91 クレフォリアちゃんと村の子の交流日記
今日も朝日が昇り、一日の始まりを知らせる。
木窓の隙間から差し込む光が一筋。部屋を照らし、少女の顔に差し込む。
ベットの中、綺麗に肩まで流れる髪は銀色で、寝顔は母親譲りの綺麗さの中に未だ幼さの残る可愛い顔立ち。
丈の長くて白い素材の肌着を身に纏い、両脇に少女を侍らせたまま目を覚ます。
身体を起こし、眠気で閉じようとする瞼を擦り、大きく欠伸をする。
「……朝かぁ」
おはよう皆。赤城恵だよ。
今日はエンシアへの旅が終わった次の日。俺的に言うならば休息日。僅か一日だけども楽しく過ごそうと思う。
まずは庭の風呂場で洗顔とうがいでもしよう……その後飯食って歯磨きでもするか。
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色々と朝の支度を終え、ママンが洗ってくれたオレンジと赤の服を着こんだ後。
俺はクレフォリアちゃんと天使ちゃんを連れて村に遊びに行く事にした。
家を出て、少し街道を歩くと分かれ道が現れる。石畳か土の二択。
石を選べばエンシア行きで、土を選ぶと村の広場に着く。
村の入口には大きな木の門があり、訪問者を出迎える。
広場はちょっとした商店街になっていて、最奥には教会。家々の間には木の柵。
現在は3台の帆馬車が広場に停泊中なのでちょっと狭いかも。あ、屋根付きの井戸もあるよ。教会の近く。
村の入口以外にも道があり、教会を挟むように伸びる2本の道は片方は畑、もう片方は騎士団の所有地。
騎士団エリアは一般開放されていて、そこは主に騎士団用の宿や物資倉庫、馬車等の保管エリア。村の食糧庫もそこにある。
あぁ、トイレや公衆浴場も勿論あるよ。ただ、廃棄物をどう処理しているのかは知らないし知りたくない。
因みに今いる村の広場では鶏が放し飼い状態。たまに子供達(俺含む)が追いかけて遊び、怒った鶏達に逆襲される様子は稀によくある光景。
他にも家事洗濯、裁縫、農具の修理。村人達が生活を営む様子が良く分かる。
まぁザっとした説明はこんな感じか。これと言って目立った物の無い中世の農村だ。のんびりしていて素晴らしい。
ついでのようだが、この村にはこれと言った名前が無い。
何故かというと、領主の家が近くにある村には領主の苗字が村名として当て嵌められるかららしい。
だから現在の名称はユリスタシア村。井戸端会議なんかで村の名前が出る度に少し恥ずかしい気分になるのは多分前世の記憶の影響だろうね。
3人並んで広場に入ったナターシャ達は、早速村の洗礼を受ける事になる。
「ナターシャちゃん、その子ってだぁれ?」 「教えてー。おととい領主様と一緒に来てた子でしょ?」
広場で遊んでいた少女達がナターシャ達を見てワラワラと集まってくる。……あぁ、可愛い。見た目だけは。
ナターシャは早速村の子達にクレフォリアちゃんの事を紹介する。
「この子はね、私の知り合いのクレフォリアっていう子なの。皆、仲良くしてあげてね」
「ご、ご紹介に預かりましたアル・クレフォリアです。み、皆様どうぞよろしくお願いします……っ」
ナターシャに続き、しっかりと自己紹介をするクレフォリアちゃん。
少女達はそうなんだーと言いながら嬉しそうに笑い、クレフォリアちゃんに近付いてきて……あぁ、始まったか。
ナターシャは囲まれる前に天使ちゃんの腕を引きスッと離れる。首を傾げる天使ちゃん。
「……ふぅん、クレフォリアちゃん、って言うんだ」
まず最初に話しかけてきたのは茶髪にウェーブがかった髪をした少女、ファリア。
クレフォリアはファリアに向かって再び挨拶する。
「えぇ、はい。よろしく『うん、いい髪ね。しっかり手入れされてるわ。』……!?」
前触れなく突然現れ、後ろからクレフォリアの髪を触るのは栗色の髪の少女。
演劇団の音響担当、リーシアである。
更にクレフォリアの両サイドをもう2人の少女が固め、ボディチェックに入る。
いきなりベタベタ触るのではなく手を取り、指先から順に、肌の質や肉付きなどを入念にチェックする。
「……指先が綺麗ね。爪もしっかり手入れされてる。身分の良さが出てるわ」
「肌の質も良いわね。良い物を食べてるんだわ」
「えっ、あの……」
村の子達に囲まれ、ボディチェックされて困惑するクレフォリアちゃん。
ある程度チェックされた所で終了し、満足気にファリアの元へ戻る少女達。
それを見て納得したファリアがクレフォリアに挨拶を述べる。
「ふふっ、ようこそこの村へ。歓迎するわ。私の名前はファリア。よろしく」
手を差し出すファリア。その言葉って領主の娘である俺のセリフなんじゃじゃないかな……
「あっ、えぇと、く、クレフォリアです。よろしく……」
困惑しながらも手を取り、握手をするクレフォリアちゃん。
ファリアは挨拶もそこそこにして早速本題に入る。
「……ねぇ、クレフォリアちゃん。演劇に興味は無い?」
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「「キーーーーーー!!!」」
「ハァッ! ヤァッ!」
群がり襲い掛かる下っ端を単騎で蹴散らすのは一人の少女。
天使の羽根付きの可愛いステッキを持ち、ピンクのコスチュームに身を包むその姿は正しく魔法少女。
しかし、使用する攻撃は無慈悲の一言。
