その2
仕方なくリリに連れられ、一緒に鍵を探したが見つからなかった。
なんだかんだで放課後。
「見つからなかったなぁ」
学校の屋上にて、私はぼんやりと空を眺めているリリに声をかけた。
「そうだね。無かったね」
気の無い返事が返ってくる。見つからなかったことが相当ショックなのだろうか。
「まあ、気にするな。元気出しなよ」
「…………」
私の言葉は聞こえているだろうに、リリはぽーっと空を眺めたまんまだ。
と思っていたら突然、
「ステラちゃん!」
「うわっ!? なんだよ。いきなりバカデカい声出すんじゃないよ!」
心臓止まるかと思ったわ!
「ごめんごめん。いい方法を思いついたからつい」
ほう。いい方法ねぇ。学校でも成績最下位から数えた方が早いリリの知力でどれほどの名案を思いついたのやら。
「ステラちゃんの魔法を使えばいいんだよ」
「魔法を?」
「うん!」
はぁ、やっぱりリリは浅知恵だな。
「リリよ。まず私は魔法少女にさせられたから魔法が使える。だがしかし、まずは変身をしなければ魔法少女にはなれない。魔法少女になれなければ魔法は使えない。故にその方法は無理だ」
魔法少女に変身するためには、魔法生命体ラピスがいなければいけない。だがラピスは、先日私に黙ってとっておきのプリンを無断で食し、私の怒りを買い、虫かごに閉じ込め近くの公園のゴミ箱に放り投げてきたのだ。なので私は変身することができない。クソっ! あの害虫生命体が私のプリンを食べなければ今頃魔法の力で万事解決だったのに。
さぁて、無理と決まれば帰ろう帰ろう。早く帰って再放送のクリキュアを観よう。あれ面白いんだよなぁ。
「大丈夫だよ。ラピスちゃんならあたしが回収しておいたから」
「えっ?」
リリからの意外な言葉についマヌケな声を出してしまった。
「ほら」
そう言うと、リリは背中に背負った赤色のランドセルの中から何かを取り出した。そこにはあの時、ゴミ箱に叩きこんでやった忌々しいラピスの姿があった。
魔法生命体は本来決まった姿を持っていないらしく、光の玉のような形をしている。しかし、その姿のまんまだと色々差支えがあるので、無機物に憑りつき自身の身体とすることができる。ラピスは家にあった私の豚のぬいぐるみに憑りついている。故に豚である。クソ豚だ。
ゴミ箱にいたので汚れていると思ったが、リリに拾われたことが功をそうしたようで、私の家にいた時よりも綺麗になっていた。
「久しぶりに会ったのう。よくもワシをゴミ箱へ捨ててくれたのう! この嬢ちゃんに拾われへんだら今まだくっさいゴミと戯れとらなアカンだんやぞ! 反省しとるんかワレ!」
うん。久しぶりに会ったけど、凄いムカつく。何がムカつくって可愛らしい豚のぬいぐるみで可愛らしい声をしているのに関西弁でおっさんっぽい喋りなところが激ムカよ。
とりあえず、このクソ豚関西オヤジは無視することにする。
「確かにこれで変身はできるけど、リリも知ってるでしょ。私は魔法が思ったように使えないって」
「おい。無視するなや。返事せえや。おい!」
「その心配もないよ。あたし、ちゃんと授業そっちのけでカードを作ってきたからね」
なんともまあ、勤勉なのか怠惰なのか分からないな。
「はい。これね」
「おーい。ワイの声聞こえとるかー? 耳ついてへんのんかー?」
リリは私にカードを手渡した。
このカードこそ、私は魔法を使うために必要不可欠なものなのだ。
私は本来、無限に近い魔力と可能性を秘めているらしい。しかし、それらを全て扱えるほどの技量が無く、一番致命的なのが、私は空想などのメルヘンな想像に疎いのだ。想像力は魔法を制御し操るためには必須らしい。私にはそれがほとんど無い。現実派なのだ。それを補うために編み出された秘策。それこそがこのカードだ。このカードはリリが自作したものである。リリは昔から想像力だけ! は人一倍だった。なので魔法の効果をカードに記し、それを私が使うことにより魔法を使用するという方法を考えたのだった。
