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つりみこ3 ~LINDORM~  作者: 島風あさみ
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第四章・LINDORM・その二

『……さて、これからどうしよう?』

 どうやらヒラさんと黄銅おうどう色の龍は、話が立て込んでいる様子。

 その内容は八尋やひろの意識にも入ってきますが、情報量が多すぎて処理しきれません。

 龍たちのコミュニケーションは、例えるなら文字数制限のないSNS。

 膨大ぼうだいかつ一方的な発信をり返し、要約するのも難しくなってきました。

 その大半が、ヒラさんと意識を一部共有している八尋にも理解できない、非人間的な言語と内容でしたが、一つだけわかった事があります。

「これ……たぶんほとんど無駄話だ」

 久しぶりに仲間に会えたのがうれしいのか、黄銅龍は、いままでどんな旅をしてきたとか、どんな事を考えていたとか、数千年とも数万年ともつかない孤独をヒラさんに伝えようと、一生懸命話しているようです。

 神力波通信の伝達速度は光速すら超えますが、通信距離は数万光年。

 きっと孤独な旅だったに違いありません。

 一方、ヒラさんは神力波通信で、人類式のコミュニケーションを教えていました。

『まいったなあ。これじゃ、なにしゃべってるのかわからないよ』

 ひまなので、八尋はヒラさんの記憶をのぞきます。

『あっ、これダメなやつだ』

 頭出し(チャプターマーク)どころか早送り(スキップ)もできません。

『ぼくの意識じゃ小さすぎて機能制限があるのかな?』

 意識や脳の機能が融合しているとはいえ、八尋の人格だけは元の形を保持しなければならないので、ヒラさんの意識には変換エンコードできない情報や、使用できない機能が数多く存在するようです。

 それでもどうにかこうにか苦労して、カテゴリー別にたくわえられた知識情報を、ちょっとだけ得る八尋でしたが……。

『欲しい情報に限って見つからないよ!』

 多機能HD(ハードディスク)プレーヤーの分厚ぶあついマニュアルでリモコンの操作方法を探そうとしたら、肝心の目次が破れていたり、難しい漢字や専門用語が並んでいるような状態です。

『これは最初から見るしかないのかな?』

 記憶のダイジェスト版があればいいのですが、記憶や思考の構造が人間と違いすぎるのか、記号化・抽象化ちゅうしょうかされた過去の情報が、まったく手に入りません。

 そこで八尋は記憶をさかのぼるのではなく、最初から再生する手段に出ました。

『……星の残骸ざんがい? ヒラさんは生き残り……いや、きっとここから生まれたんだ』

 当時は七十七個ある球状総合官官器官が存在せず、モヤッとしたイメージしかありませんが、それでもヒラさんは周囲の状況を把握はあくしていたらしく、それなりに正確な情報を八尋に伝えてきました。