徒手空拳を使用するその少女は、手刀にて敵の首を薙ぎ、抜き手で腹を抉り前に進む。
頬に付く血は少女の物か、はたまた敵の返り血なのか。
「ぐぅっ……! 何をしているお前達! 相手は一人だぞ! とにかく数だ! 数で押し潰せッ!」
敵幹部は手下に指示し、自身の身を守る為に嗾ける。
こんな所で終わる訳にはいかない、その一心で保身に走る。
その姿は見飽きたと言わんばかりに魔法少女は首を鳴らし、手に持つステッキを前に向ける。
「……もう良いです。見飽きました、それは」
「何……ッ!?」
「これで、終わりです……!」
瞬間、ノーモーションでステッキから放たれるのは光の波動。
眩く強く華麗なオーラを纏い、襲い来る眼前の敵軍を包み焼く。
「ぐああああああーーーッッッ!!! 馬鹿なッ! この私がッ、私がァ―――――――
「「キーーー―――――
膨大な熱量を持つビームに包まれ、断末魔を叫びながら消滅する敵幹部とその部下達。
……先ほど、魔法少女の使った最後の攻撃は正しく魔法。
だがしかし、その塵一つ残す事なく消滅させる威力は非人道的兵器に等しい。
……しかしだ。しかしこうして、今日も世界の平和が守られる。
戦いが終わり、安堵の息を漏らす魔法少女。油断していたのかその場で変身を解く。
その戦いを見ていた少女が一人。
「……く、クレ、フォリア……ちゃん……!?」
「……ッ!? ナターシャちゃん……ッ!!!」
今まで、必死に隠し通し、世界の為に戦ってきた魔法少女。
……ついに、自身の正体がバレる時が来てしまった。
恐怖の表情を浮かべ、動けなくなっている友人に手を伸ばし、近づきながら弁明するクレフォリア。
「……ち、違うの。さ、さっきの人達はイリステラっていう、コピーワールドから送られてきた残像で、ほ、本物の人じゃ……!」
「ひっ……!」
「……ッ!」
そんな絵空事のような弁明が、今まで何も知らず、平穏に生きてきた友人に伝わる訳が無い。
後退る友人を見て強く、血が滲む程下唇を噛み締めるクレフォリア。
しかし必死に涙を堪え、今自身がすべき選択を取る。世界の為にではなく、たった一人の友人の為に。
伸ばしていた手をしっかりと張り、大切な友人に向かって魔法を唱える。
「……ごめん。私の事は忘れて。“ポイナ”」
クレフォリアの手から放たれたピンクの玉がナターシャに当たる。
その玉はナターシャの意識を奪い、その瞳から光を消す。そのまま跪き、前のめりに倒れる直前にクレフォリアが支え、ナターシャはゆっくりと地面に寝かされる。
そんな友人の顔に触れ、正義の味方は笑顔で告げる。
「……幸せにね」
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「……ん……あれ? なんで私……寝て……」
目を覚ましたナターシャ。
身体を起こし、辺りを見渡すもただの草原。寝ていた理由も分からない。
「なんでこんな所で……っっ……!?」
突然頭痛に襲われ、一瞬何かが見える。
見えた景色は並木を共に歩いた誰かの顔。その顔はとても幸せそうで――――
……ナターシャの頬に流れる一筋の涙。
その涙を拭う前にナターシャは左手を見る。この手は、見えた景色でその誰かと繋いでいた手。
言葉では言い表せないけど、何か、何かとても大切な物を掴んでいた。そんな気がする手。
ナターシャは忘れないよう強く左手を握り、再びこの手に大切な物を取り戻す為、見えた誰かを探し始める……
「……はいオッケーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
ファリア監督の号令により隠れていた少女全員+天使ちゃんも集まる。
そしてワイワイ楽しくお話を始める。
「この羽生やしたお姉さんのお陰で劇にドラマティックさが出たね。凄いねっ」
「うん、とっても凄いねっ。これが時代の進歩っていうものなのかな?」
「えっへん♪ もっと天使ちゃんを称えてくれていいよ♪ あ、ついでに教会にお祈りしておいてね?」
ドヤ顔する天使ちゃん。
お祈りを進められた少女2人は不思議そうに首を傾げる。
「クレフォリアちゃんも良い演技だったよ。今日初めてなんでしょ?凄いね」
「あ、ありがとうございます。いきなりの主役でしたけど、何とか演じられて嬉しいです」
ナターシャに褒められ、謙遜しながらも嬉しそうなクレフォリア。
そんなナターシャの袖を引っ張るのは美冬さん。
「……ねぇナターシャちゃん。この子、また遊びに来る?」
美冬さん……まぁさっきは敵幹部を演じていたけども分かりやすさ重視で美冬さんって呼ぶけど、また来るのかと問い掛ける。
「んー……クレフォリアちゃん、また来れそう?」
ナターシャの疑問に首を左右に振って返答するクレフォリアちゃん。
それを見て美冬さんとフォリア監督は残念そうに肩を落とす。
「良い人材だったのに……」 「悲しいわ……」
もうこの二人、思考回路が完全にプロ寄りだなぁと思うナターシャ。
懐かしの演劇再演。
事前にフラグ立ててたせいでここカット出来ねぇじゃねぇか!とか思いながらもノリノリで書きました。
個人的には魔法ぶっぱよりも銃器やら徒手空拳を重視した戦い方の魔法少女が好き。魔法とは一体……?
でも魔法を策略的に使う魔法少女は大好き。ようは戦い方に花があるのが好き。
しかし魔法少女にて至高の技種はただ一つ。関節技こそ王者の技よ。




