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つりみこ3 ~LINDORM~  作者: 島風あさみ
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終章・その五

 朝ごはんは昨日余ったゴンズイ汁。

 溶けて蒸発もとい骨だけになっていたのでズルズル飲みました。

 小食な八尋やひろは昼食に備えて、ご飯はなし。

 風子ふっこはゴンズイかけ汁ご飯に。

 そして道具をかついで集合地点、昨日ゴンズイを釣った地磯に急ぎます。

 到着すると、あゆむ小夜理さよりはルアー釣りの真っ最中で、釣果もそこそこ。

 磯鶴いそづる港をさわがせたゴンズイの大群は去り、今日はタカベ(イスズミの仲間でコハダを大きくしたような魚)がきている模様。

 八尋と風子も早速参加します。

「……それで、姉貴との話はどうなったんだぁ?」

 歩はメタルジグを投擲キャストしながら質問しました。

「私も読みましたが、正直さっぱりでしたよ」

 風子がメールで送った概要がいようでは、理解してもらえなかったようです。

「あの世界はね~、こっちの人が改造したんじゃないかって~」

「こっちって、日本のかぁ?」

「外国でもやってたと思うよ~」

 八尋たちにはあまりえんがありませんが、異世界には弥祖皇国やそみくに以外の国家も存在します。

「だって~、のぞく時にたましい飛ばせるんでしょ~?」

 水面に集中して異世界を見る方法です。

「だったら~、海水で体を作ればいいんじゃないかな~って」

蕃神ばんしん召喚術の逆かぁ」

 盛り上がっている様子ですが、八尋はなんだか興味を失って、釣り支度じたくを始めました。

 小夜理は大きなメタルジグを投げて青物を狙っているようです。

「海にかった状態で~、周囲丸ごと送ったら~」「なるほど微生物かぁ」「それを見た人が真似を……」

 異世界創世談話で盛り上がっている歩と風子をよそに、八尋は昨日使ったじかリグにオレンジのシャッドテール(小魚を模したソフトルアー)を装着して投擲します。

由宇ゆう先生は~、五魂七魄ごこんななはくがどうのって~」「そうか、こんは人と猫しか持ってねぇ!」

 いろいろ話がはずんでネコミミにまでおよんでいるようですが、科学的根拠があるのはテラフォーミングの部分だけ。

 八尋は由宇先生の言葉を思い出しました。

『オカルトってぇ、要は世界の構造を主観的に解釈する方法だからぁ』

 つまり、そこから先は想像、どうとでも解釈できる理屈です。

 科学ならともかく、オカルトなら別に聞かなくてもいいと判断して、八尋は竿先をねさせてルアーにアクションを加えました。

 狙うは毒魚。

 昨日のゴンズイでもよかったのですが、八尋が欲しいのは、あくまで背中に毒トゲが並んだカサゴ目の、フサカサゴ科かオニオコゼ科のゴツいヤツのみ。

 初めて釣る毒魚は、派手でカッコイイのがいいのです。

「アイゴも悪くないけど……」

 アジとババタレ(イスズミ)の中間のような魚形で、背ビレと尻ビレと腹ビレに大量の毒トゲを持っている魚です。

 磯では普通に釣れるし、味も磯臭いそくささが好きな八尋の味覚にも合うでしょうが、ゴツゴツした厨二的なカッコよさとは無縁なので遠慮したいところです。

「きた!」

 竿をピンと立ててアワセを入れる八尋。

「軽い! これ小魚だ!」

 引き上げると、小さな小さなハオコゼがついていました。

 待ちに待ったカサゴ目の毒魚ですが……。

「なんでルアーより小さい魚がかかるの⁉」

 自分より大きな魚にいどむ勇者だからです。

「さすがにこれは放流対象かな?」

 ハオコゼは最大で十センチくらいになる魚ですが、これは数センチしかありません。

「……可愛い」

 大きくてつぶらな瞳が特徴です。

「見なかった事にしよう」

 ポケットからプライヤーを取り出して、はりの根本をつかんでひっくり返すと、ハオコゼは簡単に外れて海に落ちて行きました。

「ルアー変えないと」

 シャッドテールについた傷は浅いものの、動きに不自然な変化が生じると、魚に警戒されてしまいます。

 今度はピンクのクロ―系(ザリガニ型)ワームを装着する八尋。

 ワームにられた集魚剤で手が汚れたので、水汲みずくみバケツの海水で洗います。

「水面からあっちの世界が見れるんだっけ」

 ちょっと集中。

「わあっ、玉網たまみさんがなんかやってるよ」

 見えたのは祭壇さいだんを組んだ月長の第一祭儀室。

 これから召喚儀式を始めるところだったようです。

「……そうだ、こっちから行くのってアリなのかな?」

 蕃神召喚に使う浴槽のふちに、ヒラさんの宝珠が置かれています。

 あれを目印にすれば。

 帰る時に歯を念じるのと同じように……。


 世界が暗転しました。

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