81 二日目:話し合い
騎士団との繋がりを修正
「一応確認だが……今のユーリカの話は本当かねナターシャくん」
ガエリオは再び圧を掛けてくる。しかしもう怖くない。
フフ、味方が居るっていうのは有難い事だ。姉は訓練生だが、国の事情に関しては俺の数倍も詳しい。
頼れる知識人枠って訳だ。利用しない手はない。
……そうだ。それにだ。
もし、もしここで上手く取引出来てエンシア王国のバックアップを貰えるようになれば、今後また新たに創造した魔法を使っても言い逃れがしやすくなる。
仮に話し合いの場で圧を掛けられても、王国が後ろ盾に居るとなれば相手も俺を対等に扱わざるを得ない。
ピンチなのは変わらないが、この場でガエリオを上手く丸め込めば一気にチャンスへと切り替わる。
今後の自由な異世界生活の為、是非利用させて貰おうじゃないかエンシア王国の国家騎士団さんよォ!
その為、ナターシャはまずどう切り出していくか思考する。
切れるカードはは魔法の詠唱のみ。他は既に手の内を知られている。
つまり、それを餌に上手くガエリオを釣り上げる必要がある訳だ。……良いじゃないか上等だ。
赤城恵の通り名の一つ、真実を告げる者の力をとくと見せようじゃないかガエリオ!
ナターシャは左手を少し浮かせ、姉に不敵な笑みを見せる。
未だナターシャの耳元で口を隠している姉もそれを見て嬉しそうに笑い、澄ました顔に戻るとガエリオの方を向く。
……さて、始めるか。
左手を退けたナターシャ。口元は慎ましく微笑み、目元も緩んで少女らしさが溢れている。
そして声を発する。
「……姉の言う通り、私の授かった魔法はお付きの者の鎧を壊滅状態から動けるようになるまで修復する事が出来ます」
声質は少女だが、口調は大人のそれ。
簡潔に言うと赤城恵だ。久方ぶりの大真面目だぞ。
ガエリオも、後ろに控えるフェリスもナターシャの変貌っぷりに少し驚く。
「……随分……と大人びた口調だなナターシャくん」
「いえ、これは友達から教えて貰った演劇の成果です。カッコイイでしょう?」
「そ、そうなのか?」
戸惑うガエリオ。
実際は嘘誠表裏一体だがな。
真面目モードだし、伊達にファリア監督に絞られてねぇよ。
「まぁそんな事はどうでも良いんです」
目を瞑って脚を組み、左手を挙げてひらひらさせるナターシャ。
「どうでも良い……」
「それよりも私は……ガエリオさん。貴方にお願いしたい事があります」
そして目を開くとトン、とテーブルに左手を置く。
「お、お願い……?」
ナターシャのガチ演技に付いていけず、置いて行かれるガエリオ。
よし、話の流れは掴み直した。一先ず欲しがる前に情報を集めるか。
隣に居る姉に目配せし、再び顔を近付けてもらう。
(どうしたの?)
口元を隠しながら小声で話す姉。
ナターシャもどう説明しようか迷うふりをしながら口元を隠し、小声で話す。
(……極唱魔法って何?)
(貴女そんな事も知らないのに威張ってたの!?)
姉の口調が強くなる。
……本当に申し訳ない。
しかし優しいので教えてくれる。
(極唱魔法っていうのは、魔法の中でも最強格の魔法群の事。具体的にどういった物なのかは殆ど知られてないわ。授業でも存在する程度にしか触れられなかったし)
(……他には?)
(知らないわ。習ってないもの)
むぅ、そのくらいか。
(……分かった。ありがとう)
(無理はしないようにね?)
(うん)
再び元に戻る姉妹。
ナターシャも表情を再び創ってから話し始める。
「はい。……私は極唱魔法がどういう物なのかは知りません。しかし、貴方達の対応を見るにとても重要な魔法だと理解できます。……なので、欲しい物が二つあるのです」
「……欲しい物? 何が必要なんだい?」
ガエリオが聞いてくる。釣られてきたかな?
