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89 冒険者ギルドからの使者!

「失礼します!」


 リターリスに連れられて入って来たのは眼鏡で知的そうな雰囲気を漂わせるギルド職員の男性。

 ギルドの制服の上から冒険者達と似た感じの軽装を付けている。背中にはリュックを背負い、腰には取り回しが良さそうな短剣を装備。


「ユリスタシア・リターリス様、ガーベリア様、そのご家族、更に友人の方々。お初にお目に掛かります。私の名前はフォンダン・アーデルハイド。冒険者ギルドエンシア本店の魔法訓練室で教鞭を取らせて頂いている者です」


 両腕を綺麗に身体に沿わせて礼をする。

 そのあまりの丁寧さ、発せられる声の圧に不安で満ちていたリビングの空気が吹き飛んでしまった。

 リターリスは空気が変わった事に心の中で感謝しつつ、訪問の理由を尋ねる。


「こんなしがない領主の所へ挨拶しにわざわざ……ありがとうございます。それでどうも、何か他に理由があるそうで……」


「はい。この度はユリスタシア・ナターシャ様との契約を確実に遂行する為、冒険者ギルドとしても全力で護衛しなければならない。そう判断された為私が配属される事となりました。ナターシャ様の旅の護衛として、我々冒険者ギルド一団も同行する予定です。……コチラをお読み下さい」


 アーデルハイドがリュックから取り出したのは数枚の紙。

 内容を読んでリターリスは驚き、ナターシャに尋ねる。


「……な、ナターシャ。一体、何をしたんだい? この人含めて護衛に12人、冒険者の内訳はシルバー2人にアイアン8人、ブロンズが1人って……これ、依頼したら凄い金額になるよ!? 金貨60枚は下らないよ!?」


「いやぁえへへ……」


 恥ずかしそうに自身の頭を撫でるナターシャ。


「……収納魔法と交換で護衛を引き受けてもらったの」


「あ、あの魔法とかい!? そ、それ以前にこの、契約者欄に書いてあるサインの人、この、ベリーディ・フェスティ・フランシスって人、冒険者ギルド委員会の長じゃないか! そんな人とどうやって協力締結書を!?」


 驚きが収まらないリターリス。書類を持つ手も声も震えている。

 此処でアイテムボックスの事を知らないのは……ガレットさんのみ。説明は……出来る。

 よし、なら正直に言ってしまおう。


「まぁ、職員さんの前でちょこちょこ、っと披露して、ギルド長に取り次いで貰ったんだ。」


 半分嘘だが。それを聞いたアーデルハイドは左手で眼鏡をクイ、と持ち上げる。

 そしてナターシャに代わり詳細な説明を始める。


「……正確には、魔物預り所にてナターシャ様はまも『あ゛ーーーーーーそうそうそう!!! そんな感じ!!! 魔物預り所で持ってた物を沢山その場で出して凄いでしょ!って披露したんだよ! その後色々あってフランシスさんと契約する事になったんだ!!!!!』……そうですね。そういう事になります」


 突然叫んで説明したナターシャに驚きながらもアーデルハイドは事実なので認める。

 ……あ、あぶねぇ。俺がクレフォリアちゃんと出会う前からアイテムボックスを所持していたとバレる所だった。油断ならねぇぞこの眼鏡……

 ナターシャはアーデルハイドの一言一句に気を配り始める。

 説明を聞いて理解したリターリスは、少し首を傾げながらも納得する。


「そ、そうなのかい? ま、まぁ、あの魔法は凄い物だから協定を結ぶのもあり得なくはないけど……」


「凄いの一言で片付けられるような魔法ではありません!」


『!?』


 リターリスの言葉を聞き、突然声を荒らげるアーデルハイド。

 リビングに居る一同、隣に居るリターリス共に驚いてアーデルハイドを見る。

 再び眼鏡を持ち上げたアーデルハイドはナターシャの魔法がいかに素晴らしいか語り始める。


「良いですか? ナターシャ様の使用した魔法が熾天使様からの授かり物だというのは皆さんもお分かりだと思いますが、その本質は物を収納出来るという点ではありません! その本質というのは異せ『あ゛ーーーーそうそうそうそうそう!!!! 別の時空に繋がっている凄い物なんだよね!!!!! ナターシャちゃんはこの世界以外にも別の次元があると魔法で証明したって事だよね!!!!!!』……そうです! 貴女の言う通りです! この魔法こそ世界の真理に繋がる物に違いない!」


