82 二日目:魔力について
修正終わり
再読してくださった読者の方々お疲れ様です。同時に感謝を。
……3度目の謝辞はしないようにしっかり見直しする時間を作ってから投稿するようにします。
でもまたやらかしそう……
ガエリオとの話し合いが終わり、斬鬼丸の話を聞いたであろう守衛さんから簡単に洗脳魔法検査された。
その際ついでに検知魔法の詠唱もゲット。
“目の前の少女に掛けられし魔法、精神に干渉せし物を判別せよ。精神鑑定”という詠唱。
洗脳魔法検知以外にもいろいろと用途がありそうだし、悪用もできそうである。
これ軽く改造すれば低級だけど鑑定魔法にもなるよね。めっちゃラッキー。
おまけみたいな感じで再発防止の為に魔法除けが付与されたアミュレットも貰った。
革ひもの先に紫の石が付いたペンダントだ。既に装着済み。
今は守衛所の入口にある長椅子に座り、ユーリカ姉と共に斬鬼丸の帰りを待っている。
守衛所の中は何というか、商会と似たような感じ。
違う所と言えば職員全員が軽鎧と剣を装備しているって所か。
……この際だ、はっきり言おう。暇だ。
しかし暇つぶしにスマホ弄るにはまだ情報が足りない。祝福の効果は天使ちゃん曰く凄いらしいけど信用ならない。
自分の身は自分で守らなきゃならないからね中世って奴は。
なので諦めて足をパタパタさせつつ周囲を見渡して目ぼしい物を探している。
顔を動かすたびに頭のアホ毛が揺れる。しかし心は揺れ動かない。何故ならここは野郎共の巣窟。
目の前には世の女性が見ればきっと心底喜ぶような美男が揃っているんだろうけど、生憎と心は男だ。興味すらない。
いやでもなぁー……。太ももに肘を付き、顎を乗せる。背が丸まる。
やっぱいずれは男の良さも知らないとダメなんだろうか……摂理に逆らってはいけないのかなぁ……
いや、やっぱ嫌だ……そもそも前世童貞で女性の良さも知らないのに先に男を知るのはやだ……
せめてキスくらいはしたい……甘酸っぱいくらいのやつ…………
両手で顔を覆いそのままゴシゴシと動かす。
「ずいぶんと眠そうねナターシャ」
そこに声が掛かる。
ユーリカ姉だが、その声音も暇そうな感じ。
「育ち盛りだからね」
適当に返答する。
「そうね。精神的には大人になったり子供になったり忙しいけど」
「こんななりでも組織の長だからね」
まぁそういう設定だしね一応。
……あれ? それのおかげで逆に赤城恵として振舞いやすくなっているのでは?
まさか俺、世界の観測者に助けられてる?
そんな適当な雰囲気な中、姉が再び勇気を出して切り出す。
「……ちょっと聞きたい事があるんだけど、良い?」
「うん」
姉の口調が変わった事を察知し、コチラも少し落ち着いた態度にする。
「……ナターシャはさ、組織の長として頑張ってるじゃない? “機関”の野望を防ぐ為に」
「……うん」
いや昔はね? 今は違うよ?
「それこそ辛い事や、悲しい事もあると思うの。そう言う時ってね、ナターシャはどうするのかな……って」
「そういう時……ね」
ふぅ……とため息をつく。
辛い時や悲しい時か。今生では大して味わってないけど、前世は大変だったからなぁ。
死因も事故。それも単なる物ではなく、休日出勤して終わらない仕事をこなして、ようやく100連勤目にして仕事を達成し、その帰宅途中に起こった物。
ついてないにも程があるし、かといって事故後に生きていた所で救われたのかと聞かれても疑問が残る。
事故後の入院や後遺症で職場を辞めざるを得なくなるだろうし、その後、実家での療養もそこそこにして次の職場を探す為にハロワに通う日々。
しかしブラック企業に勤めていたせいでメンタルはボロボロ。次を見つける気力を養うのに何年かかる事やら。
……あぁやめだやめだ。二度目のため息をつくと両手で顔を叩く。
これ以上考えると今後の異世界生活に響く。姉の問いに答えて終わろう。
「私がそういう辛い状況に置かれた時はね、取り合えず目の前の事に集中して頑張って、先を見ないようにしてるんだ」
「……未来視出来るのに?」
姉の疑問も最もだと思う。
でも、先が分かるってのも辛い事なんだ。
「……出来るからこそ視ないんだ。視すぎると未来が決まって、その通りに事が進んでしまうからね」
そう、考えすぎるのも俺の悪い癖。
想像力豊かだから防止策や対策が浮かんで、それをクリアする度に新たな問題が浮上する。
