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85 三日目:ケーシーとリンの見送り、そして冒険者ギルドでの一コマ

 冒険者ギルドに向かって歩いていると、城門付近でカラフルな髪色の少女2人が待っていた。

 歩いてくるナターシャ達に気付いた片方が手を振りながら叫ぶ。


「あ、やっと来た!おーい! 遅いよー!」


「ケーシー、叫んだらばれちゃう……」


 オレンジと青髪。ケーシーとリンだ。

 二人がその場に居るのを見たユーリカが驚く。


「……ケーシー。リン。二人とも、授業はどうしたの?」


 尋ねられた二人は少し申し訳なさそうな感じに答える。


「えへへ、抜け出してきました! 今剣術訓練中で、丁度いいタイミングだったからね。」


「うん。鍛錬場は近いから、妹さんにお別れの挨拶だけでもしておこうと思って」


 そう言うとケーシーとリンはナターシャの前でしゃがみ、目線を合わせて話してくれる。


「じゃあねナターシャちゃん、また会おう」


「元気で。またね」


 手を振る両者。ナターシャも笑顔で対応。

 子供っぽく感謝と別れの言葉を述べる。


「ありがとうございます。いろいろお世話になりましたっ」


 小さく一礼し、スッと姉の後ろに隠れる。首を傾げる少女二人。

 そしてナターシャの後ろにいた斬鬼丸は、その場にしゃがみ込む少女二人と目が合い、困ったように頬を掻きながら一言。


「……授業を抜け出すのは悪い事だと思うであります」


 よく言った斬鬼丸。よーく分かってる。

 ナターシャは少女2人を不良学生だと行動で煽ったのだ。

 ケーシーとリンは斬鬼丸のその言葉でナターシャの意図を理解。顔を見合わせ、


「……ふむ。やられましたなリンちゃん。」


「……思ってるより悪い子だったみたいだね」


 と言いながら立ち上がり、姉の後ろに隠れるナターシャに近付きあっ何をやめ……



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「あ゛ぁ゛ぁ゛ーーー……!!」


 数十秒後。

 ケーシー、リンの二人に頭をわしゃわしゃされたショックで泣いているナターシャ。

 姉にかれて寝癖一つ無かった髪が絡まり、玉ねぎのようなフォルムになっている……というかそうなるように纏め上げられた。

 玉ねぎヘアーを造り上げた少女二人も満足そうな表情。姉は呆れている。


「ふ゛ぁ゛あ゛ーーー……!!!」


 まぁ、お別れの挨拶としては十分な結果を残せたと思う。

 いたずらをしても懲りないのはまぁ年齢のせいだろう。7歳だし。

 童貞だったからとかそういうのは多分関係ないと思う。

 大声で泣くナターシャを後目にケーシーとリンは斬鬼丸にも言葉を掛ける。


「じゃあ斬鬼丸さん、また会いましょう!」


「応共。また会いましょうぞ」


 拳を合わせるケーシーと斬鬼丸。

 リンは少し恥ずかしそうに話す。


「……その、短い間でしたが、約束を守ってくれてありがとうございます」


「いえ何、また会う為にもリンとの約束はこのまま継続するであります。またよろしくであります」


 リンは斬鬼丸の言葉に無言で頷く。

 嬉しいのか恥ずかしいのか、曖昧な表情。

 そんな不思議な雰囲気を消し飛ばすようにケーシーがリンの肩に手を置き、


「じゃ、そろそろ戻らないとバレちゃうから授業に戻ります!」


 ビシ、と手を出しながらナターシャ達3人に別れを告げる。

 因みに髪型が玉ねぎになったナターシャは、斬鬼丸の横で姉により皮を剥かれている。

 リンもケーシーの言葉で気が付いて一礼し、急いで鍛錬場へと戻っていく。


「……うむ、良い子達でありますな」


 腕を組み、皆の思いを代弁する斬鬼丸。

 皮をめくり終わった姉によりまた髪を梳かれるナターシャは、すんすんと泣きながら同意する。


「……そうだね。良い人達。とりあえず斬鬼丸ナイス」


「ハハハ。正答だったようで何より」


 腕同士をぶつけるナターシャと斬鬼丸。もう以心伝心だな?


