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27-3


暫くの沈黙が場を支配した。


そこに、ばふぅっと場違いな音が響く。


「マーサ!また芋の盗み食いをしたな?!」

ロベルトが非難の目をマーサに向けると、マーサは、あちゃーという感じで口元を覆った。

覆って欲しいのは尻だ!とロベルトはマーサに抗議した。

そんな問題ではない。


「兎に角、嫌がらせを受けているなら、そのトレヴァンとかいう男の弱味を握れないかしら?」

クロエが場を仕切り直すようにコホンと咳をしてから、そう言った。

「クロエ、ルソー伯爵夫人になって思考が悪どくなったな?いいぞ、いいぞー!」

ロベルトは、やや嬉しそうに興奮しだした。

「でも、弱味を握ってどうするつもりなの?クロエ」

マリーは自ら茶の支度を始めて、マーサに茶を渡しながら言う。

マーサは使用人だが、用事を言いつけようとすると持病が出る給金泥棒だ。

「それを手綱にして上手く操るか、あるいは隊長の職を辞するように仕向けて権力を取り上げられるといいわね」

クロエが顎に手を当てながら言う。

「クロエには悪の才能があるな!父様びっくりだ!」

ロベルトは更に興奮する。

「何かないのかしら?分かりやすいものでいくと、ギャンブル狂いで借金を抱えているとか、違法薬物を所持しているとか、売人紛いの事をしているだとか……。そこ辺りだと追い込みやすいんだけど」

マリーがクロエに茶を渡す。

「そういえば、お嬢様。ゾイトの奴めが最近怪しい男と度々会っていたのを見ました。その男の名前が、えーと、確か、何だっただかなー」

マーサが言う話しはいつもあやふやだ。

「マクレーンだんしゃくの使いよ。そう言ってたのを私聞いたわ!」

カミーユが元気良く言った。

「それは確かなの?」

クロエが聞く。

「うん。お姉様の結婚式の後くらいに兄様が軍学校に行った辺りからだと思うわ。ゾイトは兄様の脱ぎたてのパンツが手に入らないってひどくいらだってたわ。それくらいに、マーサと庭で蟻の巣に水を満たす遊びをしていたら門戸の手入れをしていたゾイトにマクレーンだんしゃくの使いだって人が話しかけたの。ねっ?マーサ」

何か色々聞きたくない言葉が次々とカミーユの口から出てきたが、クロエは黙殺した。

「私とマーサは、ゾイトの尾行ごっこをそこから始めたんだけど、その人が、ゾイトに言ったのよ。脱ぎたてのパンツよりも気持ち良くなれるものがあるって。ゾイトは初め、そんなものある訳ないって凄い剣幕で怒ってたんだけど、その人が、私のパンツをあげますから、試してみませんか?ってゾイトに言ったのよ」

マーサはカミーユの話しを黙って頷きながら聞いているのかと思ったが、船を漕いで寝ているだけの様だった。

老人に込み入った長話は付き合い切れないのだろう。

「ゾイトは、脱ぎたてならと言って門戸の手入れを放ってその人に付いて行っちゃったのよ。追いかけてみようかと思ったんだけど、マーサが蟻の宝石箱やって大騒ぎして蟻の巣から離れないからその日はやめたの。でもその日からゾイトはちょっとおかしくて、なにかあると、僕に手に入らないパンツは無いってふわふわしてるから、ゾイトの尾行ごっこを続けたの。そしたらゾイト、捕まっちゃった」

カミーユが一気に語った内容に最早クロエは白目を剥いている。

「その話が本当なら、うち、やばくないかしらー?」

マリーがのんびりと言う。

「やばいって?」

ロベルトが興奮の眼差しをマリーに向ける。

「だってうちの使用人のゾイト、多分それクロエが言ったように薬か何かを勧められたのよね?万が一うちの使用人から薬の使用が判明したら、うち、取り潰しじゃ済まないかもしれないわよ?絶対うちの所為にされちゃうわよ」

マリーの言う事はもっともだった。

「マクレーン男爵からだっていう確たる証拠がないと本当にそうなり兼ねないわね。早めに動きましょう。アラン様にも相談出来るといいんだけど」

クロエは溜め息を吐いて、暖炉で赤々と燃えている薪を見た。


外では雨が降り出していた。

暗雲がランベール家を覆う。

間も無く降り出した雨は雷雨に変わる。

ランベール家を襲う波乱を象徴する様な雷雨は翌日の明け方まで続いた。














「カミーユ、ゾイトがマクレーン男爵の使いの男とよく行っていた場所はどこだったかしら?」

クロエは翌日、カミーユに聞いた。

「えーっと、宿屋よ。よく怪しい人が出入りしている裏通りの宿屋」

カミーユは思い出すように中空を見ながら言った。

ランベール家の王都でのタウンハウスは王都の中でも貧民街に近い場所にある。

ランベール家の領地は王都からさほど離れておらず、日帰りが可能な距離であるが、領地は木っ端のように小さい。

その領地には少しの領民と、田畑に使っており、ランベール家はタウンハウスを実質上の本邸として構えており、家族はそこで暮らしていた。

領地にも一応の屋敷はあるにはあるが、そのほとんどを解放しており、倉庫のような扱いになっている実に変わった貴族であった。

タウンハウスも、立地は悪い上に、王城のある煌びやかな場所からはかなり離れている為、アランに連絡を取る事は難しい事だった。

その為、クロエはアランに手紙を出す傍ら、自ら調査するべくカミーユに事情を更に詳しく聞く事にしたのだ。

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