何度自分に押しつぶされそうになった事か。
「だから、先は視ない。でも、動かないと変えられないから必死に頑張る。疲れた、もう辞めたい、なんて何度も考えるけど、無理にでもやる。じゃないと終わらないから」
7歳の少女から告げられる精神論。
姉は妹のあまりの大人びた精神に驚きながらも問う。
「……誰かに助けを求めたりはしないの?」
「……まぁ、誰も居ない所で愚痴ったり、泣いたり、ボロクソに言ったりはするけど、それを誰かに見せたりはしないね。組織の長だもん」
ふふ、と悲しい目をしながら笑う。
……まぁ、もう組織とは縁を切ったし、今は赤城恵じゃなくナターシャちゃん。
割り切ってますよ色々と。来世ですから。
そんな妹を見て、姉は妹の小さな頭を撫でながら話す。
「……辛くなったらお姉ちゃんにも言ってね。いつでも助けてあげるから」
「……ありがとう」
妹も姉に身体を寄せ、そのまま優しさに包まれる。
こういう優しさがユーリカ姉の良い所だね……。癒される……。
そのまま腕に抱かれて頭をぐしぐしとされていると声が掛かる。
「ただいまであります」
斬鬼丸だ。表面が綺麗に光る鎧を鳴らしながら歩いてくる。
話を聞くとようやっと解放されたらしい。まぁ全員揃ったのは良い事だ。
「じゃあ宿舎に帰りましょうか」
姉の提案に『うん!』と大きく返事をするナターシャ。
「あら、さっきまでのカッコイイナターシャは何処に行ったの?」
姉に煽られる。
「何の事かわかんない!」
無知で通す。
俺だって好きで真面目になった訳じゃないんだぞ。もっと少女少女していたいんだよ。
それ見た姉は、微笑みながら話しかける。
「フフ、もう少し頼られるのかと思ってたけど結局一人で何とかしちゃうんだから。流石ナターシャね。よしよし」
姉に頭をなでなでされるナターシャ。妹も表情からして満更ではない様子。
そのまま撫でる手を下げていき、妹の手を握った姉は帰宅する旨を伝える。
「さ、帰りましょ」
「うん!」
ナターシャ達は守衛所を出てスグ左にある内の城門に入り、宿舎街へと戻る。
その道中、ナターシャはガエリオの言葉を思い出す。
極唱魔法はあまり使うな……ねぇ。
そもそも極唱魔法って単語、詠唱中に突然挿入された物だしなぁ。
もう使うなって言われても創ってる時には出てこないからどうしようも無いんだよな……。
また奇跡的に辿り着いて今回みたいな事態になると困るな……。
片方の手は姉と手を繋いでいるので、もう片方の手で考えるポーズを取る。
俺に出来る事と言ったら……あんまり強くて効果のありそうな魔法を創らないくらいか?
それくらいしか対処方法が分からん。魔法創造(厨二)には創造制限こそ掛かってるけど、魔法の性能に対する上限は無いみたいだし。
うーむ、無限魔力チート貰ったの失敗だったかもしれないな。創った魔法のパワーを実感出来ない。
やっぱ魔力量が多いくらいで納めておくべきだったな……そしたら使用魔力量で次はもう少しパワーを抑えた詠唱にしようと活かせた。
相性が良すぎるってのも困り物だな……なんでも出来る分制御が出来ない。
せめて魔力の流れでも実感出来れば魔法創造も色々と捗るんだが……
うーん……と唸るナターシャに姉が気付き、質問してくる。
「どうしたの?」
「ん? んー、魔力の流れってどうすれば分かるのかなって」
「……お姉ちゃんの苦手科目ね」
渋い顔をする姉。だろうねとナターシャは思う。
「じゃあ、宿舎でケーシーとリンに魔力の流れについて聞いてみる? あの二人なら私より魔法の扱いが上手いから」
「うん。そうする」
魔力の流れって一体どんな感じなんだろうなぁ。
始めて魔法を使用した時と同じ高揚感が生まれて来た。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「「魔力の流れを知る方法?」」
リビングに集まって貰った姉のクラスメイト2人に質問する姉。
「うん。ナターシャが知りたいって」
姉と手を繋ぎながら何処となく申し訳なさそうな顔をする妹。
少し視線を逸らし気味なのは恥ずかしいからなのだろうか。
「なら私が流れの読み方お教えしましょう! ケーシーさんに任せなさいっ!」
「なら私はそのフォローをする」
先輩らしくカッコよく決める二人。
快く請け負ってもらいとても有難い。
俺としても自身の魔力がどんなもんか知っとくべきだしね。