「それはいいけど、また髪を梳くお姉ちゃんの身にもなりなさい」


「あいたっ」


 そしてポコンと拳で頭を叩かれる。

 いやー、最後のお叱りまで完璧とは素晴らしきかな。

 頭を押さえながらも満足げな表情でニッコリするナターシャ。


 ナターシャ一行は、ナターシャの髪が再びサラサラになってから外の街に繰り出す。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 冒険者ギルドに着き、酒場のテーブル席に座るナターシャ達。

 姉と斬鬼丸はナターシャを挟むように座る。


「なんで挟むのさ」


 不満そうな表情のナターシャ。狭いんだけど。

 その言葉を聞いた姉は怪訝な表情を浮かべて妹を注意する。


「……ナターシャ、まさかもう昨日の出来事を忘れたって言うの?」


「うん」


 ナターシャは即答する。

 まぁ、寝たら忘れるくらい切り替え早いタイプなんで。

 洗脳魔法はまぁ怖いっちゃあ怖いけど、もう防止用のアクセサリー装備してるんで大丈夫っしょ。

 斬鬼丸も主をまた危険な目に合わせるなんて事は無いだろうし。

 そんな能天気なナターシャの返答に呆れ果てる姉。


「……なんだか心配してる自分が馬鹿らしくなってきたわ」


「まぁ考えすぎは良くないよ。気楽に行こう」


 そう言って自信満々な表情をするナターシャ。逆に励まされた姉は気が抜けて机に突っ伏す。

 これくらいの方が人生楽しく生きられるって訳よ。ポジティブシンキング。

 ユーリカとナターシャはやって来たウェイトレスに同じ物を頼み、料理の到着を待つ。

 姉は机に突っ伏したまま顔をナターシャの方に向けて話す。


「……一応聞いておくけどナターシャ」


「何?」


 ナターシャは視線を合わせず返答する。


「旅に出るのは怖くないの?……あんな事があったのに」


 最初から斬り込んでいくユーリカ。体勢こそ気が抜けている物の、口調は真面目だ。

 ナターシャは姉の問いに頬に手を当てながら答える。


「うーん……そんなに」


「なんで?」


「だって、誘拐なんて滅多に出会う物じゃないでしょ?」


「……でも、旅の途中で盗賊に出会うかもしれないじゃない。形は違うけど、今回の事件と殆ど同じ状況になるのよ?」


 まぁ確かにそうだけどね。

 でもお姉ちゃん、忘れちゃあいないかい。


「その時は斬鬼丸が前衛張って、私は後衛。ピンチの時には私も剣を持つ。お姉ちゃんみたく魔法斬ってこないならどうとでもなるよ」


「まぁ、それは、そうだろうけど……」


 妹の返答で言葉に詰まるユーリカ。

 実際戦ってみたからこそ分かるが、本気を出したナターシャなら盗賊3人相手でも余裕で立ち回れるだろう。ナターシャはその上で後衛を張っているのだ。

 戦場を俯瞰し、味方に的確に指示を出す為に後ろで構え、内に斬り込んで来た敵には自らが対応して処理。あまりにも完璧すぎる布陣。

 我が妹ながら恐ろしい程考えて行動していると身震いする。本当に7歳なのだろうか。

 ……もしかして、精霊である斬鬼丸を召喚したのは自身のフィジカルの弱さを補う為なのだろうか、とユーリカはまた思考の果てに至る。


「……ナターシャは、全部分かった上で行動しているの?」


「……?」


 姉の疑問に疑問符を浮かべる妹。

 きっとしらばっくれているつもりなのだろう。

 ユーリカはそっぽを向き、凄いなぁ……と思って大きくため息をつく。

 ナターシャは姉の行動に首を傾げる。


(でもそうだとしたら、何故誘拐されたのかしら……)


 またしても一つの疑問に至る。そしてすぐに結論が出る。


(……まさか、あれこそが“機関”の主要メンバーである300人委員会の一人……? ナターシャは誘拐されかけたんじゃなくて、誘拐されるつもりだった? だからこそ、ここまで落ち着いていられるの? 

……そう言えば誘拐される前日の夜、明らかに帰ってくる時間が遅かった。もしかして、誘拐後の脱出手段を作っていたの? そして次の日にあの場所に機関のメンバーを誘引し、行動を起こさせた。

……だとすると、斬鬼丸さんがナターシャが何処に居たのか断固として言わなかった理由も納得がいく。手段がバレると困るもの。……そっか、全てナターシャの計算の内だったのね……)


