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成金伯爵が私を愛する訳  作者: 叶 葉
婚約時代編
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それは数日前の事だった。


クロエが午後のひとときを刺繍をしながら過ごしている時だ。

何やら正門の辺りが騒がしいと出窓から顔を出すと、背の高い青年と目が合った。

男らしく精悍な顔立ちの青年は、クロエの視線に気付いた様に顔を上げる。

暫く視線が交差し、青年はにこりと微笑んだ。

これまた金のかかりそうな男だ、とクロエを思った。

青年は使用人に案内され、屋敷に入って来ようとしていた。

出迎えたアランが一礼すると、青年とアランは抱き合った。

何かイケナイ現場を目撃した気分になってクロエは出窓から離れた。

アランが客人を出迎えるなど珍しい事だが、クロエは何も知らなかった事も、おかしいと思った。

今朝アランと朝食をテラスで取った際にも何も知らされなかった。

それは、急な来客だという事だろう。


先程の青年は誰だろう。


その答えはすぐに分かった。



「クロエ、紹介しよう。私の姉の息子であるサイラスだ」

クロエはアランにサンルームに呼ばれた。

そこには先程の青年とアランが居た。

「初めまして、サイラス・クレマンです。叔父上がご結婚なさると聞いて伺いました。父が領地で療養している為、母も父についています。ですので私が代わりに参りました。遅くなりましたご無礼をお許しください」

青年は深く頭を下げて詫びを述べた。

「クロエ・ランベールです。私こそ、そうとは知らずにご挨拶遅れまして申し訳ありませんでした」

クロエも頭を下げる。

「私の実家関係とのやり取りはまだクロエには頼んでいないのだからクロエは謝罪する必要はないが」

「そうはいきませんよ、アラン様」

「むっ?そうか?」

「そうですよ。そういえば婚約披露パーティーでも不自然にルソー家の関係する方は呼ばれてませんでしたね?」

「あー、うん。金にならないからな。呼ばなかったな」

「まあ!」

「ランベール嬢、クロエ様とお呼びしても?」

「ええ、私もサイラス様と」

「叔父上の振る舞いはいつもの事ですのでどうかお心を痛めませんよう。叔父上は私の母が苦手なのです。祖父母……私の母と叔父上の父母にあたりますが、が割と早くに亡くなってからは母が口喧しく叔父上を躾けたせいで叔父上は母に頭が上がらないようなのです」

苦笑しながらサイラスは説明する。

「アレは強烈すぎる女だ。よく義兄上も逃げないものだと私は感心している」

口をへの字に曲げてアランは腕を組んで仏頂面を作る。

「相変わらずのご様子で安心しました。クロエ様、母が不出来な弟をよろしくお願いしますと言っておりました」

「こちらこそよろしくお願い致します。……それで、お父上の具合はいかがでしょうか?」

「ああ、大した事はありません。父は元から気管支が弱いらしく、年に二度程空気の良い領地に静養に行くんですよ」

「まあ、気管支が?重症な方は大変苦しみがあると聞いています。大変ですね」

「いえいえ、大した事は無いのです、本当に。父はどちらかと言えば私に仕事を押し付けて母とのんびりするのが目的の様な節がありますので」

「大変仲がよろしいんですね。いつかお会い出来るかしら?」

「これからは縁戚になるのです。いくらでもお会い出来ましょう」

「嬉しいです。ねっ?アラン様」

クロエがアランを振り返ると、先程の仏頂面のままそっぽを向いている。

「アラン様?」

クロエが再度呼び掛けると、チラッと視線を向けて俯いた。

「何でもない」

「そうですか?何でもない様には見えませんが」

「しつこいぞ!クロエ、君は部屋に入っていろ。晩餐以外は今日は部屋から出ないでくれ」

余りのアランの剣幕に、クロエは無言で一歩下がって一礼して部屋へ帰った。

アランはひどく機嫌が悪そうだった。

こんな事一度も無かった事なので、クロエは驚いた。

引っかかるものがありながらも、クロエは刺繍の続きを再開した。

だが、気はそぞろで、大した成果は上がらなかった。

手にしているアランの上着。

襟元に入れたアランのイニシャルと、刺しかけの薔薇の模様。

それらをなぞってから、再び刺繍を始めた。










晩餐室ではいつもより少し豪華な食事が並んでいた。

「叔父上の所の食事は相変わらず美味しいですね」

サイラスはアランの家系らしい整った容姿で爽やかな笑みを浮かべている。

叔父であるサイラスに似ているが、暗い色香は無いように見える。

さながら月と太陽の様な対比を見せる男性二人。

女神も裸足で逃げ出す程美しい二人を前にクロエは戸惑っていた。

アランの機嫌がこの上なく悪いからだ。

「確かにこの屋敷のお料理はとても美味しいですね」

クロエは何とか相槌を打つと、アランが舌打ちする。

ピクリとサイラスが眉を動かす。

「叔父上、どうしたのですか?貴方らしくも無い。私がここに来た事が気に入らないのですか?」

「そうではない」

「叔父上……」

クロエは我慢の限界だった。

「お食事中に失礼します。……アラン様、少しいいかしら?」

クロエは立ち上がってシガールームの扉を開いてアランを促した。

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