ナターシャは好機と見て攻め込んでいく。
「簡単な物です。私は副団長の娘ですが、それ以外の肩書を持っていません。そして明日にはスタッツ国に向けて旅立つ事になっています。その両方に存在する不安を満たす物が欲しい。……何せ、極唱魔法を授かった身ですから」
暗に身分、そして旅の安全を保障して欲しいと懇願しているが、最後に最強魔法の存在をチラつかせて話のえぐみを消す。
簡潔に言うと同情心を利用するのだ。お願い、見捨てないで……(潤んだ可愛い瞳)
「ふむ……」
それを聞きガエリオは考える。
(……精霊魔法を使う時点で只者ではないと思っていたが、まさかこれ程とは。非常に頭の切れる少女のようだな。そして要求する物は二つ。
1.自身の後ろ盾として騎士団の力が欲しい。
2.旅の護衛。
齢7歳にして極唱魔法が使える以上、王国としても無碍には出来ない。しかし、どうした物か……)
顎や口元を揉むように触り、悩む。
(現在、エンシア王国には騎士団長が不在だ。彼女の1つ目の条件を満たすにはユーシア様の許可が必要。そして運よくスタッツ国に居る。……しかしなのだ。我々は国家騎士団であるが故に、こう言うしか無い)
ガエリオは申し訳なさそうな顔をしてナターシャに告げる。
「……ナターシャくん。君は我々にとっても非常に大事な存在だ。しかし…………」
言葉に詰まるガエリオ。この話は王国にとってかなりの痛手。
しかし話さざるを得ない。相手は既に世界の未来を担う力を持っている。
「……君は副団長の娘だ。身内だから言ってしまうが、現在王国には騎士団長が不在でな。団長の許可無くして私的に兵を動かす事、及び協定を結ぶ事が出来ないのだ」
それを聞きナターシャは困る。
むぅ……ついてない……。ならとっておきはどうだ?
「……では、極唱魔法をスキル化……なんていうのはどうですか?そうすれば、何人か護衛として付いて来れるようになるのでは?」
ガエリオは腕を組み、難しい顔をしながら話す。
「……それは良い手ではある。しかし、極唱魔法は効果が絶大故に消費魔力もまた絶大。例えスキル化しても一般運用出来る代物では無いのだ。護衛として付いていくのも難しい」
少し険しい表情を浮かべるナターシャ。
……マジ?切り札出したと思ったらスペ3返しされた気分。
「……しかしだ」
ガエリオは代案として一つの案を示してくれる。
「騎士団が協力出来ない代わりとしてだが、騎士隊長である私の名前を自由に使ってくれてもいい。親書も書こう。流石に団長や副団長には及ばないが、それなりに影響力がある。旅路にて、道中に存在する騎士宿舎に格安で寝泊まり出来る事を保証しよう。同じく、宿舎に宿泊する騎士達に親書を見せれば色々と協力してくれるだろう。何せ、一般派遣騎士の殆どが私の生徒だからね。そこだけは団長達にも負けない力を持っているとも!」
ハッハッハと大きく笑うガエリオ。
ナターシャも営業スマイルを浮かべて微笑む。
出来れば護衛が欲しかったけど、無理だと突っ撥ねられなかっただけマシか。
道中の宿代が少しでも浮き、更に騎士が在住する村での強力な切り札をゲット。これで詐欺に会い辛くなる。
でもせめてもう少し貰っていくぞガエリオ。じゃないと極唱魔法と釣り合わない。
ナターシャは申し訳なさそうに話を切り出す。
「フフ、とても有難い申し出です。……なのですが、私の旅には後4人も同行者が居るのです。出来れば、その方達も騎士宿舎に泊まれるよう計らって頂けないでしょうか? 私一人だけ騎士宿舎で他の人が泊れず民宿や安宿に……なんて事になるのはとても心苦しいです……」
可愛く、しかし悲しく問いかけるナターシャ。
ガエリオもそれを想定していたようで、軽く頷いてから話し始める。
「あぁ、良いだろう。せめてもの謝辞だ。……フェリス。ナターシャくんに紙とペンを」
「はい」
後ろでナターシャとガエリオの会話を聞いていたフェリスが移動。ナターシャにメモと鉛筆を手渡す。
「では、コチラに同行者のお名前を記入して下さい。後はガエリオ隊長が親書に名前を同記してくれます」
「ありがとうございます」
ナターシャはガレットさん……の名前は知らないので姉に尋ねる。
ユリフォース・ガレットと言うらしい。家の苗字と似てるね。
更にクレフォリアちゃんのフルネーム、斬鬼丸、御者の男性の名前を記述。
……なんで御者の人の名前を知ってるのかって?
