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ステラと魔法と少女と日常  作者: A.2
始まりはいつも唐突に
3/4

その1

 これは私が魔法少女になる前のお話。

 否。

 魔法少女にされたお話である。


 とある休日の朝。

 最近雨ばかりだったけど、今日は雲一つ無い晴天。とてもすがすがしい陽気だ。

 すがすがしいのは陽気だけではない。私の気分も本日最高にすがすがしいのだ。

 なんたって今日はお兄ちゃんの部活が休みなので一日一緒に遊んでくれるというのだから。

 こんな幸せそうそうあるものじゃない。一緒にご飯食べてー、買い物行ってー、映画でも観てー、ああ! 考えただけで幸せ! もう幸せ過ぎて爆発しそう!


「おーい、ステラ。朝ご飯できたぞー」


 お兄ちゃんが私を呼んでる。急がねば!


「はーい! お兄ちゃん。今行くー」


 私は自分の部屋を飛び出し、階段を駆け下りていく。

 そして、朝ご飯を大好きなお兄ちゃんと一緒に食べる。もうこれだけで幸せ。後、お兄ちゃんに『ほっぺにケチャップが付いてるぞ』って言われて取ってもらった時なんか嬉しさで昇天しそうだった。

 朝ご飯を食べ終わるとお兄ちゃんは食器の片づけをしていた。

 私はまだパジャマを着たままだったことを思い出し、お兄ちゃんを手伝う前に着替えようと二階へと階段を上がり自分の部屋へと足を運んだ。

 自室の扉を開ける。

 目の前の光景を目にした瞬間、唖然とした。


「お嬢ちゃん。ワイと契約して魔法少女になってくれへんか?」


 なんと昔からお気に入りだった豚のぬいぐるみが宙を浮き、私に語りかけてきたのだった。


「え? 何これ? 夢なの? 朝ご飯も食べたしもう寝ぼけてないはずなんだけど。それともお兄ちゃんと過ごせる一日が嬉し過ぎて幻覚が見えてるのかな?」


 混乱する私に豚のぬいぐるみはまったく気にしていない様子だ。


「夢でも幻覚でもないで、お嬢ちゃん。ワイは魔法生命体のラピスって言うもんや。まあ簡単に言うと、よく魔法少女もんの作品で主人公にアドバイスしたりするマスコットキャラみたいなもんやなぁ」


「はぁ」


 私は気の無い返事を返した。

 そりゃそうだ。朝目が覚めたら、豚のぬいぐるみが魔法少女になれっていうのだから。しかも関西弁で。うさん臭さしかない。


「ほんでどないや? 魔法少女ならへんか? ワイの見たところ、お嬢ちゃんはかなりの素質を感じるで。それほどの素質があればお嬢ちゃんの人生バラ色ハッピーライフ確定やで。激アツやで」


「はぁ」


「なんや、さっきから覇気があらへんのう。もしかして怖がっとったりする? わははは! 安心せいや。取って食ったりしやんからな」


 なぜだろうか。見た目は可愛らしいのに、この関西弁とおっさんみたいな態度で今にも殴り飛ばしたくなってくる。

と思ったその時だった。


「あんた何勝手に人様の家に上がり込んでんのぉぉーーっ!」


 私の部屋のガラスが砕け散る音と共に女の人が大声を上げて飛び込んできた。その勢いで蹴り飛ばされた豚のぬいぐるみことラピスと言う魔法生命体は部屋の端まで吹っ飛んでいった。

 私は突然出来事に声すら出なかった。


「ごめんなさいね。このバカが突然変なこと言い出して」


 見た目から察するに高校生くらいだろうか。目の前に現れた女性は頬を指で掻きながら謝罪の言葉を述べる。いや、謝るのはいいけど私の部屋ちゃんと直してよ?


