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つりみこ3 ~LINDORM~  作者: 島風あさみ
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第五章・魔海対策庁昂州支局棟【あまも亭】・その一

 八尋やひろが引っす前に住んでいた港北のマンション、そのリビング。

 目の前には大型の液晶TVテレビが。

 画面には大きな文字で【GHSスペシャル・脅威の大宇宙 ~八億年はるかなる旅路たびじ~】と書かれていました。

「あっ、これヒラさんの夢だ」

 八尋の脳に残された、ヒラさんの置き手紙。

 もう自分の家ではない部屋が舞台なので、すぐにわかりました。

 普通の夢と違って、意識がハッキリしています。

『GHSスペシャル、脅威の大宇宙! 今回は宇宙の片隅で生まれた知性体の、長~い旅と眠りと目覚めをご紹介します!』

 某TV番組のパクリ企画でした。

 どこかで聞いたような女性アナウンサーの声で、独特のリズムで語られるナレーション。

「きっとこれ四十五分(わく)だ」

 現実の時間経過と一致いっちするかは疑問ですが、少なくとも八尋は、これから四十五分間、この退屈そうな番組につき合わされるのです。

 画面が宇宙空間に切りわりました。

『……前方にあるのは、この星系の中心にある恒星こうせい、太陽です。周囲に隕石のようなものがありますね』

 画面の右下には【再現CG】と書いてありました。

「変なとこでってるなあ……」

 その空間は、かつて惑星があった場所でした。

 その星は生物が住んでいたかどうかは定かではなく、崩壊ほうかいしてから、あまり時間がっていない模様。

『しかし、その星の残骸ざんがいから、新たな命が誕生しました。人間たちのいう生命の定義には当てまりませんが、それは確かに生きていたのです』

 画面には光る球体のような物体が。

『個体ではないので正確な数値ではありませんが、サイズは直径十キロメートルくらいです。とてつもない大きさに思えるかもしれませんが、惑星などの天体に比べれば、赤ちゃんみたいなものでしょう』

 でも、その生物と呼んでいいのか不明な生物は、ただ生きているだけで、なにも考えていませんでした。

 本当に生まれたての赤ちゃんだったのです。

それ(・・)は、かつてあった惑星の神気が固まってできたものだといわれています。星の幽霊、といえるかもしれません』

 ナレーションが流れる間、ただ宇宙と恒星と残骸と光る球体しか画面に映っていないので、八尋はだんだんきてきました。

『惑星は一種の生物といえなくもありませんが、脳に相当する器官がないので思考能力はありません。当然ながら、そこから生まれた生命体も……』

「チャンネル回そうかな」

『……と、その時!』

 八尋がリモコンに手を伸ばした瞬間の新展開。

 尺をかせぎつつ視聴者をきさせない、なかなかの番組構成です。

『細長く巨大な飛行物体が現れました。人類が龍と呼ぶ存在です』

 その龍は光る生命に近づいて、なにやら情報を流し込み始めました。

 まずはOSから。

 次は基本的なアプリ的なソフトの数々。

 そして論理演算に必要なプログラム。

「そっか、龍たちは同類を見つけては情報を与えて、仲間を増やしてるんだ」

 ならば最初の龍は、どうやって思考能力を得たのか。

『最新の研究によると、原初の龍は知的生物の作った自動機械、コンピュータのようなものを取り込んだとされています』

 推測なので、それがどんな物体だったのか、どんな知的生命体が作ったのかは一切不明。

「あっ、これ……ぼくの知識から推論したんだな」

 姉の風子ふっこ頻繁ひんぱんにSF小説を買い込むので、八尋もよくご相伴しょうばんあずかかっていました。

 風子の蔵書は、うすい本ばかりではなかったのです。

 人類が送り出した深宇宙探査機が、異星人に改造されて戻ってくる映画もあったので、それも参考にしたに違いありません。

「まあ、それしか考えられないよね」

 人類は宇宙人に会いたくて仕方ないようですが、人間的な知性は、生物の進化としては極めて異色、単なる偶然の産物です。

 そして地球外で奇跡的に知的生命が誕生したとしても、人間とは極めて異なる知性を持つでしょう。

 人類がそれを発見したとしても、果たしてそれを知性と呼ぶかどうか。

 きっと相手の方も、人間を知的生命とは認識しないでしょう。

「ヒラさんの思考が理解できれば、取り込んだ機械の知性が、どんなものかわかるんだけど……あんまり覚えてないって事は、ぼく……いや人間には理解できない思考だったんだね」