長い説明になってしまったが、つまりは魔法をリリが考えカードにし、それを私が使うのだ。
カードに目を通す。そこには透視力と書かれていた。説明欄にはざっくり言うと、探し物の存在を感知し、気配を察知するみたいな感じのことが書かれていた。
よくもまあ、こんな非科学的なことを思いつけるもんだ。ある意味尊敬するよ。
まあリリも鍵を見つけるために色々と頑張ったみたいだし、仕方がない。私も気は乗らないが真面目に協力しようかな。
「分かった。変身して鍵を探すよ」
その言葉聞きリリはすこぶる笑顔を私に向けた。
そんな笑顔されたら、頑張るしかないじゃないか。
「ほら変身するぞ。クソ豚」
「誰がクソ豚やねん! ってかさっきからワシの話聞いとったか? もし聞いてないんやったら変身なんて絶対にせえへん……ぐえっ!」
なんかごちゃごちゃうるさいラピスを鷲掴みにし、目を閉じ意識を集中する。
「変身っ!」
淡い光が全身包んでいく。身体中が干したばかりの布団に包まれているような温かな感覚。僅か数秒。私は先ほどまで着ていた学校指定の制服からコミケ会場に行けばカメラを乱射されそうなどこからどう見ても魔法少女と言うにふさわしい姿となった。
「いつ見てもその姿のステラちゃん可愛いよぅ。お持ち帰りしたいぃぃ!」
こらこら。興奮して危ない台詞を吐くんじゃない。色んな意味で。
「じゃあ魔法を使うぞ」
私はリリから貰ったカード空高く放り投げた。そして、いつまにやら手に握られていた杖をカードの方へと向ける。
「透視力!」
私はリリの家の鍵を頭の中に思い浮かべた。すると空から覗いたようなかたちで学校が見えた。屋上には私とリリが見える。どんどん私達に視線が近づいていく。そして、私の近くで一旦動きが止まる。なぜに私? するとまた視線が動きだす。私のピンク色のランドセルだ。中を覗く。視線は教科書をかき分け奥へと進んで行く。私の筆箱が見える。チャックを開け中を覗く。その中に……。
私は目を開けた。すると先ほどまでの景色は消え、視線は私の目へと戻ったようだ。
私は一目散に自分のランドセルの中を調べた。そこには先ほど見た通り。筆箱がその中に探し物が入っていた。
なんでここにあるの?
私は目を閉じ記憶を探る。すると透視力の力が発動したようで、私の姿が見えた。
『ひひひっ。リリに少し悪戯してやるかなぁ~。そうだ! リリの家の鍵を私の筆箱に入れてといて、鍵を無くしって思わせて驚かせようそうしよ♪』
私はゆっくりと目を開く。
「ステラちゃんどうしたの? 鍵の場所分かった?」
「ああ、鍵ね。えーと、どこだろうねぇ。上手く見えなくてさぁ」
と、とりあえず、ここはいったん誤魔化して、リリのランドセルにこっそり入れておこう。そうすればばれない。私は怒られない。計画通りだ!
「おいおい。なんで嬢ちゃんの教えてあげやんや。ステラのランドセルの中に鍵が入っとったでって」
「おい! このバカ豚!」
そういえば、変身してる時はこの豚と一心同体になる。だから、こいつにもあの景色が見えてたんだ。豚だけにトンだ誤算だよ! 冗談言ってる場合じゃない!
「ステラちゃん……。どういうこと?」
威圧感が半端ない! いつものリリじゃない。
「いや、それはその、えっと……」
「どうして嘘吐いたのかな? かな?」
その台詞は著作権侵害になるから止めといた方が……っとか言えないよ!
「その、ちょっとした出来心で驚かせてあげようかなぁ~っと」
「嘘だ!!」
「ひぃぃぃぃ~っ! ご、ごめんなさいぃぃぃぃ!」
放課後の夕暮れにひぐらしの鳴き声と共に、私の泣き声も空に響き渡ったのだった。