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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

エッセイ一覧

片目のない猫を飼っていた思い出

作者: +1

若干グロテスクなゴア描写があるためR15の設定をしています。

あとはペットのトイレ関係の話題にも言及していますので、苦手な方はご注意ください。

 昔、実家で猫を飼っていたことがあります。右目を失っているキジトラ白の、愛すべき馬鹿猫の思い出。


 私の故郷は野良猫が多く、野良猫にエサを与える家も珍しくありません。都会だと鳴き声や糞尿の匂いの問題で、褒められたことではないかもしれませんね。

 でも虫やカエルの声が大音量で鳴り響く環境では今更。糞尿の匂いに至っては発酵させないまま牛糞を畑の肥料にする習慣があったため、これもまた今更です。住民は「ウンコの臭いは田舎の香水」だなんて揶揄していました。

 当然衛生的にはよろしくないですし、河川の窒素分過剰汚染が問題化してたりもしましたが、ここでは余談。


 実家周辺に居ついた猫も複数いました。車庫(屋根と三方に壁がある常時オープン式納屋)に居ついた母猫が小さな蛇を仕留めて、3匹の子猫に与えている場面を見たこともあります。

 なお彼女たちは子猫の独り立ちに加え、タヌキとの縄張り争いが激しくなった時期だったこともあって実家周辺を去りました。



 「ルン」と名付けられたそのキジトラ白は、最初はそんな野良猫の一匹でした。



 初めのころの印象は「何け、このヘタレ猫。放っちょったら飢え死にすっど……」。

 臆病で怖がりで喧嘩が弱い。食べ物を他の猫に横取りされてばかりで、そのくせ人間にも懐かないからエサももらえず。

 虫や小動物を狩るのが自然の姿とはいえ、見るからに痩せていて。

 私の父がエサを手に日数をかけて少しずつ距離を詰めて、実家でエサを食べるようになりました。それからは、うちの家族は怖がらない程度に懐いていました。

 それまでは父は猫嫌いを公言していたのですが、どういう心境の変化があったのかは謎。嫌いになった理由が幼少期に自分の布団の上で飼い猫が出産したからなので、実に半世紀ちかくぶりの和解だったようです。


 そこからは1年ほど、毎日エサをねだりに来る野良生活。

 別のコワモテ猫が横取りを狙ってくるため、食べている間は基本的に見守る必要がありました。

 家のの反対側を小学生が通りかかるだけで怖がって中断して逃げちゃうので、完食しない日も多かったのですが。どうやら高く大きな声が苦手な様子。

 だんだん居つく時間が伸びてきて、屋外デッキで日向ぼっこをしているのがいつの間にか日常になっていました。

 たまたま掃除の関係で水槽をデッキに出していたら、やってきたルン(当時は無名でしたが)が中のメダカを狙って手を出した一幕も記憶に残っています。

 前足で水面を叩いたら跳ねた水が顔にかかって大騒ぎしながら逃げていき、その日は現れなかった。そう、猫なのにメダカに負けたという始末……。


 しかしある日、事件が起きます。庭(というか畑。平屋の家屋より広い)の茂みの中で血を流して倒れていたようです。ようです、というのも私自身はその場にいなくて、経緯を後から聞いたから。

 頭から血を流し、片目も飛び出してぶら下がっていた無残な姿。おそらく交通事故にあい、そこまでどうにか自力で移動したのでしょう。

 もう助からないだろうけども手は尽くしてやりたい。そう思って動物病院の夜間急患に行って手当してもらったようです。

 実はこの時の処置にも問題があって、詰め込んでまぶたを縫い付けた目玉が数日後に膿んでしまって、後から別の動物病院で再切開&切除となるのですが……。まあ最初に処理してもらった先生の専門は熱帯魚らしいし、草刈り用の回転ノコで足を一本切り飛ばしてしまった犬も同時に担ぎ込まれていたらしいので、多少の粗は仕方ない部分もあったのでしょう。

 ここまで面倒を見たのなら最後までということで、正式に飼い猫として登録することとなりました。

 ……この数日の経緯に立ち会っていない理由は自分でもよく覚えていません。修学旅行に行っていたぐらいしか合理的な説明が思いつかないので、たぶんそうなんでしょう。げに悲しきは我が身の記憶力。


 片目なのと、飼い猫登録時の検査で猫白血病であることも判明して完全室内飼いになったのは、野良からの環境の変化としてはかなり大きかったのではないかと思います。

 怪我の後遺症とは別に、次に風邪をひいたら死と獣医から警告されていました。なので他の猫との接触は厳禁で、一切外に出さないことが重要だったのです。それに、接触した他の猫に白血病ウイルスを感染させてしまう可能性もありますから。

 もちろん避妊手術も体力回復を待ってから受けさせます。室内飼いのオス猫で避妊手術なしというのは、現実的な選択肢ではありません。

 ちなみに「ルン」という名は、飼育を決めた際に付けたものです。命名者は妹で、額の模様が三日月に見えるから。

 それまでは皆から「ネコ」としか呼ばれていませんでした。「ネコー! エサやぞこっち来んけ!」みたいに名前としてネコと呼ぶ、不思議な感性の一家。


 急な話でもありましたし、猫部屋を与える余裕はありません。玄関(建前)の土間の一角に3階建ての大型ゲージを置いて、そこで飼うことになりました。

 玄関(建前)なのは、普段誰もそこを通らないから。外出したり車庫に行くならキッチンの勝手口からが便利でしたし、庭(畑)にいくなら大窓から屋外デッキを通って行ったほうが便利でだったのです。

