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つりみこ3 ~LINDORM~  作者: 島風あさみ
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終章・その二

「縁側の草履ぞうりがないよっ! 足跡あしあともあるっ!」

 百華ももかが地面を指差します。

「外に逃げやがったかぁ!」

「座ったところが温かい……まだ近くにいるねっ!」

 八尋やひろ狩りの魔の手は、確実に獲物えものを追いめていました……が。

「そんな甘くないよ八尋は~。ほら~、足跡が途中で消えてる~」

 風子ふっこがブラフに気づいた模様。

「熊かあいつは……」

 あちこちに仕掛けられた八尋の誘導に、あゆむたち八尋捜査陣は手を焼いています。

 一方そのころ、八尋は社殿しゃでんの裏にある土蔵に隠れていました。

 このあたりなら周囲の土が硬くかわいているので、足跡が残りません。

 見渡しがいて、いざとなったら社殿しゃでんの床下に逃げ込める、それなりに有利な位置取りです。

「ふうっ、とりあえずはしのいだかな?」

 しかし厄介な状況には違いありません。

 魔性に魅入みいられて目玉グルグル状態なら、距離を置いて一定時間逃げきれば八尋の勝ちですが、耐性を持つ歩と風子が、魔性と関係なく追い回しているので、いつまでどこまで逃げればいいのやら。

「そんなに時間ないね」

 なにせ森の中なので、蚊やぶよが飛び回っています。

 もし刺されたら、お肌の弱いネグリジェ姿の八尋では、ひとたまりもありません。

「開いてる……」

 土蔵の扉が全開になっていました。

 漆喰しっくいり固めた蔵戸前くらとまえ(開き戸)が全開なのは普段からでしょうが、内側にある格子戸こうしど隙間すきまを開けていました。

「ここに隠れたら……バレるかな?」

「間違いなく見つかるわねぇ」

「わあっ‼」

 中から現れたのは由宇ゆう先生でした。

「追われてるのねぇ。じゃあ私がかくまってあげるぅ」

「……ぼくがどうして逃げてるか知ってるの?」

 だまされやすさで定評のある八尋ですが、よく知らない人のいう事を簡単に信じるほどお馬鹿ではありません。

 それに、相手は教師とはいえ女性です。

 魔性で目玉がグルグルしたら、腕力のない八尋では抵抗できません。

 下手をすれば土蔵でDTを失う破目はめに。

 ――それを心底嫌がる八尋も、男として大概たいがいですが。

「魔性なら歩から聞いてるわぁ。どうやら大丈夫のようねぇ」

 由宇先生が高校時代に蕃神をやっていたのは、歩から聞いています。

「ホントだ。すぐそばなのに、ぜんぜんグルグルしてない……」

 ただしグルグル抜きで八尋を追いかけ回している人たちがいるので、油断は禁物です。

「……どこに逃げればいい?」

社務所しゃむしょがいいわよぉ。あそこは離れでかぎもかかってるしぃ」

 社務所は神社の事務所を差す言葉ですが、この場合は受付やお守りなどを販売する小屋を差します。

「わたしも行くからぁ」

「一人で行くから鍵ちょうだい!」

 暑そうな小屋で朝チュンは御免です。

「ちょっとお話があるのぉ。歩はあんまり異世界のお話をしてくれないからぁ」

 それでも魔性の話だけはしているのは、八尋のDTが奪われるのを恐れているからでしょうか?

「また事情聴取?」

 昼間は月長げっちょうの蕃神用食堂兼会議室で、あまも亭では会議室で。

 聴取のセオリー通り、何度も何度も同じ話をり返させられたので、八尋はいい加減ウンザリしていました。

「私からもぉ、教えられる事があると思うのぉ」

 由宇先生の手には、山盛りの古文書が。

「わかった。ところで先生、虫刺されのお薬持ってる?」

 お話している間に、三か所も蚊に刺されてしまいました。

「社務所にあるわよぉ。虫()けもあるわぁ」

 歩たちの懐中電灯が、近くまでせまっていました。

 すごくかゆいのですが、お肌の弱い八尋がくと、血が出てひどい結果になるでしょう。

「わかった。行くよ先生」

 八尋は【先生】を強調していいました。

 聖職者の理性に期待しての発言でした。

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