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つりみこ3 ~LINDORM~  作者: 島風あさみ
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断章・その二

『……〇〇市議会議員がイベント会場の控室ひかえしつ小結こむすび錦大帝にしきだいてい執拗しつようなセクハラを行い重症を……』

「誰よ釣り座にラジオ持ち込んだの⁉」

 桟橋さんばし停泊ていはくしている二トン級の刺しあみ漁船を改造した遊漁船ゆうぎょせん(釣り船)【あさがり丸】の大艫おおども(後部甲板最後尾)で、ハゼ釣りをしていた綱島莞子つなしまかんこがキレていました。

 生真面目きまじめそうなおさげ髪が特徴の女の子で、磯鶴いそづる高校船釣り部の副部長です。

「騒ぐな……暑さが倍増する……」

 ボーイッシュなショートヘアの北川亜子きだかわあこが苦言をていします。

「こんな風もこない船着ふなつき場はイヤじゃん! 風通しのいい堤防行こう!」

 セミロングの江下千歌ええがちかは釣り場の移動を提案します。

「駄目に決まってるでしょ。そんな事したら私たち船釣り部じゃなくなっちゃうじゃない」

 莞子は意地でも船上で釣りをする気です。

「普段はデカくて脂臭あぶらくさい部長だけどー、いないと不便だよねー」

 ちょっと高めの身長でショートボブの鍔黒作江つばくろさくえがボヤきました。

 あさがり丸は部長の相楽光蔵さがらこうぞうラックスが不在で、エンジンをかけるどころか出航許可さえ取れない状況です。

 仕方なく残った部員たち四人は、動けないあさがり丸の甲板から、ハゼの穴釣りやクロダイ狙いの落とし込み釣りやメジナを狙った浮き釣りを強行していました。

 操舵室の後部からキャンバスを張り、スパンカー(風上に向けて船を安定させるほろ)まで上げて作った日陰ひかげにいるものの、返って遠赤外線でし焼きにされているようです。

「いま光蔵さんの悪口いった? 〇すよ?」

 莞子の目がマジの殺気をびました。

「怒るな……暑さが倍増する……」

 もはや、なにをやっても気温が上昇するような気がします。

「そもそも納竿のうかんする(釣りをやめる)って選択肢はないのー?」

「ない! 夕方には光蔵さんが帰ってくるんだから、それまでここから絶対動かない! これは副部長命令よ!」

「莞子が……船舶せんぱく免許を取らないのが悪い……」

「なんですって⁉」

 部長しか免許を持っていないのが、船釣り部のアキレスけん

「免許取ったら……部長が船に乗ってくれなくなる……わざと取らない……」

「うちは部長しか男子いないから、女子に免許持ちがいたら逃げられると思ってるじゃん。莞子が」

「うぐっ⁉」

 あさがり丸は莞子が漁師を引退する親戚に寄付してもらったもので、二年前に老朽船ろうきゅうせんの引退で廃部になった船釣り部を復活させたのも含めて、すべて免許持ちの光蔵を引きずり込むための口実。

 光蔵は卒業したら下関の水産大学へ行ってしまうかもしれないので、それまで少しでも一緒にいたいと考えての行動です。

 しかし莞子が苦労して集めた部員は一年の女子のみで、男子の勧誘は失敗。

 二年生はすでに部活動をしているか家業でいそがしいので無理。

 そんな訳で、光蔵は船釣り部で、ただ一人の男子部員になってしまいました。

 女の中に男が一人。

 肩身がせまいだけでなく、男子高校生として社会的に致命的なシチュエーションです。

「ホントは二人っきりで釣りしたいんだよねー?」

「うぐぐっ⁉」

「……ウチら……お邪魔じゃま虫……」

「うぐぐぐぐっ⁉」

 相楽光蔵は頭も性格も人当たりもよいドイツ系クォーターで、ルックスの問題さえなければ女子にモテるタイプです。

 巨漢デブでさえなければ……。

 そして、そのルックスをモノともしない唯一の女子こそ、副部長で幼馴染おさななじみの綱島莞子でした。

「いい加減結婚しろー。日暮坂ひぐれざかさんは敵じゃないぞー」

 いまのところ光蔵を狙っているのは莞子だけです。

 莞子は同じ幼馴染で光蔵の従妹いとこでドイツ系クォーターの金髪でボンキュッボーンなあゆむ猛烈もうれつに敵視していますが、当の歩にその気は一切ありません。

 肝心の光蔵はというと、誰かに懸想けそうしている様子はなさそうで……。

「とりあえず告白じゃん?」

「あの人……気づいてもいない……アピールは大事……トゥイッチ&ジャーク……」

「私はルアーじゃない!」

「莞子はハードルアーだもんねー」

 とてもつつましいお胸をしています。

「集魚剤つけても無駄じゃん?」

「もうちょっと太れ……ソフトルアーになれ……」

「目指せカーリーテールじゃん!」

 カーリーテールは丸っこい虫をしたソフトルアーで、ヒラヒラした尻尾をつけています。

「ええいうるさだまれ! あとラジオ消す!」

「ああっ駄目だよー! もうすぐ爆轟ばくごう問題の月月火木木金金曜サンシキダンが始まるんだからー!」

 旧式の携帯ラジオをめぐってみあいになる莞子と作江。

『……昨日の午後二時、○○市の沿岸えんがんでカツオの一本釣り漁船【第六まどろす丸】が暗礁あんしょうに乗り上げ中央からっ二つに……』

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