「じゃあまず、ナターシャちゃんには一つ魔法を覚えて貰います!」
「魔法?」
首を傾げる銀髪蒼眼の少女。
顔を動かすたびにアホ毛が揺れる。
「その名も魔力知覚! 上手く使えば魔物の動きを察知し、更に索敵まで行える便利魔法……ッ!」
ケーシーが仰々しく動くのを傍目に見ながらリンが詠唱を教えてくれる。
「詠唱は、“体内に存在する魔力の流れを読み取り、感知せよ。“魔力知覚””」
成程。
「魔物を察知する場合は最初の詠唱部分を変えるの?」
その質問を聞きリンが驚く。
「……よく分かったね。そうだよ。“周囲に存在する魔力の流れを読み取り、感知せよ。“魔力察知””。こんな感じ」
ほえーと声を出すナターシャ。
詠唱を変えるのってワリと一般的なんだな。覚えとこ。
良い魔法も仕入れた所でナターシャは早速魔力知覚を行う。
「“体内に存在する魔力の流れを読み取り、感知せよ。“魔力知覚””」
詠唱と同時にナターシャ内部に眠る魔力が理解出来るようになる。
……と思ったのだが、全然分からん。底の見えない井戸を覗いている感覚だ。
「……全然分かんないんだけど」
「まぁ最初は誰だってそうだよ。そもそも魔力が何か分かってないでしょ」
まぁ確かに。
ケーシーに指摘されて頷くナターシャ。
「じゃあ魔力ってどんなもの?」
それを聞き嬉しそうにケーシーが答える。
「魔力はね、こうふわふわーっとしてて、身体の中にはギューっと入ってて魔法を使う時にドバーっと使う物なんだよ!」
ケーシーによる擬音での説明を受けてナターシャは更に理解が出来なくなる。
アホ毛がはてなマークに。
それを見かねたリンが詳細な解説を入れる。
「えっと、魔力っていうのは、空気と同じ。普遍的に存在する物で、常に人と外部の中を循環している物。呼吸してる感じ、って先生は言ってたかな。そして常に身体の中に溜め込まれていて、魔法を使う時に消費されるの。だから知覚するには体内に魔力が溜まっている感覚じゃなくて、呼吸している感覚をイメージしながら使うんだ」
「なるほど」
なんとなく理解が出来た。ようは生活反応と同じって訳か。
……でもアンデットとか居るよな。あれも呼吸してるの? 魔力呼吸?
ナターシャの疑問が浮かんだ表情を見て、リンが指摘する。
「今、アンデットの事を思ったよね。アンデットは正確には呼吸してないよ。大気中のマナを吸収して、それを身体の維持や、動作するエネルギーに変えて生きてるんだ。ようは消費してるだけだね。アンデット以外にもそういう風に魔力を消費して生きている魔物が居るよ」
ほえーと二度目の驚きの声を出すナターシャ。
「ま、呼吸をイメージしながら魔力知覚を使ってみて。そうすれば自分の魔力量が分かるから」
「そうそう! 魔法使いでも一流の凄い人は詠唱無しでも魔力知覚出来るらしいけど、私達には無理な代物だね! じゃあナターシャちゃん早速詠唱!」
「ほいほい」
二人に促されナターシャは再び詠唱する。
「“――感知せよ!魔力知覚”!」
瞬間、ナターシャの周囲に溢れる膨大な魔力の流れが知覚出来るようになる。
部屋どころか王国全土を覆いかねない程の流れがナターシャを中心に起こっている。
これは……言葉で表すならば上昇気流だ。台風の目の中心に俺が居る感じ。
そして中央部の俺の中に眠る魔力はとんでもない量。計測不能レベルに達している。
「おぉー……」
それを理解して感激の声を漏らすナターシャ。
俺の魔力量すげー……
「試しに魔法使ってみて。そうすればもっと分かりやすいから」
リンに促されて弱い魔法を使用してみる。
ナターシャは右手の人差し指を立て、詠唱。
「“点火”」
ボ、とナターシャの指先に炎が灯る。
魔力知覚をしながら見ると、身体の胸の部分から腕、指の先に向かって魔力の粒子のような物が流れている様子が見える。
外の魔力に変化はなく、常にナターシャと外を行き来している。
「おぉー! 面白ーい!」
見ているだけで楽しいので指全てに火を灯して遊ぶナターシャ。
ズモモモモと体内を魔力が移動し、ナターシャの指先で火となって消える。
「吸収早いね妹さん」
リンがユーリカに話しかける。
姉は自慢の妹ですから、と胸を張る。
「じゃあナターシャちゃん、魔力知覚は一旦終了、次は魔力察知してみようか!」
ケーシーの提案にうん!と元気よく答えたナターシャは火を消し、魔力知覚を解除する。
……には?
