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つりみこ3 ~LINDORM~  作者: 島風あさみ
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終章・その一

「うわ――――んやだようぼく他の部屋で寝たいよう!」

 小夜理の見張りで無事に(八尋やひろの)入浴を終え、六人分の布団をいた大部屋にて。

 毎度の事ですが、八尋はみんなの抱き枕にされかけていました。

 しかもあゆむ由宇ゆう先生のお古なのか、可愛いネグリジェを無理矢理着せられています。

 八尋を抱き枕にし隊の一番槍は歩、二番は百華ももか、三番手は風子ふっこ

 浴衣ゆかた着用の小夜理さよりは様子見で、ふところのお玉をいつり出そうか迷っています。

「おぇ一人で寝かせたら、誰が夜這よばいするかわかったもんじゃねぇだろぉが!」

 いまの磯鶴いそづる神社は夜討よう朝駆あさがけ上等の無法地帯。

 誰がいつこっそり抜け駆けするか、わかったものではありません。

 そんな環境で八尋だけ別室にするのは無謀です。

「ところで藍子あおこはどこ行ったぁ?」

 陸野女子高校海釣り研究会部長、榎原えのはら藍子の姿がありません。

「廊下。さっきからスマホでねっ、なんか長話してたよっ」

 百華は真剣そうな表情をしています。

「そういや着つけの時も通知きてたなぁ」

「……相手は川釣り部の子みたいっ」

 海釣り研究会と川釣り部は対立関係にあります。

喧嘩けんかか?」

「違うと思う。あっちの一年生で中学時代からの友達いるからっ」

「内緒話か。まあ、いろいろありそうだしなぁ」

 そんなこんなと話しているうちに、藍子が寝室に戻ってきました。

 そして開口一番。

「あの……すみません、明日の予定をキャンセルしてよろしいでしょうか?」

「合宿をかぁ? それとも釣り?」

「両方です」

 藍子はスマホの画面に映ったメールを歩に見せます。

「……ほぅ、内乱かぁ」

 そこには川釣り研究部に起こった騒動の経緯けいいが記されていました。

 要約すると、海釣り研究会をハブっていた三年生たちが受験で引退、それを機に二年生たちも退部し、残った一年生たちが海釣り研究会との合流を望んでいる、との内容です。

 おそらくメールに書かれている以上の悶着もんちゃくがあったに違いありません。

 むしろ怒った一年生が川釣り部を乗っ取った感すらあります。

「そうかぁ。で、藍子は行くつもりなのかぁ?」

「……はい。たぶん活動は川釣りが中心になると思いますが、たまには海にも行くと、あっちの新部長がいってました」

 その新部長こそが藍子の友人。

 きっと一連の騒動に無関係な一年生しかいない海釣り研究会の二人を敵視する上級生たちに嫌気が差して、下克上げこくじょうを決意したのでしょう。

 三年生たちが引退すれば、残った二年生より一年生の方が人数が多く、意見が通りやすくなります。

 一年生たちが顧問を味方にして改善を申し出たものの反発にい、口論の末に二年が退部した模様。

 しかし部員が四人に減って廃部の危機になったので、その日のうちに合併がっぺいの話を持ってきた、という次第でした。

「明日の始発で帰って、合併の手続きをしてから磯子いそごに行こう、という話になりました」

 磯子は横浜線一本とバスで行ける海釣り研究会お馴染なじみの釣り場で、それなりの釣果が期待できる好ポイント。

「海釣り施設は混雑してんじゃねぇか?」

 夏休みで来客が多く、早朝に行かないと、数釣りのできる東側の釣り座がふさがってしまいます。

 南側はガラガラですが、ほぼウミタナゴしか釣れません。

「いえ、根岸湾でハゼやキスを狙います」

「それならバッチリだぁ」

 根岸湾は、海釣り施設行きのバスを途中下車すれば行ける、ハゼがいつでもいくらでも簡単に釣れる名所です。

 ちょっと投げればキスが、ズルズル引けばハゼがチョイチョイ、目の前にらせばウミタナゴも釣れます。

 遠投ウキならアジやサヨリ、ヒイラギなどが盛沢山もりだくさん

 はしに行けば良型のクロダイを狙うベテラン釣り師が陣を張り、季節によっては夜釣りでメバルやシーバス(スズキ)、巨大なクロアナゴも狙えます。

 しかも近所にアオイソメの自販機が。

 海釣り初心者に数釣りをさせるなら、これほどのフィールドは、そうそうお目にかかれるものではありません。

「百華、いいよね?」

「もちろんだよっ!」

 即答されました。

「俺たちも行きてぇとこだが、明日は夕方から夏祭りがあるからなぁ」

 歩は枕元のバッグをゴソゴソして、中身を取り出しました。

「ほれ、これだけありゃ足りるだろ」

 異世界召喚のマーカーに使われる、磯鶴神社特製のお守りです。

「いいんですか?」

「川釣り組をビックリさせてぇだろ? バス釣りやってる連中なら、宝珠の魚介類だって使いこなせるはずだ。アテになる」

やなくんもいるしねっ!」

 百華はネコミミ少年がいたくお気にした様子。

「たぶん藍子たちは昂州こうしゅう支局に回されるだろうけど……」

「その簗くんですが、本庁に移籍するそうです」

 浴室前で門番をしていた小夜理は、八尋から他の部員たちが知らない事を聞いていました。

「ええっ⁉」

 百華はもちろん藍子まで不満顔に。

「あの子、可愛かったのに……」

「まあ独角仙さいかちは壊れた甲板の修理があるし、しばらくは月長げっちょう仏法僧ぶっぽうそうに呼ばれるだろ。それに隼瑪はやめさんの事だから、あっちはあっちで代わりの子供を用意するはずだ」

 大勢いそうです。

「ちっちゃい子かなっ?」

「性別は保障できねぇけどなぁ」

「どっちでもいいっ!」

 問題なさそうです。

「でも、とりあえずは八尋の奪い合いだなぁ」

 歩は枕を手にしました。

「誰が抱き枕にするか決めなくちゃねっ!」

 百華も枕を構えました。

「その八尋くんですが……さっき逃げましたよ?」

 小夜理が半開きのふすまを指差します。

「しまった、追え! まだ遠くには行ってねぇはずだ!」

「「イ――――――――ッ‼」」

 風子と百華は右手を上げて走り出しました。

「楽しそうですね」

 まるで世界征服をたくらむ悪の組織です。

 ノリが昭和でした。

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