守りは大変なのだ。

だが、カミーユとマーサの関係からすると、大概世話をされているのはマーサではあるのだが。

カミーユが、持ち前の愛らしさで道行くご婦人にさり気なく聞き込みをしているのを眺めてマーサは地べたに座り込んだ。

暫く経って戻らないカミーユに飽きたマーサは、寝っ転がった。

それでもまだまだ帰って来ないカミーユを、通りのタイルの目地に詰まったちり屑を数えて待った。

指先でいじいじとちり屑をほじくり返して待った。

なんという事でしょう!

いじけた浮浪者の出来上がりである。

匠的センスで汚れた五十年物の肌着がいい具合に見窄らしさを演出してしまったのだ。


寝そべった事により、老いた身体が悲鳴を上げ始めた頃、マーサの目の前に磨かれた革靴が現れた。

そして男はマーサに言った。

———金が欲しいか。

と。

マーサは丁度腹が空いていたので、金が欲しいです、と答えたそうだ。


すると、男から手紙を託され、今から言う宿屋に届けるようにと言付けられたらしい。


また欲しければ、同じようにここに来るように、とも言われたそうだ。


マーサは暫くぼんやりと手紙と銀貨を見比べていた。


何故自分の手の中に、それらがあるのか忘れたようだった。


男の気配が完全に無くなった頃、一部始終を見ていたカミーユに手紙を取り上げられ、その手紙が今ここにあるという寸法だ。



クロエは話しを聞いて頭を抑えた。


同じく両隣のエマとナタンも頭を抱えている。

ランベール家はこれだから堪らないのだ。


「まあ、いいわ。取り敢えず開けてみましょうか」

クロエはカミーユとマーサを叱る気力を失って、封筒を手にした。


中身は一通の紙切れだった。


そこには角張った荒々しい筆致で以下のように(したた)められていた。



親愛なる友人へ


北国ではまだまだ白い雪が降るそうですね。

雪が私も欲しくなりました。


でも今はワニの飼育で手一杯なので、雪は少しで結構です。

もし送ってくださるのなら、ワニの数も以前の倍でお願いします。


ご支援に感謝致します。


貴方の友人より




一見して何かの含みがある。

隠語を使っているようだ。

「ワニは、例のクスリだな?では、雪とな何だ?これで何も無いとは俺には思えないぞ?」

ナタンが首を傾げた。

「それも覚せい剤の隠語じゃないかな?確かそうだった気がするよッ!うちの救済院のあらゆるおクスリを試した頭パーの老人が言ってたモン」

モネが補足した。

「宛名も送り主の名前も無いし、はっきりと書かれてないから証拠としては不十分かしら」

エマが難しい顔をした。

「でも、また同じシチュエーションがあったら、その謎の男をつければいいんじゃないかい?」

ロベルトが珍しくまともな事を言うと不安になる。


クロエは振り返って背後に立つヴラドを見る。

相変わらずの無表情だ。

「尾行、お願い出来るかしら?」

クロエが聞くと、ヴラドは紳士らしく礼をした。


「仰せのままに」




その日は、クロエとナタンの話しにモネが補足を入れる形で昨日の報告をした。


大した内容では無かった為、すぐに解散となった。


マーサの浮浪者大作戦(ロベルトが命名)は、翌日決行の運びとなった。

マーサとヴラド以外は、各々の屋敷で待機する事となる。

その間、モネは知り合いの十字院の医者に話しを聞いて来てくれる事を約束してくれた。

クロエは急ぎ、アランに連絡を取る事にした。

ルソー伯爵邸に戻ると、家宰のアルバートに相談し、現在アランが居るであろう場所に早馬を出して貰う。

アランは国王と一緒にいると言っていた。

国で禁止されている違法な薬物が衛兵隊を中心に出回っているとなれば、流石に無視出来ないだろう。

直接耳に入れて貰えると何かと支援などを期待出来ると考えたからだ。




そして、迎えた決行日である———。







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― 新着の感想 ―
[一言] マーサはこのための・・・ うん。巧みな伏線です。
[一言] …………………………… なんか。 いろんな意味ですげえな、マーサ。
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