 融合ゆうごうしてたましいを共有しないと、わからない論理演算。

 ヒラさんは、人間とは完全に異なる知性を持っているのです。

「でも百パーセントわからない訳じゃない。ぼくの意識と一部だけ互換性があったし、それはきっと……」

 あれこれ考える八尋をよそに、番組は進行します。

『先輩の龍にもらった情報が浸透しんとうするのに、一千万年かかりました』

「遅すぎ⁉」

 モノを教えられたからといって、すぐに思考を始めるほど、ヒラさんはせっかちではなかった模様。

 一千万年も経過した時点で、球状総合感覚器官が生まれているはずですが、画面右下の【再現CG】の文字は消えません。

 人間の視覚とは異なるので、当分の間はCGによる再現映像が続くようです。

それ(・・)は自分が生まれた星の残骸と星系の調査を終えて、外宇宙に飛び出しました』

「まあ予想通りの展開だね」

 八尋は思わずTVのリモコンに手を伸ばします。

『物質的な肉体ではないので物理法則にとらわれず、光の速さを、いとも簡単に飛び越えられますが、それでも星系から星系への飛行となれば、それなりの時間を要します』

 八尋はなんとなく、リモコンのボタンを押してチャンネルを変えてしまいました。

『旅人の運命をつかさどるのは、神か、偶然ぐうぜんか。それは時の回廊かいろうめぐる永遠の……』

 ナレーターが男性声優に代わって、ぼうアニメの予告編風になっただけでした。

「わかりにくいよ!」

 結局チャンネルを戻します。

『同じようにデータをもらって知性を得た仲間たちの存在をキャッチして、神力波で話しかけますが、光の速さを超える通信でも、何百光年もへだたりがあっては、なかなかタイムラインが更新されません』

「SNSじゃん!」

 ヒラさんはひとりぼっちではなかったのです。

 間接的な接触とはいえ、仲間は大勢いました。

 しかしデータのやり取りだけで数年かかる遅延ラグの嵐では、退屈をまぎらわすものにはなりえません。

 対戦ゲームをしようにも、チェスや囲碁・将棋のようなものに限られます。

 一戦あたり何百年かかるかわかりません。

『そんな時、バズっていた仲間の投稿から、かつて生物のいた惑星の存在を知りました』

 待ちに待った新展開。

『その星に降り立った時、仲間はすでに去ったあとでした。地表は岩と砂漠さばくおおわれ、生きとし生けるものの存在しない、死の領域です』

 化石とミイラしかありませんでした。

 ヒラさんは、そこで発見した生物の痕跡こんせきから、かつて生きていた頃の想像図を作り上げ、使えそうなパーツを自分の体に再現します。

 体表に大きさもデザインも異なる、ちぐはぐなひれえらを生やしたり、呼吸器官を再現して、神気を取り込みやすくしたり。

 骨格と筋肉を作って、体を自在にあやつれるようにもなりました。

 ただ細長いだけだった全身が、生物をしたものになったのです。

 しかし消化器官がありません。

 頭部には口もふんもありません。

 宇宙を流れる神気さえあれば、他の生物を食べる必要がないからです。

 その【他の生物】が、どこにも存在しないのも理由の一つ。

『調査を終えて、再び宇宙にい上がります。まだ生きている生物を求めて』

 でも見つかるのは、すでに滅亡した星々ばかり。

 仲間のネット投稿にも、それらしい発見はない様子。

『最後に見つけた惑星は、やはり滅びていました』

 仲間たちは銀河中を回って生物を探したものの、大発見にはいたらなかったようです。

『でも、まだ海が残っています。その星はまだ若く、再び生物が生まれる可能性があったのです』

 SNSの情報によると、この銀河の調査はほぼ終了し、龍たちの大半が、別の銀河へと移動を始めていました。

 しかし一部は……。

『この星に残って、生物が誕生するまで待つ事にしたのです』

 数億年、いえ数十億年かかっても、龍にとっては大した時間ではありません。

『そして長い長い眠りにつきました……』

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