98 初日:食事とガレットさんのお誘い
斬鬼丸とのオセロ勝負にひと段落つけたガレットさんが窓を開けて外の様子を見る。
オセロの前で肘を突いている斬鬼丸も窓の外を見る。
「……ふむ。もういい時間ですね。ナターシャ。クレフォリアさん。食事に行きましょう」
「ん? はーい」 「はい」
“石片”という魔法でどちらがより堅い石を創れるか遊んでいたナターシャとクレフォリアが返答する。
二人が魔法を終了すると、宙に浮いていた小さな石の欠片が虚空に消失していく。
ガレットさんが立ち上がると斬鬼丸も後に続き、少女二人も立ち上がる。
そして少女二人をガレットさんと斬鬼丸でサンドイッチして護身完成。
あぁ、これ以上のガード方法が無いって意味でね。
部屋から出て鍵を閉め、一階へと降りるナターシャ一行。
……いや、ガレットさんが先頭だからゲーム的に言うならガレット一行なのだろうか。まぁどうでも良いかそんな事。
一階は冒険者の声で騒がしい。とても賑わっている様子。
元気だなーと思いながら階段を降り切り、その影を覗くとアーデルハイドさんが頭が痛そうなポーズをしていた。……大変そうだなぁ。
ガレットさんが酒場の空いている席を探している間立って待っていると、ここ最近聞き慣れるようになった男性の声がする。
「おっ、ナターシャじゃねぇか! 飯食いに来たのか!?」
ディビスだ。飲み物の入った木のジョッキを持ってとても楽しんでいる。
ナターシャは少し呆れた表情を見せながらも返答する。
「うんそうだよ。でも席全然空いてないね」
ナターシャの言う通り、一階の酒場にあるテーブル席は3つ。
その3つを冒険者達が3つのグループに分かれて占拠している。そりゃアーデルハイドさんも頭抱えるよ。
ディビスはその内の左側のテーブルに居て、他に座っているメンツは今朝紹介された銀等級の2人に見慣れない女性が1人。16歳くらい。
その女性は綺麗な茶髪を後ろに編み込んでシニヨンを作っている。隣に置いてある武器は……メイス。聖職者か。
ディビスは軽く一口酒を煽りながらナターシャに説明する。
「くはーっ! そりゃあこの宿の大半は俺らが貸し切ってるからな! 誰かが飯食いに来たり、村の人間が酒飲みに来るまでは好きにさせて貰ってただけだ! おいカレーズ! アストリカ! ナターシャ達が飯食いに来たからそっちに詰めろ!」
「はいはーい」 「りょーかい」
ディビスの指示で同じ席に座っていた銀等級2人が隣に寄り、ナターシャ達4人が丁度座れる空間が出来る。
ちゃっかり行儀よくしてるからアーデルハイドさんも頭痛そうなんだろうなぁ……。
席を空けてくれたのを見てナターシャはガレットさんに話しかける。
「ガレットさん。ディビスさんが席空けてくれたよ。あそこに座ろう?」
「そうですね。ではナターシャは私の隣に。クレフォリアは斬鬼丸と一緒に。二人とも冒険者と私達に挟まれるようにして座りなさい」
「はーい」 「分かりました」
ディビス達の居る席に向かい、ガレットさんの指示通りに座る。
クレフォリアちゃんの隣にはカレーズが居て、ナターシャの隣にはアストリカが。
ナターシャはカレーズがまたナンパを仕掛けるのではと危惧したが、流石にクレフォリアちゃんは年齢的に対象外のようで軽い挨拶程度で済ませる。
ナターシャの隣のアストリカも気さくな感じに話しかけてくれる。
「こんにちは領主の娘さん。今朝ぶりだね。調子はどう?」
「元気です。お姉さんも元気そうですね」
「うんお姉ちゃんすっごく元気! 可愛い女の子2人に囲まれてとっても幸せかもー! あははー!」
そう言ってアストリカはナターシャとシニヨンの少女の肩に手を回し抱き寄せる。
ナターシャはいつも通り営業スマイルだが、シニヨンの少女は顔を少し赤面させながら慌てる。
「あ、アストリカさんっ、こ、こういうのはちょっと恥ずかしいですっ……!」
