表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
つりみこ3 ~LINDORM~  作者: 島風あさみ
PR
6/45

第一章・プチ合宿・その五

磯釣いそづりといっても今回はルアーだ。青物あおもの底物そこものでチーム分けするぜ」

 ミャク釣り派のあゆむは、意地でも浮きを使う気はありませんでした。

「ここの青物はヒラマサ、スズキ、アジ、マサバなんかが釣れる」

 青物とは主にアジ科やサバ科、イワシなどニシン目の魚や、サンマやトビウオといったダツ科の回遊魚を指します。

 背中が青いから青物。

 青魚あおざかなともいいます。

「ここの底物は種類がマジ多いから勘弁してくれ。とても説明しきれねぇ」

 磯は海底に多様な生態系を持っているので、大物から小魚まで、様々な種類の魚が棲息せいそくしています。

 例えるなら海の上層が高速道路で、海底は市街地。

 死に行く魚。

 生まれくる魚。

 そこには様々な生命が満ちあふれているのです。

「青物組はシーバスロッドとハードルアー、底物組はバスロッドでソフトルアーだ」

 竿の種類で釣れる魚のサイズと射程距離が変わるので、大物の釣れる可能性が高い青物組は、シーバス用ロッドを使った方がよいとの判断でした。

「あの……私たちバスロッドしか持っていないんですが……?」

 藍子あおこがちょっと困った顔で質問しました。

 しかも強度の弱い振り出し(テレスコ)式のバスロッドです。

 これで釣れる魚は、タモ網を使っても、せいぜい四十センチくらいでしょう。

 中型以上のヒラマサやイシダイがかかったら、たちまち粉砕されてしまいます。

「問題ねぇ。ちょいと旧式だが、備品のシーバスロッドを持ってきた。リールもある」

 長さ九フィート(約二・七四メートル)の継竿つぎさおでカーボン製。

 十年くらい前の安物で、折れた竿先を何度も補修した形跡があり、使い込まれたグリップには【磯鶴いそづる高校釣り研究部】と書かれたシールがってありました。

「おおっ備品だっ! 部の備品だっ! あたし初めて見たよっ!」

 聞いていて悲しくなってくる百華ももかの歓声です。

「ただし備品は、これ一振ひとふりしかねぇ。一人は底物に行ってくれ」

「部活で使うルアーロッドは自前で用意する人が多くて、備品の竿は投げ釣り用や磯釣り用ばかりなんです。その代わり、リールは複数用意しました」

 こちらも安物ですが、すべて小夜理さよりが自分で完全分解整備オーバーホールしたものです。

 乗り物酔いで船に乗れない小夜理は、家業の船宿ふなやど遊漁船ゆうぎょせんいとなむ簡易宿泊施設)で留守番しながら釣り道具の整備点検を続けた豊富な経験と実績があり、その腕前はプロ級なのです。

 壊れた部品は他のリールからパーツを奪う共食い整備ですが、部室小屋は船宿同様に壊れたリールが山積みになっているので、素材には事欠きません。

 専門店に出す場合、通常の整備なら二千円ちょっと、完全分解整備なら安くても五千円はかかってしまうので、小夜理がいるといないとでは大違い。

 なにせ安物リールなので、下手をすると買い替えた方が安くついてしまうのです。

 ちなみに歩は二千円レベルの簡単な整備はできますが、完全分解整備まではできませんし、なにより小夜理が許しません。

「ハードルアーは傷物きずものだけど備品がいくらでもある。遠慮なく使ってくれ」

 ケースを開けると、あちこち補修のあとがあるルアーがたくさんまっていました。

 金属製のメタルジグからふるい木製のホッパーまで、数えきれないくらいあります。

 こちらはリールと違って修理が簡単で、失敗しても金銭的に痛くないので、歩と小夜理が瞬間接着剤や模型用パテやホログラムシールや目玉シールで直したものでした。

 代々の釣り研部員たちが使っては直してきた、先祖伝来の宝箱です。

「なにからなにまで……すみません」

 藍子が頭を下げました。

「いいんだって。それよりソフトルアーなんだけど……」

 ソフトルアーは小魚や甲殻類に似せた、合成樹脂や生分解性素材でできた疑似餌です。

 一パックいくらで売られ、ほぼ使い捨てなので、種類をそろえると、それなりの価格になります。

「あとで個数単位で計算して請求する。まあ大した値段にゃならねぇだろ」

 むしろ海釣り施設でイソメ類を買った方が高くつくかもしれません。

「……といいてぇとこだが、実はこれも部費で買ったもんなんだ」

「ええっ⁉」「おおうっ⁉」

 驚く藍子と百華。

「報告書が面倒になるから金はいらねぇ」

「それはダメです! お金はちゃんと払います!」

「金は面倒だっていったろ。その代わり、あとで労働力で支払ってもらう」

「労働……ですか?」

「釣果次第で軽減あるいは免除って事ならどうだ?」

「……わかりました。なにが釣れても労働はしますが、大物を狙います」

 藍子がシーバスロッドを受け取りました。

「それじゃ、あたしは底物だねっ! バンバン釣るぞーっ!」

 百華も気合を入れてバスロッドの準備を始めます。

「釣果って何十メートルくらいだろ……?」

 どうして今日の釣行がルアーフィッシングになったのか、だんだんわかってきた八尋でした。

「たぶん、ぼくもちゃんとやらないとダメだ」

 ルアーを使うのは、きっと悪樓あくるの食欲をいざなう方法を覚えさせるためです。

 どんな動きをすれば魚が釣れるのか。

 そんな場所を泳がせれば釣れるのか。

 そして、どんな釣り方をすれば魚を傷つけずに済むのか。

 悪樓の釣り方は、きっとルアーが教えてくれるはず。

 前に死なせてしまったギンポのためにも、この釣行は絶対に無駄にはできないと心に誓う八尋でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