 近所の人や郵便配達がやって来る時も、勝手口をノックして訪問を知らせる家で、玄関のチャイムが電池切れしてても年単位で気付かないことすらザラという。

 明らかに設計がおかしいのは、祖父が大工だったツテで両親が家を建てる際に好き勝手に図面に要望を出したから。そのためかなり定石を外れた間取りの家で、「公民館みたいな家」なんて言われてました。

 玄関(建前)を使う人は訪問販売と宗教勧誘くらいだったように思います。あと学校の家庭訪問。

 宗教勧誘に玄関から来た人に怯えて、すぐそばにいるのに置物みたいに固まってしまったルンは、なかなか見物でした。

 宗教勧誘のおばさんが勧誘トークの途中にふと横を見たら、(ケージの3階部分にいたので)自分の顔と同じくらいの高さでしっぽ巻き座り、縮こまってピクリとも動かない片目の猫がじっと自分を見ている。ホラーかな?

 一瞬で勧誘トークを打ち切って帰って行ったので、招き猫ならぬ追い出し猫として非常に優秀です。


 室内飼い、それもゲージ飼いだと運動不足解消が一つの課題です。気がけてゲージの外に出し、遊ばせる必要があります。

 走るとフローリングで滑るのか、角を曲がり切れずに玄関の土間部分にスピンアウトし落ちていく。

 押入れの中へ冒険しに行った挙句、ヒゲの大半を失っていて身幅が分かっていないものだから出られなくなる。

 爪とぎ板があるのに柱で爪とぎしてズタボロにした挙句、引っかかって爪が剥がれる。

 誰かの後をついて行くのが好きで風呂場までついてくるのに、そこで扉が閉まるとシャワーの時間だとようやく悟って大騒ぎする。

 膝に乗せられたり抱っこされたりは嫌いなのに、自分から膝に乗るのは好きという天邪鬼。

 慣れてからは残った片目を進行方向に向けるようになりましたが、初めのころは片目が見えていないことを自覚していなかったのか、見えていない方向の壁にぶつかることもしばしばでした。

 基本的に放置はできない、目を離せないアホの子。「ビンタ(頭)を強く打って馬鹿になっちょるとやが」なんて苦笑しながらも、元気いっぱいに駆け回るまで回復してくれたのはありがたいことです。

 でも知らない人がいると固まる。室内飼いをするようになってからはその傾向が更に顕著になって、身内(飼い主)にはイキるけど他人には臆病という、ますます残念な子となっていきました。


 飼育に際しては綺麗な話だけでは終わるわけにいきません。トイレもまた、ルンの行動で苦労したものです。

 ルンは不妊手術をしていないオス猫がマーキングをするように、座って用を足さず撒き散らす悪癖がありました。

 本当にマーキングであれば色んな所でやらかすはずが、ちゃんと猫用トイレに行って、でもトイレの外に撒き散らす謎の習慣。

 これについては動物病院にも相談したのですが、最後まで改善することはありませんでした。たぶん事故の後遺症なのだろう、と。

 ケージの床には新聞紙を敷き詰め、トイレを置いてあるケージ1階部分の壁には犬用のトイレシートをガムテープで貼り付けることで対処せざるを得ませんでした。

 みなさんご存知の通り猫の尿は臭います。トイレにしてくれるなら猫用の砂なのでそこまで問題にはならないのですが、壁のシートは犬用だからそこまで期待できない。トイレ掃除だけではなく、敷替え・張り替えを毎日行っても、どうしても悪臭は発生してしまっていました。

 場所が玄関(建前)なので廊下まで臭いが漂うんですよね。まあそのうち慣れて、そういうものとして受け入れて過ごしていました。

 動物を、それも問題があることが最初から分かっている個体を飼うのですから、これも仕方のないこと。

 ちなみにトイレ掃除の当番や担当はなく、「誰かしら気が付いたらやる」。特に家族間のトラブルもなく、そのとき余裕がある人が世話をしていました。


 事故でそのまま死んでもおかしくなかったし、病気のため回復してももって3年と言われていました。

 でもそのくせ結局は長いこと生きた子でした。あのまま事故に合わずに野良だった場合より確実に長生きしているはずで、謎の生命力と悪運を持っていた。

 最期は加齢(病気の影響もあり)での腎不全で、私たちの家族を散々振り回したのとは対照的に静かに去っていきました。



 「ケータイの待ち受けは昔飼ってた猫なんだ」「へえ、猫ってウインクするんだねー」「うんにゃ、ソイツは片目が潰れちゃってたから、そう見えるだけ」

 そうやって機会を見つけては思い出語りをする私の悪癖もまた、有名なフレーズにある「心に残った猫の形の穴」なのでしょう。


ペット語り見せかけた、心の穴を拡散するテロ行為。

その狙いもあって敢えて●年前といった表現は使わず、読んでいただいた方が追体験感覚になるようにしてあります。


感想、ご指摘、各位のペット語り等ありましたら、是非感想欄にて。

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[良い点] 猫愛が伝わってくる。 [一言] 以前、私の家にもやたら手の焼ける黒猫が居ました。 とても臆病な性格で、一度パニックに落ちいると八つ当たり猫パンチで家族に攻撃を仕掛け、流血の惨事になるまで…
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