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つりみこ3 ~LINDORM~  作者: 島風あさみ
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断章・その一・後編

「最近の装備は重くなったにゃ。昔はもうちっとつけるの楽だったのにゃ」

 紅消鼠べにけしねずみ(暗い灰色がかった赤茶色)の神官装束をまと隼瑪はやめは、八尋やひろの腰に胴乱ぽおちのついた革帯べるとを巻きながら愚痴ぐちこぼしました。

 髪は茶色の虎柄とらがら

 どんな構造で縞々《しましま》を形成しているのか不明ですが虎柄です。

 ネコミミと尻尾が生えているので茶トラです。

「昔って、悪樓あくる釣りやった事あるの?」

「もう二十年はっちょるにゃ。投網とみちゃんや巻網まきみちゃんたちと一緒に蕃神ばんしん様呼んで、悪樓を取り込みまくったにゃ」

 投網は今上女皇きんじょうじょおう(当代の女皇)、巻網は元・魔海対策局の局長兼神官長で、先日、魔海対策庁長官になったとあゆむ玉網媛たまみひめから教わっています。

 つまり隼瑪は魔海対策局時代からのベテラン神官。

 ブランクは長そうですが、八尋の召喚を一人であっさり成功させているので、その腕前はまったくおとろえていないと思われます。

 しかし時代が異なれば装備も更新こうしんされているもので、さすがの古強者ふるつわものも難儀している模様。

「ところで、これはなんにゃ?」

 革帯についた胴乱の一つに、中身の入っていない細長いものがありました。

「ああそれ? ヒラさん……ヒラシュモクザメの宝珠を入れるんだよ」

「おお、そうにゃったか。この前、醒州せいしゅうつかまえた大物にゃな? 飛んでる悪樓をとらえるにゃんて八尋様は凄いにゃ」

「う……うん、そう……」

 先日、抄網媛が起こした八尋誘拐事件は、醒州と魔海対策局(当時)の裏取引で、玉髄から逃げたヒラシュモクザメを八尋が捕獲したと世間に公表されています。

 その一件については、後日に単独で召喚された歩から、政府の機密事項で他言無用と念を押されていましたが……。

「……違うの。ヒラさんはさらわれたぼくを助けにきてくれたんだ。いろいろあって嘘をつく事になっちゃったみたい」

 その様子を見て、隼瑪はニッコリと笑いました。

わち(・・)の負けにゃ。八尋様は正直者にゃな」

 どうやらカマをかけられていたようです。

「抄網ちゃんの件は知っとるにゃ。わち(・・)はあの時、醒州にいちょったからにょ」

 革帯を巻いた八尋の腰にはかま穿かせる隼瑪。

「どうして知らないフリしたの?」

わち(・・)の子をまかせるに相応ふさわしい男子おにょこか見定めるためにゃ」

 嘘をき通していたら、それはそれで信用されていたのではないかと八尋は思いました。

 正解と不正解しかないクイズ問題ではなく、八尋の為人ひととなりを見るための引っかけ問題。

 ちょっと失礼な気がしますが、八尋は歩に『皇族おうぞくは変人しかいねぇ』といわれているので、気にしない事にしました。

 こちらも嘘を吐こうとしたので、お互い様です。

「三男坊のやなにゃ」

 八尋の着つけを終えた隼瑪が脱衣所の扉を開きます。

 扉の向こう側には、八尋と同じくらいの背丈せたけで、おとなしそうな男の子が立っていました。

光和みつわ……簗です」

 男の子はオドオドしながら名乗ります。

 その仕草に、八尋は共感を覚えました。

「僕は稲庭いなば八尋。よろしくね」

 なんの抵抗もなく、すんなり名乗れたのは初めてかもしれません。

 簗の髪はグレーの鯖虎柄さばとらがらで尻尾はフサフサ。

 対して八尋の髪は日本人離れした亜麻色あまいろで、尻尾はありません。

 簗のはかまあざやかな黄緑色らいむぐりいん

 八尋の袴は瑠璃色あじゅうるぶるうです。

 なのに、なんだか他人という気がしません。

 髪色も目鼻立ちもまったく異なるのに、鏡を見るように瓜二うりふたつ。

 五つも年下なのに、雰囲気があまりにも似ているので、八尋はなんだか負けていられない気がしました。

「とりあえずお友達になろう。ほら握手」

 八尋がお兄さんなのでリードしてあげなくては。

 そう思って右手を差し出します。

「……………………♡」

 手をにぎると、簗のほおが桃色に染まりました。

 お兄さんではなく、お姉さんを見る目つきです。

甲板でっきに行くにゃ。そろそろ月長げっちょうと合流する時刻にゃからにょ」

 隼瑪が先導して艦内通路ぱっせえじを歩きます。

 傾斜梯子らったるを上って前甲板ふぉうくするに出ると、舳先すてむの向こうに、側面をさらす真っ白な安宅船が浮いているのが見えました。

「あれが月長……?」

 玉髄より一回り大きく、月白むうんほわいと薔薇色ろおずれっどり分けられた艦体。

 翡翠しょうびんを連想させる、左右に張り出した飛行甲板。

 そして、なにより目立つのは、くずれかけの積木つみきみたいな前檣楼ふぉあとっぷ

「違法建築だ!」

 SNSでちょくちょく見かける戦艦扶桑(ふそう)のイラストにそっくりでした。

 扶桑型戦艦のように、いまにも艦橋だけ垂直離陸しそうな法外な高さこそありませんが、まるでキュビズムの絵画や彫刻のようで、見ているだけでSAN値を根こそぎ奪われ精神が不安定になってきます。

 軍事にうとい八尋にも一目でわかりました。

 ああ、また欠陥品をつかまされたな……と。

「玉網さんも大変なだあ」

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