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クロエは茶を一口すすると、エマとナタンにここ数日で起きたランベール家に関わる事件の全容を説明した。


エマとナタンは、それぞれ黙して話を聞いてくれた。

クロエの話しを整理するように、時々思案するような表情を浮かべる以外は顔色は読めなかった。

表情の作り方は似ているが、顔立ち自体は似ていない兄妹だ。

サミュエル、ナタン、エマの母は違う。

異母兄弟だ。

リシャール卿は、最初の夫人との間にサミュエルを成し、すぐに亡くなられた。

元々身体の弱い方だったが、サミュエルを産んでから、途端に儚くなってしまった。

次いで、嫁いできたナタンの母はサミュエルの母の従姉妹に当たる女性だが、出身は裕福な商家の娘だ。

結局ナタンの母はナタンを産んだ後、子宝には恵まれなかった。

ナタンの母は、貴族出身では無い為、屋敷のあれこれや貴族女性との付き合いに僻辟易し、第二夫人を娶るようにリシャール卿に勧めたのだ。

そしてやってきた第二夫人との間にエマが産まれた。

当初、ナタンの母とエマの母の軋轢が心配されてはいたものの、歳の近い二人は案外姉妹のように仲良くやっている。

度々二人が庭で茶をする姿もよく見るし、時にはエマとクロエも招かれたりしたものだ。

顔立ちは違う二人ではあるが、エマとナタンは仲がいい。



話しを一通り終えると、

「クロエ……大変だったわね」

エマが労ってくれた。

「そういう事なら力になれるかもしれないな。俺の友人に貧民街近くの救済院で医者をしている変わり者の貴族がいる。そいつが最近出回っているクスリで暴れて運ばれる者がいると最近愚痴っていたのを思い出した。十中八九関係があるだろうから、詳しく聞いてきてあげよう」

ナタンが次いで言う。

「一緒に行っては駄目ですか?ナタン兄様」

クロエが問うと、ナタンは思案顔を作る。

「暴れている者もいるというし、余りおすすめはしたくないな」

「待ってるだけは性に合いません」

「しかし、うーん……」

「三人で行きましょうよ。でも、場所は救済院じゃなくて、友人の貴族の方のお宅ならどうかしら?」

エマが取り成すように提案する。

「それなら、まあ、いいか。相手の都合もあるだろうから、連絡をしてみよう。伯爵のタウンハウスに追って日程を知らせよう」

ナタンは頷きながら、そう言った。











クロエがルソー伯爵邸に帰ると、久しぶりに見るアランがいた。

「クロエ、君、また何か企んでいるらしいじゃないか」

久々に会った夫はクロエにそう言った。



結局、その日にアランにも内容を説明する為に本日二度目のランベール家の顛末と、リシャール邸で決まった事を伝えた。


「また君は……、凄い所に飛び込んだな。いや、それは半分は私の所為でもあるのだな?だが、クロエ。どうか危ない事はしないでくれ」

アランはクロエの前に跪いて、揃えられた両手を握った。

「でも、ナタン兄様と約束してしまったから、救済院に勤める方には会いに行きたいのよ」

お願い、とクロエはアランの顔を覗く。

「分かった。その貴族にナタンと会いに行くのは仕方ないが、どうかナタンの言う事を良く聞いて。そして絶対に離れないでくれ。それから我が家から一人連れて行ってくれ。きっと役に立つ。本当は私が一緒に行きたいのだが、明日から暫く屋敷を空けなければいけない。陛下に召されてしまったのだ」

アランが懇願するのでクロエは仕方なく頷いた。

アランが指を鳴らすと、一人の男性が入室して来た。

クロエはその人物を知っている。

アランが雇った傭兵上がりのルソー家私兵だ。

名は、ヴラドと聞いた。

ヴラドは静かに黙礼した。

寡黙な男性であるらしく、彼が話す所をクロエはまだ余り見かけた事がなかった。

ヴラドは二十代前半の、若く、しなやかで屈強な身体を持っている。

長めの前髪から覗いた眼光は鋭く、肌は病的なまでに白い。

クロエよりも頭二つ分高い大きな身の丈をすっぽり隠すような外套を室内でも纏い、襟を立てている。

表情の無い顔でじっと黙礼を続けていた。

まるでお伽話に出てくる吸血鬼のようだとクロエは思っていた。

伏せた睫毛が長く、その白い肌に影を作っている。

なんとも読めない男だと思った。

「ヴラドはなかなか使える男だ。私の代わりに側に置いておくがいい」

アランはそう言うと、クロエの頰をひと撫でした。

そして立ち上がると、クロエに覆い被さるように口付けをする。

「結婚して、君をやっと手にしたと思ったのも束の間。君と過ごす時間を取れないのが目下の不満だ。君の為に金を作っている筈なのに、君との時間が増えないなんて本末転倒じゃないか?」

「ランベール家に帰ってつくづくアラン様の有難さが身に沁みたわ。貴方、結構頼りになるわよね。お金も持ってるし」

「ふふ、そうか?君は私を乗せるのが上手いな。更に頑張って金を作らなければ。……ヴラド、彼女を頼んだぞ」

ヴラドは一度頷くと、影のようにクロエの背後に付き従った。

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