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つりみこ3 ~LINDORM~  作者: 島風あさみ
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第四章・LINDORM・その三

 黄銅おうどう龍はヒラさんがギプスのようにからみついているせいか、飛行に神力を使う必要がなくなり、順調に傷の修復を進めています。

 上半身だけになった肉体は損傷が激しく、なかば骨だけになっていたので、破損個所はそんかしょに回した体組織の分だけ全長が短くなりました。

 ――わたしは〇〇。△△△の同類です。

 ヒラさんを通じて黄銅龍が八尋やひろに話しかけます。

『その名前、音声にしてくれないと、ぼくにはわかんないよ。あと簗には家族がいるし、ぼくは保護者じゃないから、あげられないよ?』

 八尋は相手を怒らせないように、そっと要望を断ります。

 ――家族……△△△に教えられましたが、○○には、まだよくわからない。

『とりあえず名前から決めよう。ぼくと一緒にいるのは【ヒラさん】。きみは……』

 八尋はちょっと考えます。

 ゲームで使っているキャラクター名は【やひー】だったり【ややや】だったりしますが、さすがに他人の名前にそんなセンスを当てめる訳には行きません。

『んーと……』

 その時、地磯で聞いたあゆむの話を思い出しました。

LINDORM(レンオアム)……』

 デンマーク語で【足と翼を持たない竜】を意味するレンオアム。

『略してレンでどうかな? 漢字は【れん】』

 漣は【さざなみ】の音読み。

 文字情報も同時に送れる、なかなか便利な通信です。

 ――漣……レンがいいです。とてもよいひびき。

『ぼくは八尋。手の中にいる、さっきまできみにつかまってたのはやな

 ――簗……先ほどまで小さいだけと考えていましたが、感情というものを知り、レンの気持ちを理解しました。あれは【KAWAII(カワイイ)】というのですね?

『そう、可愛い。ちっちゃくて、とっても可愛い』

 八尋と大差ない背丈せたけなのですが、なんちゃって小学生の八尋にはない(と本人は思っている)おさなさがあります。

 ――あれ、欲しい。そばに置きたい。

『持ってっちゃダメだよ。ペットじゃないんだし、たぶんレンさんには面倒見きれない』

 八尋はネットで見かけた飼育しいく動物の虐待ぎゃくたいや、捨てられた子猫のイメージを送りました。

 ――レンもこうなると? レンは簗をとても愛しています。

『お互いの事を知らないのに、いきなり二人っきりで生活するのは無理だって思うんだ』

 珍しいペットを習性も知らずに買った挙句あげく、飼いきれずに捨てたり死なせてしまう例は数多く存在します。

――ではどうすればいい? レンは簗と一緒にいたい。

『うーん、連れて行くんじゃなくて、レンさんがついて行くしかないと思うけど……そのサイズじゃ無理かなあ』

 ――わかりました。一部を切り離して、分身を簗の傍に置きます。

『そんなのできるの?』

 ――できる……いえ、海に落ちた半身との連絡ができません。

『ああ、それね。たぶん魔海が通信を遮断しゃだんしてるんだよ』

 八尋は魔海の情報を知っている限り伝えます。

 ただしあゆむ玉網媛たまみひめの説明を鵜呑うのみにしただけの言語情報が多く、八尋にも理解できていない部分があります。

 そこをレンが自力で解析するまで、少し時間がかかりました。

 ――よい方法が思い浮かびません。八尋の知恵が欲しい。

『ぼくの頭をのぞくの? 知識だけならいいけど……』

 レンは、果たしてプライバシーというものを、どれだけ理解しているのか。

『……まあいいや。人間とつき合うなら必要かもしれないし』

 記憶を丸ごとあげる決心をつける八尋。

 送信は一瞬で終わりました。

『ええっ、もう⁉』

 あまりにも容量が少なくてビックリしました。

 ――よくわかりません。理解には時間を要します。

『まあそうだよね』

 人間のカタチを持たない龍にはわからないでしょう。

 ヒラさんですら理解できず、八尋との融合ゆうごうを必要としたくらいです。

『人型になる手も考えたけど、最初のうちはけた方がいいかも』

 ――いくつか方法を見つけました。あとは状況を見て判断します。

『わかった。ヒラさんを放すから、落ちないように気をつけてね』

 ――了解……その前に簗の姿を見たい。

『いいよ』

 八尋はレンとの通信を続けつつ、簗の小型通信機に神力波を送ります。

『簗くん、黄銅龍と仲良くなれたよ』

「えっ? あれって会話できるの⁉」

 突然話かけられた簗は、震えながら応答しました。

『簗くんの顔が見たいって。なんか気に入られちゃったみたい』

 八尋は簗をにぎっているヒラさんの手を広げ、修復中のレンにも見える位置にかかげます。

「おっきい……」

 月長を遥かに超えるサイズの龍が、簗にたくさんの球状総合感覚器官を向けて、興味津々《きょうみしんしん》とばかりに覗き込みました。

 ――では、しばしのお別れを。

 レンがドロリと溶けました。

『きゃ――――――――っ⁉』

 いまの八尋に肉体があったら、オシッコをらしていたかもしれません。

「ひゃ――――――――っ⁉」

 簗はオシッコを漏らしました。

『レンさん加減して! それ無茶苦茶(こわ)いよ!』

 ――御免あそばせ。

 ゆっくりと融解ゆうかいして液状になったレンは、ヒラさんから離れて魔海を迂回うかいしつつ海面に向かいます。

 おそらく海中にいる下半身の残骸ざんがいと合流するのでしょう。

 その途中で一部が分離し、【第六まどろす丸】のかげに隠れるのが見えました。

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