 まぁ実際はただの能天気な7歳の少女なのだが、姉の中では常に策略を巡らせて行動する凄い存在に見えてしまっている様子。


「……やっぱり、全部計算済みなのね」


「…………???」


 全てを悟り、ぼそりと呟くユーリカ。

 ナターシャは姉の不可思議な言動に眉を困らせる。何言ってんだろお姉ちゃん。


 会話が成立しないまま静かに待っていると、ナターシャ達の対面に茶髪でロングヘア―の男性が座る。


「よう。元気か?」


 男性はナターシャに対し、軽く手を挙げて挨拶。

 姉、斬鬼丸、ナターシャはその男性を見つめる。

 ナターシャは目を二度ぱちぱちさせてから発言。


「ディビスじゃん」


「……そこはおはようじゃねぇのか? ……まぁいい」


 ディビスは腕をテーブルに置き、前のめり気味に話し出す。


「で、だ。まずは礼だな。ありがとよ。お前のお陰で臨時収入が手に入った」


 小さな革袋を取り出すディビス。

 テーブルに置くと小銭のいい音が鳴る。


「そっか。おめでとう」


 棒読み気味に祝福するナターシャ。

 少し引っかかる感じがする言い方に違和感を感じながらもディビスは話を続ける。


「……どうも。で、こっからが本番なんだが、事前に借りを返しておきたい。分け前を払う」


 ナターシャはその言葉を聞いて思考する。……ふりをする。

 そして笑顔で答える。


「お金じゃ駄目だよ?」


「……マジ?」


「マジ。……護衛がんばってね?」


 ナターシャの言葉を聞き、額に手を当てるディビス。そういう事やぞ。


「まぁ、斬鬼丸も同行するから安心して。ディビス100人分は強いから」


 ナターシャは隣に座る斬鬼丸を平手で叩きながら言っておく。金属のいい音が鳴る。


「……なら良いんだが。もし嘘なら旅が地獄と化す所だぞ」


「なんで?」


 理解出来てない様子のナターシャに説明し始めるディビス。


「まぁ、お前の護衛は想定してたさ。その上でクエスト発表前から仲間と一緒にメンバー構成を考えてたからな。

 しかしだ。お供も付いてきた上に戦力にならんとなると話は変わる。……お前のお供の力は相当なもんだが、何せ鎧だ。

 重くて動きが遅い分、逃走っていう手段が取りづらくなる。いくら個人の実力で勝ってても流石に数には勝てない。

 それに、どうしても馬車を捨てて逃げなきゃならん場面ってのも出てくる。そういう時に気軽に逃げられないってのはキツイもんなんだぜ?」


 悪びれず、正直に話すディビス。

 長年冒険者をやって来たからこそ言える言葉だろう。


「むぅ……」


 しかしその言葉が不服なようで、小さく声を漏らす斬鬼丸。瞳の炎が少し強くなる。

 ナターシャはまぁまぁ、と斬鬼丸を抑えてディビスに返答する。


「見た目で人を判断するのは良くないよディビス。中身を見ないと。中身を」


「そうであります」


 ナターシャの言葉に同意しうんうんと頷く斬鬼丸。

 ディビスは二人の仲の良さに笑う。


「ハハ、お前達の仲が良さそうで何よりだ」


 しかしスッと仕事の目になると、ナターシャ達に注意をうながす。


「……そしてこっからが大事な話だ。先に言っとくが、俺達は俺達の流儀でお前達を守る。見捨てたりはしない。だが、邪魔はするな。出来る限り指示通りに動いてくれよ?」


 非常に真面目な声音だ。目も真剣そのもの。命を預かっている側の意見だ。

 どうやら、出発前にナターシャをたしなめている様子。まぁ初対面から生意気だったししょうがない。

 それを聞いたナターシャは少し驚くも、フッ、と笑い軽く告げる。


「分かってるよ。邪魔しないよう、私達は基本的に自衛を主軸にして行く。……でも、必要なら頼ってくれて良いからね?」


 右手を挙げ、人差し指と親指の間でパチパチッと電流を走らせる。

 俺魔法使えるから、と威嚇していくスタイル。

 ディビスもナターシャの行動を見て不敵に笑い、納得した様子で話す。


「あぁ、分かった。頼りにする。……道中喉が乾いたら、魔法でジョッキに水を注いでくれるよな?」


 しかし口から発せられたのは軽口。やはり冒険者である。

 あんまり頼りにされていないのと小間使い扱いされたので怒るナターシャ。頬が膨れる。

 斬鬼丸も怒った様子で腕を組む。

 二人の揃った行動を見て、ディビスは笑いながら弁明する。


「ハハハ冗談だ冗談。スタッツまでの旅は長い。こういう感じで気楽に行こうぜ。じゃあな」


 ナターシャをからかい終え、小さな革袋を回収して楽しそうに去っていくディビス。

 酒場の外に居た数人の仲間らしき冒険者と落ち合い、話し始める。

 残されたナターシャは頬を膨らせるのをやめる。今日は負けたか。


「……ねぇナターシャ」


「なぁに?」


 そして、隣でディビスとのやり取りを眺めていた姉が口を開く。


「……貴女いつの間に護衛の依頼を出したの?」


「……一昨日」


「……どうやって? お金は?」


「……」


 痛い所を突かれるナターシャ。言葉に困る。

 ここは……うん。正直に言っておこう。嘘ついても仕方ないし。


「……まぁ、一昨日の夜にこの冒険者ギルドで色々やったからね。その時ギルド長と取引したの。お姉ちゃんも知ってると思うけど、魔道具を収納する魔法を教える代わりに護衛の依頼を請け負って貰ったんだ。だから私の旅には冒険者の護衛が付いてくるの」


「…………旅の護衛に関しても既に手は打ってあるのね。流石だわ」


 妹の話を聞き、再びへこたれる姉。

 またそっぽを向いてため息をついている。

 ……今日のお姉ちゃんナイーブだなぁ。

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