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成金伯爵が私を愛する訳  作者: 叶 葉
婚約時代編
3/40

3

食事は粛々と静かに進んだ。

偶にアランがクロエに話しかける以外は本当に静かだった。

そんな最中、晩餐室の壁に立つ数人のメイドの内の一人から殺気のこもった視線を時折感じた。

美しい豊かなブロンドを綺麗に纏めた目鼻立ちの整った娘だった。

クロエはピンときた。

———ははあ、あの子はルソー伯爵のお手付きのメイドね?

そうかと納得すれば早かった。

アランは、何がしかの理由で結婚をしなければならず、あのブロンドの娘に恋慕している為、困っていたのだ。

伯爵ともなると、市井の娘をおいそれと迎える事は出来ないのだ。

それで此度のクロエとの婚約だ。

貧乏子爵家ならば、金で頰を叩けばいいだけだ。

あとは、ブロンドの娘を正妻のように扱おうが、他所に囲おうが、自由自在という訳だ。

本命がいるから誰でも良かったのだろう。

しかし、余りにも阿保な令嬢でも困るのだろう。

有事の際には使える娘でなければ困る。

社交の場では必ず本妻を同伴しなければいけない事があると社交界に出た事のないクロエも知っていた。

名ばかりでも、この婚約が成されればクロエは本妻だ。

そこそこに頭が切れて、アランに関心が無く、金でぶっ叩けば言う事をきく。

そんな相手が必要だったのだろう。

まさにクロエにぴったりな役割のように思えた。

府に落ちれば、今までのアランに対する底知れない嫌悪感もなりを潜めた。

クロエを丁重にもてなしたのも、一種の賄賂的なものなのだろう。

案外分かりやすいアランの思考回路に安心すると共に、これだから金でものを言わす人種は理解したくないとも思うのだった。

食事がひと段落着いた時。

件のブロンドのメイドが淹れた茶を飲みながらアランは口を開いた。

「料理の味はどうだ?」

頭の中もスッキリしたクロエは、剣のない晴れやかな笑顔を浮かべてアランに返事をする。

「ええ。大変美味しかったです」

クロエの晴れ晴れとした表情を見ると、アランは今までの笑みを引っ込め複雑そうな顔をする。

何か気に入らない事をしてしまったか、とクロエがアランを伺う。

「そうか」

矢張り複雑そうなアランに、クロエは他人の、しかも大して好意の無い相手の顔色を伺うなんて面倒だと思った。

滲み出るクロエの面倒臭そうな表情を見たアランは一瞬にして上機嫌になった。

クロエは悪寒を感じざる得なかった。

なんだか変な男と縁が出来てしまったな、とクロエは困った。

これから愛人ありきといえども、この男に金貨百枚で身を捧げてしまったのだ。

勿論クロエにとっても金貨百枚は大金だ。

庶民とさして変わらぬ生活水準のランベール家であれば、金貨百枚で贅沢さえしなければ十年は領地収入と併せて食うには困らない。

有り難い事ではあるが、クロエは矢張りこのアランという男が好きにはなれなかった。

いちいち鼻につくのだ。

「伯爵様、父の手前では言えなかったでしょう本音をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

クロエが冷めた眼差しを向けると、アランはきょとんとした顔でクロエを見た。

「本音?一体何の事だ?まあ、いいだろう。シガールームへ行こう。茶を飲みながら一服するのが食後の習慣なのだ」

アランは立ち上がり、シガールームに続く扉を開けた。

アランは愛煙家らしく、晩餐室の隣にシガールームが続いていた。

二人が腰を落ち着けると、今度はアンリが新しく茶を淹れてくれた。

そして一礼するとアンリはシガールームを退出した。

クロエとアランしか居なくなったシガールームで、アランは小さなテーブルからヒュミドールを取り出した。

ヒュミドールを開け、葉巻を取り出す。

シガーカッターで葉巻の先端を切り落とすと、シガーマッチで先端を炙りだした。

「それで、なんだったかな?私の本音が聞きたいとか言っていたかな」

シガーマッチでゆっくりと葉巻を炙る様を見つめながら、アランはクロエには視線を向けずに話した。

「ええ。そうなんです。金で買われた以上、私も心構えが無いとは言いません。しかし、真実を告げない雇い主は正直不気味ですから」

アランはたっぷりと火で炙ってから、口に葉巻を差し込み、豊かな香りを味わう様にゆっくりと一口吸った。

室内に充満し始めた甘ったるい煙の香りにクロエは蒸せそうになった。

顰めっ面を作るとアランは目を細めて煙を吐き出した。

「真実……真実、か。初めから言わなかったかな。私は友人の、そう、リシャール家の長男と親交があるのだが、あれは二月と十四日前だ。まだ夏の暑さを含んだ様な秋の口に招かれて彼の屋敷を訪れた時だ。君は彼の妹君と友人だな?彼女に招かれて茶を飲む君を何となくリシャール家のシガールームの窓から眺めていたのだ。その時クロエは、淡いラベンダー色の襟の詰まったドレスを着ていたな。髪をこう、アップにしていたな。君はその時を覚えているか?」

アランが葉巻を持っていない方の手で後ろに流した髪を軽く上げると逞しい男の首が露わになり、クロエはギクリとした。

クロエは、リシャール家の娘エマとは確かに友人だ。

月に一度か二度はどちらかの家で茶を飲む。

確かに秋口にはリシャール家を訪れて茶を飲んだ記憶があるが、正確な日付までは分からない。

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