「んー? アウラちゃん、そういうのは野暮って言うの。ここはこの領主の娘さんみたいに笑顔で受け入れちゃうのが正しい選択だぞー?」
可愛い笑顔のナターシャを撫で繰り回すアストリカ。超酒臭ぇ……絡み酒だコレ。
ガレットさんはその様子を特に気にも留めず、宿屋の人に食事を4人分持って来てほしい事を伝える。
宿屋の人も了承し、宿屋奥の厨房に入っていく。
そんなアストリカの様子を見かねたカレーズがアストリカに注意する。
「……なぁ、アストリカ」
「ん?何」
「ついに彼氏作りを諦めて彼女を作る気か?」
その煽りを聞いて、アストリカが暴れ始める。
「ううっ……、もう……もうっ! この際っ! 彼女でも良いから毎日一緒に居てくれる人が欲しいのっ! ねーアウラちゃん! お願いだから私を大事にしてー! 神の御前で愛を誓ってー!」
ナターシャを解放して本格的にアウラを抱き締め始めるアストリカ。
アウラは急な告白に赤面しながらしどろもどろに話す。
「そ、そそそう言うのは、女の子同士なんてそう言うのは良くないと……! じゃ、じゃなくて、アストリカさんお酒飲みすぎですー! うぅー……っ!」
抱き寄せられながらアストリカに頬ずりされるアウラ。拒否しずらいのか困った顔でそれを受けている。
ナターシャは、何処に行っても酒癖悪い人は居るんだなぁと痛感する。
それを見て笑っていたディビスが、アストリカに代わって謝罪する。
「ハハッ、悪いなナターシャ! アストリカは酔うと滅茶苦茶人に絡むんだ! だが、こういう冒険者は腐るほど居るから今のうちによーく学んどけよ!」
そう言って木のジョッキを空にし、お代わりを注文するディビス。
そんな中、比較的まともなカレーズが口を開く。
「そして次の日、正気に戻って昨日の出来事を後悔するのがアストリカだ。明日の少ししょんぼりした様子も見物だぞ。フフッ」
キザな笑みを溢しながらカレーズもジョッキの酒を飲む。
冒険者は癖が強いな。俺も注意しよ。
その後アストリカが暴れてアウラが被害を受けている間に食事が来る。
なんと小麦パンに茹でたソーセージ、付け合わせにマッシュポテトと人参。更に玉ねぎのスープ。豪勢だ。
そのまま無言で宿屋の人により運ばれてきた美味しい食事を食べ、アストリカのしつこい絡みを軽くいなして精神的に疲弊するナターシャ。お酒嫌い……
するとガレットさんが思いもよらない一言を告げる。
「……そうですね。アストリカさん。アウラさん。私達はこれから騎士団直営の公衆浴場に行く予定なのですが、一緒に行きませんか?」
「ん? お風呂!? 行く行く! アウラちゃんも行こう! ね!」 「あ、あぁ、えぇと、はい。私も付いて行きます」
お風呂と聞いたアストリカは即答、アウラも流される形で行く事に。
ガレットさんはお風呂の代金を奢る事を告げると2人はとても嬉しそうにする。
「うふふ、メッチャラッキーだね! じゃあその浮いたお風呂代でもう一杯飲もうかな!」 「アストリカさん、これ以上は良くないですよ。やめておいた方が……」
あわあわと止めるアウラを見て冗談冗談と言い放つアストリカ。それを聞いて安心したのかため息をつくアウラ。
ガレットさんは何とも言えない顔をしてから2人に出発時間を告げる。
「では、食事後一緒にお風呂に行きましょう。あまり遅くならない内に入っておきたいので」
「りょーかいですっ! じゃあちょっとお風呂の用意するから一旦部屋に戻るねー。アウラちゃんも一緒に行こ?」
「あ、はいっ分かりました。では皆さん、私達はここで一旦失礼しますっ」
気分良く2階に向かうアストリカに代わり、丁寧に頭を下げて別れを告げるアウラ。
アウラさん苦労人枠に入ってそうだ。疲れて倒れない事を祈ろう。
美味しい食事を食べ終え、ディビスとカレーズにも一旦分かれる事を告げたナターシャ達はガレットさんに続いて一旦自室へと戻る。
……冒険者ってフリーダムだね。




