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沈黙が支配していた室内にボーン、ボーンと置き時計の音がなった。

いつの間にか夕刻になっていたようで、外を赤い夕日が覆い始めていた。

「いけないッ!」

モネはそう言うと、手を叩く。

間もなく給仕の者がカートを引いて入室してくる。

あっという間に卓上を色とりどりの料理が並ぶ。

ローストチキンにミートパイ、鴨のバルサミコソース、兎のマスタード焼き、牛の赤ワイン煮、海老のテルミドール、臓物のパテ、実に不健康そうな食卓の風景にクロエとエマは呆気に取られる。

ナタンは慣れた様子か、給仕に注がれたワインを呑んでいる。

「晩餐のお時間ですか?出直しましょうか」

通常の晩餐よりもかなり早い時間である。

「晩餐ではありません。中食ですよッ。医者は体力仕事ですからねッ。僕は勝手にやってますから、そちらも勝手にどうぞ。あ、食べますぅ?」

ガツガツと食事を平らげながらモネが言う。

「い、いいえ。結構よ」

クロエは給仕がワインを勧めるのをやんわり断る。

「そういえば、なんだったかな?衛兵隊当てにならないとかなんとかだったかなッ?」

モネが怒涛の勢いで食事を吸い込みながらナタンを上目遣いで見る。

「そうみたいだな。マクレーン隊長がどうやらこの件に一枚噛んでるらしい」

ナタンはグラスを高く持ち上げ、給仕が灯したランプの灯りにワインを透かしてくるくると回している。

「あらら。そりゃ大変なんだッ」

モネの意識は食事に集中しているようで、赤々としたソースを絡めた鴨肉にかぶりついた。

かぶりついたところで停止し、口を離した。

「もしかして、それって最近衛兵隊を追い出された平民のワニ中毒者に関係ある?」

「なんですって?」

クロエが身を乗り出す。

「勿論、救済院じゃないよ?うちにはもっと貧乏な人しか来ないからさッ。でも知り合いの十字院の医者が言ってたんだよね。完全な中毒者になってから宿舎を追い出された衛兵が何人か運び込まれてるって。貧民や、普通の平民よりも人数が多いから何か衛兵隊であったのかなって言ってたヨン」

間抜けに大事な事を言った後に、モネは再び肉にかぶりついた。

「衛兵隊内部で蔓延していると見て良さそうだな」

ナタンは渋い顔をする。

「お兄様、まず間違いないんじゃない?」

エマがナタンを見る。

ナタンは首をすくめた。














その日は、それで解散となった。

翌日に改めてランベール家のタウンハウスに集合しようという事になったからだ。

クロエが乗る馬車がランベール家に着くと、矢張りヴラドがエスコートしてくれた。

まったくの無表情で、何を考えているのかわからない。

しかし、妙に育ちの良さを表す立ち振る舞いをする。

唯の傭兵崩れではない。

アランはそこの所を分かっていて雇っているのだろうか?

素性の怪しいヴラドを即決で雇い入れたと聞いた。

きっとアランは何がしかの思惑があるのだろうが、クロエは詳しくは知らない。

「ヴラド、今日はありがとう。明日もお願いね」

クロエがタラップを降りながらいうと、ヴラドは頷いた。

「はい、奥様」


実はクロエには今日のヴラドの行動で一つだけ気になった点がある。


リシアの名が出た時だ。


凍て付くような濃い殺気がほんの少しだけクロエの首筋に刺した。

極々近い、背後にいなければ感じられない程度であった。

何かある。

そう思わずにはいられなかったのだ。


クロエはルソー伯爵邸に着くと、アンリに手伝って貰い、すぐに湯浴みした。

ここ数日の忙しさで疲れた身体の脱力感は酷く、アンリを心配させた。

夕食もそこそこに、アランと普段使っている主寝室では無く、扉続きの自分の寝室に引っ込んだ。


アランが居ない主寝室の広く大きな寝台は、酷く冷たい。

その絹のシーツの波間にアランが居ないと寂しさが際立つようで、クロエは苦手だった。


倒れ込むように自分の寝台に横になると、アンリが上掛けを掛けてくれた。

まるで子どものように甲斐甲斐しく世話を焼かれると、くすぐったい。


アンリが、おやすみなさいませ、と言ってランプの灯りを小さくすると、寝室から出て行く気配がした。


一息吐くと、あっという間に思考は流される。


暗い寝室へと沈んでいった。



アランは、どうしているだろうか。


今は隣に居ない想い人の夢に抱かれて眠るのだ。






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