 ヒラさんの記憶は記憶ではなく、機械的な記録なので、最初の記憶が惑星の残骸なら、そこで生まれたと推測するのが妥当だとうです。

『うわーやっぱり止まってるよヒラさん。ろくに思考もしてないよ』

 生まれたての赤ちゃんなので仕方ありません。

『これは何百……いや何万年もこのままかしれないね』

 というか、そもそもこの記憶はいつの時代なのか。

 ひょっとしたら何億、何十億年も前かもしれません。

『とてもついて行けないや』

 動き出すのを待っていたら、おじいちゃん……もといおばあちゃんになってしまそうです。

『……いや、脊椎せきつい動物をした規格の記憶がどこかにあるはず。探してみよう』

 龍たちの会話(?)をよそに、八尋は別の記憶ファイルを検索します。

『本来持ってる記憶野とは別にあるんじゃないかな?』

しばらく探し回って、ようやくつかんだ人間的な記憶情報は、やはり八百年ほど前のものでした。

『うん、思った通り』

 ヒラさんが釣王ちょうおうと出会った頃からの遠い思い出。

神楽杖かぐらづえ……当時はただの糸枠いとわく(糸巻き)だったんだっけ? あれなら人間と共感できるし、ヒラさんなら前に使った人の思考をコピーできると思ったんだ』

 いまヒラさんが発信しているのは、その思考パターンや構造の詳細しょうさいなデータ。

 この送信が完了すれば、黄銅龍はすぐにでも人間式の思考を模倣もほう・再現できるようになるはず。

 そうなってくれないと、八尋の意識は二尾の龍たちの、SNSのタイムラインじみた膨大な情報を読み取りきれません。

 読んでも読んでも読まなくても、比較にならない速度で置いて行かれます。

『こっちの記憶なら、ぼくにも理解できそう……あれは釣王かな?』

 ヒラさんの視覚イメージに、大きな糸枠を持った着流しの美女が現れました。

 足場にしているのは木製の竜宮船。

 釣王らしき人物のそばには、小柄で可愛らしいネコミミ&ネコシッポの少年がひかえています。

 この少年が何者なのかは、ヒラさんの記憶に、しっかりときざまれていました。

つがい……旦那だんなさん⁉ この子が⁉』

 相手の男性が可愛かったから結婚したという抄網媛すくみひめの予想が、まさかの的中です。

 そして、その子の顔は、なんとなく八尋に似ている気がしました。

『抄網さんが変になった理由がわかったよ……』

 変質者で変態さんな抄網媛に限った話ではありません。

 八尋の容姿は、きっと皇族おうぞくたちの好みにジャストフィットしているのです。

 しかも遺伝的に。

『これは宝珠を持っていても危ないなあ』

 宝珠になっている時のヒラさんを携帯けいたいしていれば、八尋が持つ魅了の魔性がおさえられてセクハラ防止になるはずですが、元々好みのタイプだったとなれば防御のしようがありません。

 ヒラさんがいようがいるまいが、抄網媛にかかれば布団部屋に連れ込まれてエッチな事をされてしまう可能性は大、極大きょくだいです。

『次に抄網さんの顔を見たら、大声で宝利ほうりを呼んで逃げよう』

 そういえば、前に召喚された時……。

『……あれ?』

 確か八尋だけが召喚されて、魔海にも行かず悪樓あくる釣りも行われず、玉網媛たまみひめ歓待かんたいでご馳走ちそうしてもらって……。

『お風呂に入ったんだよね』

 何度か入った皇族専用露天ろてん風呂【潮表しおおもての湯】ではなく、初めて入る蕃神ばんしん専用露天風呂【潮通しおどおしの湯】に八尋は大喜び。

 特に姉の風子ふっこやセクハラ魔人のあゆむがいないのが最高でした。

『そしたら抄網さんが出てきて……』

 そこから先の記憶がありません。

 気がついたら釣り研究部のオンボロ部室小屋に戻っていました。

 ついでに風子の犯行で、ひたいに【N♂MAD(ノーマッド)】とラクガキされていました。

 油性マジックではなく、フェイスペイント用のマーカーだったのが、せめてもの救いです。

『ぼく、なにされちゃったの⁉』

 玉網媛が関与しているのなら、それほど心配はないと思いますが、なにも教えてくれかったのは、なんとなく怖いです。

『まさか宝利も裏で一枚噛んでるんじゃ?』

 そんな疑問を持った八尋ですが……。

『宝利がいたなら、きっと大丈夫だよね』

 逆にホッとしました。

『……なんてやって場合じゃない! 時間かけすぎた!』

 慌てて記憶野から退去し、球状総合感覚器官に意識を戻す八尋。

『簗くん平気⁉ だいぶっちゃったけど息苦しくない⁉』

 神気波でヒラさんの掌にいる簗の小型通信機いんかむに呼びかけます。

「だいぶ……? いま話したばっかりだよ?」

『ええっ⁉』

 八尋はあわててヒラさんの記憶野から時間経過を確認しました。

『ホントだ。まだ十五秒しか経ってない……』

 どうやらヒラさんの思考に入りすぎると、逆・浦島太郎になってしまうようです。

『演算速度が人間とは桁違けたちがいなんだね。すごいやヒラさん』

 おそらく本来の思考速度なら、人間の動きがスローモーションに見えるはず。

 ヒラさんは人間に合わせて速度を調整しているのでしょう。

『本来の記憶を見るのは、もうやめよう』

 ほんの一日だけの記憶でも、八尋の再生速度では十日や一週間、ひょっとしたら何カ月、何年もかかってしまうかもしれません。

 いくらヒラさんの超速思考を借りているとはいえ、八尋の体感時間タイムスケールで再生したのでは、現実の時間経過はともかく精神的にお婆ちゃんになってしまいそうです。

 ――送信が終わった。

 八尋の意識に、言語化されていない通知が入りました。

『ヒラさん⁉』

 ――〇〇がお前と、できれば手の中にいる幼体とも話したいといっている。

 黄銅龍の名前は、人間では再現できない発音……いえ、音声ですらありませんでした。

『……簗くんと?』

 ヒラさんの通知には、八尋が言語化できるデータの他に、なんだか漠然ばくぜんとした大量の情報がふくまれています。

 それを感情で読み取ると……。

『まさかあの龍、簗くんを気に入っちゃったの⁉』

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