 天使ちゃんも声を荒げながらアーデルハイドの説明を代弁する。

 アーデルハイドも天使ちゃんに同意して両腕を持ち上げ賛美のポーズを取る。


「やっばメッチャ焦った……あぶなー……」


 額に浮かぶ冷や汗を拭っている天使ちゃん。お前もか天使ちゃん。


「な、成程。冒険者ギルドもそれだけナターシャの事を重要視しているって事なんですか」


 リターリスの質問に二度頷くアーデルハイド。


「そうです。これ程の魔法を授かれるなら、また世界の真理に辿り着くような魔法を知る可能性がある。冒険者ギルドとしてもその魔法が有用ならばスキル化して運営に生かしたい。特に時間……いえ、自由空間の確保など我々にとっては願っても無い魔法。魔導指導員の私としましても、ナターシャ様には返し切れない恩を受けた形になります。……ナターシャ様、心からの礼を申し上げます」


 ナターシャに向かって再び丁寧に礼をするアーデルハイド。ちょっと気恥ずかしい。


「では、歓談されている中これ以上の滞在はお邪魔と思いますので私はこれで失礼します」


「あ、あぁ、はい。娘の護衛をよろしくお願いします」


 書類を返却しながらアーデルハイドに護衛を頼むリターリス。


「えぇ、お任せください! 無事にスタッツまでお送り致します!では!」


 アーデルハイドはそう言って玄関へと去っていく。そしてドアを開け退出する音。


「……あ、お茶でも誘えば良かった」


 残されたリターリスは思い出したように呟く。

 天使ちゃんがそれに返答。


「そ、そうですね! でも忙しそうだから何か別の形でお礼した方が良いと思います♪ 村には護衛の冒険者の方も居るんですから、アーデルハイドさんにお茶菓子を渡して護衛の人達に配って貰うとかで!」


 少し焦り気味なのはアーデルハイドからナターシャに収納魔法の情報が洩れる事を危惧しているからだろう。……普通に教えてくれても良いと思うんだけどなぁ。

 リターリスは天使ちゃんの提案を支持して、その通りに行動する。


「……おぉ、それは良いですね。ベリアちゃん、お菓子ってまだあるかい?」


「えぇ、あるわ。ちょっと待っててねパパ」


 ガーベリアは立ち上がって小走りでキッチンへと向かう。

 リターリスは席に戻り、クレフォリアちゃんを守る方法について話し始める。


「……とりあえず、冒険者ギルドの一団が護衛についてくれるみたいで助かった。護衛としては十分な人数だろう。残る問題は、また奴隷化されないようどうするかだけど……」


「……あぁ、それなら既に手を打ってあります!」


 元気を取り戻した天使ちゃんが手を挙げる。


「クレフォリアちゃんには既に天使ちゃんの加護を与えてますから、滅多な事が無い限り奴隷化されません! まぁ、なっちゃんの身にはその滅多な事が起こったので安心出来ないでしょうけど……」


 しかしすぐに手を下ろして申し訳なさそうに両人指し指を突く。

 その言葉に同意し、厳しい表情をしながら話すリターリス。


「確かにそうですね……。やっぱりナターシャを狙った人間も襲ってくるかな……困ったな……」


 リターリスの言葉で再び場の空気が重くなろうとする。

 その前に天使ちゃんが少しポジティブな情報を話す。


「ま、まぁ、なっちゃんを襲った存在の悪意を読み取ったから分かるんですけど、その人ってクーちゃんに対してもあんまり悪意を持っていないんですよ。だから、襲撃以外の何か別の理由で情報を聞き出したんだと思うんです。また襲われる心配は少ないかと」


「そうなんですか……? しかし別の理由……一体何を狙って……」


 リターリスが手で口元を隠して考えていると、キッチンからガーベリアが顔を出す。


「パパ、お菓子の用意が出来たわ。アーデルハイドさんに届けてくれる?」


「……ん、あ、あぁ分かったベリアちゃん」


「はい、お願いね?」


「うん。ありがとう」


 ガーベリアから綺麗な布に包んだ小箱を受け取るリターリス。

 出発する前に、先ほどまでの会話の総評を発言し始める。


「……取り合えず、道中の護衛は冒険者ギルドの人達と一緒に行く事でなんとか解決。再奴隷化対策は熾天使様の契約を信じるしかない。……熾天使様、奴隷化対策に何かいい魔法はありますか?」


 それを聞き考える天使ちゃん。少し真面目に答え始める。


「まぁ……一応。“悪しき思惑を持つ者との契約を弾け!守護正典ラフィサノン”!って魔法があります。これで一度くらいなら従属の悪魔の瞳も弾けるかと。これ以上は……天界が新しい魔法を創らないと難しいかな……。しょうがないよねなっちゃん。ねっ?」


 そう言いながらナターシャの頭を撫でる天使ちゃん。……俺に創れっていうのかい?