「知覚解除ってどうするの?」
「簡単だよ。ぼーっとすれば良いの」
言われた通りにぼーっとすると魔力知覚が解除され、普通の景色に戻る。
あぁ、だから凄い人は詠唱無しでも知覚出来るのか。
こう、意識を切り替えて見えたり見えなくなったりさせて。なんとなく分かった。
魔力に関して理解出来た所で魔力察知を始める。
「“周囲に存在する魔力の流れを読み取り、感知せよ。“魔力察知””」
するとユーリカ、ケーシー、リンの魔力の流れが読み取れるようになる。
3人の周囲を循環するように動く魔力は青。
体内に眠る魔力は姉が赤、ケーシーが黄色、リンが青色。信号機だ。
「……へぇ、魔力って色付きなんだね。皆色が違う」
ナターシャの言葉に疑問符を浮かべるリン。
「……? 魔力の色は皆同じ色だよ? 青色」
「え?」
しかしナターシャの視界では色付きに見える。何故?
「でも色が付いてるよ?」
そう告げるナターシャ。
疑問に思ったリンが魔力察知を使い、ナターシャを見て驚愕する。
「えっ……な、なんて魔力量……!? これ、この量、人間の領域を超えてる……!」
「どれどれー……? “――魔力察知。”……うわー……凄いねこりゃ」
魔力量に怯えるリン、引き気味のケーシー。
「……そんなに凄いの?」
ナターシャの問いにコクコクと頷くリン。怖いのか黙り込んでしまっている。
そんなリンに代わり、ケーシーが答えてくれる。
「しいて言うならー……魔王様くらい凄いね。規格外、ってこの事だと思う」
「むぅ……」
その言葉を聞いて考えこむナターシャ。魔王レベルか。
となると、魔力察知された時とか、一部の凄い魔法使いには俺の魔力の事がバレてしまう。
あんまりチートバレしたくないから隠し通せないものか……
「魔力を隠す方法ってあるの?」
ナターシャはケーシーに尋ねる。
「まぁ、一応あるよ。“内外に溢れる魔力と、その流れを包み隠せ。“魔力隠蔽””。使ってみて」
ケーシーに言われた通りに詠唱する。
「“――包み隠せ。“魔力隠蔽””。……どう?」
「……お、いけたいけた。自分に魔力感知使ってみて」
自分に。つまり、魔力察知を変えず最初を改変すれば良いのか?
「“自身に存在する魔力の流れを読み取り、感知せよ。“魔力察知””」
するとナターシャから溢れていた魔力量がかなり減少し、ケーシー達と同レベルに落ち着いて見える事が分かる。
周囲の魔力の奔流も姉達と大差ない。よし、これで一般人だな!一安心するナターシャ。
リンもナターシャの魔力が平均レベルに下がった事で落ち着いた様子。
大きく深呼吸してケーシーの肩に手を置くリン。
「ケーシー、ありがと」
「どういたしまして。もう大丈夫?」
「うん。もう怖くないよ」
「良かった良かった。……ナターシャちゃんはこのまま魔力隠蔽しながら過ごすのが一番良いだろうね。発覚すると面倒な事になりそうだし」
少し思考してからナターシャは発言する。
「……もうバレてるんじゃ? 宮廷魔術師さんも居るんでしょ?」
「いやいや。ノーモーションで魔力知覚使えるなんてホントに一握りだから。それこそ大魔導士級じゃないと無理無理。それにバレてたらナターシャちゃん即行捕まってるって」
否定するように手を振るケーシー。まぁ言われてみれば確かに。
しかし大魔導士すげぇな。俺もノーモーションで魔力知覚出来るようになるまで頑張ろう。
出来るようになれば他の転生主人公みたいに「……これは、魔物の気配ッ!」って出来そうだし。
あぁそういえば。
「魔力隠蔽の解除方法は?」
「……別に解除しなくて良いと思うけど、魔力を押し出す感覚かな。ふんっ!って」
分からん。
リンが注釈を入れてくれる。
「呼吸、って言ったよね。それと同じで外の魔力を大きく吸収して、思いっきり外に吐き出すイメージ。魔力知覚しながらすると分かりやすいんじゃないかな。……でも、解除しないでね」
先ほどの見た物が相当衝撃的だったようで、不安そうに腕を抱くリン。
解除しないしする理由も無いから安心して欲しい。
「じゃあ、魔力の説明はこのくらいかな」
「だね。あとはナターシャちゃんの頑張り次第。健闘を祈るッ!」
ケーシーとリンが終わった感を出しているのでお礼をする。
「ご指導ありがとうございましたっ」
ペコンと頭を下げてお礼。
これで魔力チートに関しては比較的安全に過ごせそうである。