「あなたたちはいったい何なんですか?」


 私は弁償うんぬんよりもこの不届き者共の素性が知りたかった。でないと請求できないし。

 女性は私の言葉ににっこり微笑むと軽く会釈した。


「ワタシの名前は春雛(はるひな)(あずさ)。よろしくね」


 そう言うと彼女は手を差し伸べ私に握手を求めた。あまりに爽やかなのでつい反射的にその手を握ってしまった。

 すらっとした外見だがただ痩せているというわけではなく、素人目から見てもかなり鍛えられていることが分かり身体に無駄なお肉が無い。実に羨ましい体型だ。髪は一つにまとめポニーテールにしており、体育会系の雰囲気が醸し出されている。

 さて、一応自己紹介されたので私も自分の名を名乗っておくとにする。


「私は星宮ステラです」


 すると梓さんは私の手を握ったまま覗き込むように顔を寄せてきた。なに!? 近い! この人、美人だからそんなことされると恥ずかしい!


「あなたお人形さんみたいで凄く可愛いわねぇ。外国の人なの? 日本語上手だね」


 そういうことね。だいたい私と初めて会った人はそういう反応をする。そりゃあ金髪碧眼の人を見れば誰だって思うよね。いつものことなので弁明しておく。っていうか頬ずりとか止めて! 恥ずかしい!


「いえ、私はこんな見た目だけど日本生まれの日本育ちで外国の言葉は一切喋れないんです」


「そうなの? それは悪かったわね。ごめんなさい」


 はははと笑い頬ずりを止め、私の手を放す梓さん。ああ、恥ずかしかった。


「ところでだけど」


 突然、辺りを見渡し何かに気付いたかのように深刻な表情を梓さんは見せた。何だろう? そんな表情されると私も不安になってくる。

 梓さんは口元をゆっくり動かし言葉を発する。


「この部屋、汚くない?」


 んー? 確かにガラスの破片がたくさん散乱してるし、豚のぬいぐるみが本棚に激突して下敷きになってるせいで無造作に漫画やらが散乱してるし、何より梓さん土足で部屋の中に入ってきてるからカーペットに泥で足跡付いちゃってるもんなー。そりゃあ汚いわー。


「って、お前らのせいだろうがぁぁぁぁーーーーっっ!」


 まさかの台詞に怒り一気に頂点へと達した。


「器物損害に不法侵入だぞ! さっきから何なんだ! 魔法少女だのなんだのと! 小学生だからって甘く見てるとこっちだって考えがあるぞ! 呼ぶぞ! 国民を守るべき正義の組織、警察を呼ぶぞぉぉーーっ!」


「ちょ、ちょっと落ち着いて。ワタシ達は怪しい者じゃないから」


「怪しさの塊じゃい! 普通の人が窓から見知らぬ人の家に入ってくるか!」


 その時、我が家の一回から声が聞こえてきた。


「おい、ステラどうしたんだ? 何をそんなに騒いでるんだ?」


 この声は愛しのお兄ちゃんの声!

 そうだ。兄ちゃんを呼んでこの不審者を捕まえてもらおう。お兄ちゃんはスポーツ万能で、昔護身術も習っていたらしいし。何より可愛い妹を守るために戦うお兄ちゃんという構図がいい。最高♡


「お兄ちゃん! 早くこっちに来て! 不審者が……むぐっ!」


 口元を不審者こと梓さんに押さえつけられた。しまった油断してしまった。


「くっ、こうなれば一時退却よ。ほら行くよ、ラピス! たらたらしない!」


「お前さんが蹴り飛ばすからやろがい!」


 一人と一匹(?)は砕けた窓から私を抱えたまま飛び出し、他の家の屋根を伝っていった。


「んーんーんー!」


「ごめんね。落ち着いた場所に着くまで我慢してね」


 口を押さえつけられているので声が出せない。私は人生で初めて誘拐されてしまった。このままお兄ちゃんに会えなくなるなんて嫌だよぉぉぉぉぉぉーーーーっっ!


「ん? あそこの屋根の上を走ってる女の人に抱えられてるのってステラちゃんじゃないかな?」


お兄ちゃんのことで頭がいっぱいになっていた私はリリの存在にまったく全然ミジンコ程度も気付かなかったのだった。

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