 それを聞いたリターリスは少し安心する。


「そうですか。まぁ、一度でも防げるならそれに越したことは無いですね。ナターシャ。クレフォリアちゃん。今のうちに詠唱しておきなさい」


「はーい」 「分かりました」


「「“悪しき思惑を持つ者との契約を弾け。守護正典ラフィサノン”」」


 二人はリターリスの言う通りに魔法を詠唱する。

 すると白いベールに二人の身体が包まれ、天使の羽が降ってくる。

 少ししてベールと羽が消え、二人を祝福するような魔法の効果エフェクトが終わる。


「……これ、時間制限とかあるの?」


 ナターシャが天使ちゃんに尋ねる。


「ううん、無いよ。これは精霊や天使の加護に近い物だから時間制じゃなくて回数消耗制。一度使えばそのまま継続されて、とりあえず無条件に1回は悪い契約を弾けるよ」


「結構強いね」


「そりゃまぁ加護ですからね? 精霊さんにも天使にもプライドってものがありますから、これくらいは出来ないとね?」


「成程」


 天使ちゃんの説明を受けて納得したナターシャ。

 リターリスも安心したのか、微笑んで席から立ち上がる。


「じゃあ、対策会議はこれで終わりかな。取り合えずアーデルハイドさんにナターシャを宜しく、ともう一度伝えてくるよ」


「うん。行ってらっしゃい」


 手を振るナターシャ。リターリスは行ってきます、と発言し、小包みを持って外出する。

 ……まぁ、ギルド長に冒険者には俺達の護衛だと悟らせないで欲しいとは言ったけど、ディビスが詳しく知ってるから多少パパンが冒険者に挨拶しても問題ないだろう。

 それに、挨拶しようとしたら契約に従ってアーデルハイドが止めるだろうし。


 そして話し合いが終わり、各々自由時間を手に入れたリビング。

 ガレットさんは天使ちゃんに向かって疑惑の表情を浮かべている。多分何者なのかと疑っているのだろう。

 まぁお父さんが散々触れてたし、このピンクお団子の少女が熾天使アーミラルだって判明するのも時間の問題。

 ……一々俺が説明しなくて良いか。別に良いよね。

 ナターシャはそのままスルーする事に決める。


 取り合えず、暇になる前に何か行動しよう。

 ……そうだ。帰宅途中に創ったリバーシ魔法で遊ぼう。あの時はまともに遊べなかったからね。

 ナターシャは未だ抱き着いているクレフォリアちゃんの頭を撫で、話し掛ける。


「……クレフォリアちゃん。帰ってくる途中に天界からリバーシ魔法っていうボードゲームを出す魔法を授かったんだけど、一緒に遊ぶ?」


 それを聞いた天使ちゃんは初耳だという顔をする。

 しかし熾天使のプライドとしてすぐに知ったかぶる。


「あ、あぁ、あれね! いやー天界も流石だよねー……サクッとそういう魔法を思いつくんですから流石だよねー……」


「ふふへ……」


 それを聞いてちょっと笑うナターシャ。


「リバーシ……? なんでしょうかそれは。」


 クレフォリアは不思議そうな顔でナターシャを見つめている。

 ナターシャは笑顔で返答。


「うん。じゃあちょっと見ててね……」


 テーブルの上に手を向け、魔法を唱える。


「“64マスの鉄の碁盤、白と黒、正悪一体となった64個の磁石よ現れろ!”」


 ポン、と薄い鉄製のチェス盤、そして表裏で色の違う平べったい石が現れる。

 石同士を近付けると石から弱い磁力が出ているのでピタッと引っ付く。石のどちらかを反対に向ければ反発する。実験は大成功だ。


「……おや、あの時のボードゲームですか。随分と形が変わりましたね」


 天使ちゃんに疑惑の表情を向けていたガレットさんがナターシャの魔法に反応を示す。

 ナターシャは馬車の揺れの中でも使えるようにして欲しいという祈りが通じた、と適当に言い繕い、ガレットさんもそれで納得する。


「じゃあルール説明するね。これはね――――


 軽く説明し終え、まずは試しに一戦とクレフォリアちゃんと遊ぶ。

 因みに勝者はクレフォリアちゃん。……ま、まぁ手加減しただけだし? まだ本気じゃねぇし。


 その後はクレフォリアちゃん以外の全員も交え、対戦者を入れ替えながらオセロで遊んだナターシャ達。


 ……うん、ルールが単純だから誰でも気軽に遊べるのがリバーシオセロの良い所だね。

 斬鬼丸と天使ちゃんの勝負は互いに拮抗しすぎてて笑ったけど。


 クレフォリアちゃんも面白かったようでナターシャに詠唱を尋ねていた。

 教えたら覚える為に繰り返し詠唱していた所が可愛い。


 ナターシャの出したボードゲームのお陰で旅への緊迫感も緩んだユリスタシア家に居る面々。

 そんな緩い雰囲気で夕食も取り、ガレットさんには遂に天使ちゃんの正体が明かされる。

 ……かと言って聞いたガレットさんが驚くような事は無く、そのまま普通に一日が終わる。

 その当時のなんでさー!とは天使ちゃんの弁である。


 まぁ、落ち着いてる人だから。ね?

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