そりゃあ、あんだけ暇な旅路だぞ? さらに一緒に飯食った仲だぞ?
そして始めて合わせる顔だ。道中で自己紹介くらいするだろう。
何故今回エンシア王国への御者に選ばれたのかも当然知ってる。
「……書きました。この4名が同行する予定です」
ナターシャはメモを前に差し出す。
フェリスがメモを受け取り、ガエリオに手渡す。
「……む? この名前……」
ガエリオは何か気になったようだ。
しかし首を振り考え直す。
「……いや、流石に考えすぎか。了解したナターシャくん。この4名の名前を親書に書いておく」
ガエリオはメモを無くさないよう、フェリスに返却。
フェリスは受け取ってそれを腰の革袋の中に入れる。
そして今度はガエリオが話を切り出す。
「……まぁ、騎士団隊長格としての会話はこれくらいだ。ここからはガエリオ・スタンビード個人としての注意をしておきたい。こんななりだが、一応先生をしている身だからね」
「……どうしましたか?」
ナターシャは疑問に思いつつも、表情は崩さず対応。
「君が到った極唱魔法について。……その魔法は非常に強力な物だ。滅多な事が無い限り使ってはいけないよ。皆が皆、私達のような人間では無いからね」
まぁ当然の注意である。他の権力者には気を付けろとの意味だろう。
分かってます。魔法創る装置にはなりたくありませんから。
斬鬼丸が損傷した時はちゃんと防具屋で直すようにします。
……誰も見てない場所でなら使うかもしれないけど。
「はい。危険ですからね。注意します」
ナターシャが同意する旨を告げるとガエリオも嬉しそうな顔を浮かべる。
そして優しく話す。
「あぁ、気を付けてくれ。君が思っている以上に極唱魔法は凄いからね。……では、私の話はこれで終わりだ。お連れの人の聴取が終わるまでまだ時間が掛かるかもしれないが、まぁ気長に待っていてくれ。……ユーリカ。この部屋から出て一階で待っていても良いぞ」
ガエリオの言葉を受けてユーリカ姉が反応。
「分かりました。……ナターシャ。一階で斬鬼丸さんを待ちましょう」
妹に離席を促す。
ナターシャもそれに同意。
「分かった」
姉と共に席を立ち、部屋から退室するナターシャ。
部屋の扉を閉める前に振り向いて、お礼をする。
「ガエリオさん、こんかいはありがとうございましたっ」
とっても子供っぽく。
その声音を聞いてまた驚くガエリオ。
しかし面白かったのか、また大きく笑う。
「ハハハ! ……あぁ、中々の演技だったぞナターシャくん。また見せてくれ!」
ナターシャは子供っぽく微笑むと、手を小さく振って姉と共に部屋の扉を閉める。
小さな足音が二つ、一階へと向かっていく。
……そして戻るは先ほどの空き部屋。
静寂の満ちる部屋の中で二人の騎士が語らう。
「……ガエリオ隊長。もしや、あの子が……?」
予測に過ぎないながらもほぼ確信に近い表情をしているフェリス。
ガエリオはその余計な詮索を辞めさせる為に手を出して制止、そして静かに、ゆっくりと語る。
「いや、ナターシャくんにはまだ早い。未来がある。……仮にそうだとしても、あの役目を負うにはまだ早すぎるのだ……」




