80 二日目:取り調べ
大分改変祭り
守衛所にて一旦斬鬼丸とはお別れ。別室にて取り調べを受けるらしい。まぁ主犯の一人だしね。
ナターシャとユーリカは光る石のランプで明るく照らされ、8人掛けのテーブルが置かれた空き部屋にて食事を提供される。守衛さん曰く騎士団の兵糧とのこと。
木のジョッキに入ったエールと、陶器の皿にはライ麦パンのスライス、チーズ、サラミ。
簡素な物だと思って食べてみれば意外と美味しい。
特にサラミは食べると中に入っている脂身が溶けて口の中に広がる感覚がたまらない。
妹、姉共にライ麦パンにチーズとサラミを挟んでモグモグ食べる。スープがあればチーズも良い感じにとろけて最高だったなぁ。
しかし無償で提供された料理だ。文句を言うのは失礼という物。
時々エールで脂っぽくなった口の中をリセットしながら食べるのはなんというか、懐かしい気持ち。ビール感覚だね。飲み物の味全然違うけど。
姉と妹が並んで座り食事を取っていると一人の男性が入室。腰に色々とぶら下げている。
そのまま移動し二人の対面に座る。
「……我々の普段取っている食事はどうかなお二方」
前を見る。黒髪の男性。さっきの守衛隊長っぽい人だ。
「先に自己紹介をしよう。私の名前はフェリス。この守衛所で守衛隊長を務めている者だ」
黒髪でショートカットのイケメンが挨拶する。
俺の予測通り守衛隊長だったらしい。
「私は騎士養成学校所属、ユリスタシア・ユーリカです。隣は妹のナターシャです。……ほら、ナターシャ挨拶」
姉に促されてナターシャはコクンと挨拶代わりに頷く。
しかしお手製サンドイッチモグモグは止めない。7歳舐めんな。
姉の自己紹介を受けて少し驚いた表情を浮かべたフェリス。小さく呟く。
「その名前、副団長の……」
しかし気を取り直して笑みを浮かべ、優しく話しかける。
「……此度は大変だったねユーリカさん。妹さんが誘拐されかけたそうじゃないか」
「はい。ナターシャの御付きの人が居なかったらと思うと怖くて……」
妹に代わり姉が対応する。
そりゃそうだろ。俺この中で最年少だぞ一応。
「……まぁ、騒動こそ起こった物の、あの騎士さんの行いは正当防衛だと私達も判断している。特に何かを要求したりはしないよ。……それより、妹さんに聞きたい事が山ほどある。えぇと、ナターシャちゃん、だっけ」
来たか。
ナターシャはサンドイッチを皿に置き、大人しそうな振舞いで対応。
「……はい」
可愛いだろ。
しかしフェリスは大して気にせず話す。
「この際だ、魔力については聞かない。だが、これだけは教えてくれ。……君の使った魔法、それは極唱魔法か?」
ナターシャは静かに頷く。
気にされなかったのはわりとショックである。
「何処で知った?」
「……熾天使様に教えて貰いました」
緊張で口を少し引き締めながら話すナターシャ。
その答えを聞き眉の幅を狭めて少し後ろに下がるフェリス。
そして首を傾げる。
「……熾天使?」
「はい。……これを」
ナターシャは左手を机の上に置き、手の甲にある紋章を見せる。
フェリスは紋章を見ると驚き、納得した表情を浮かべる。
「……そうか、そういう事か。……あの時、君のリュックの中が光っていたのに関係しているのか?」
そういう変化球は想定してなかったな……
でも手筈通りに。
「いえ、リュックの中が光っていたのはおまじないです。熾天使様に私のお願いが通りますように、という願いを込めて光を灯す魔法を使っています。それ以外の意味は無いです」
「へぇ、また変わったおまじないを……そして、啓示を受けたと」
「はい」
同意しながら頷くナターシャ。
「そうか、分かった。少し待ってくれ……」
フェリスは腰から調書を固定した木のボード、それに紐付けされた鉛筆を持ち上げて今の会話を記入していく。
忘れた所は再度ナターシャに聞き取り、詳しく記述していく。
「……よし。調書は終わった。すまないナターシャちゃん。下の所、何処でも良いから君のサインをくれるかな?」
フェリスはナターシャに木のボードと鉛筆を差し出し、サインを求める。
ナターシャは受け取りサインを記入。フェリスに返す。
フェリスはナターシャのサインに書き間違いが無いか確認。
「……ありがとう。私の話はこれで終わりだ。後はお供の人の聴取が終わるまでゆっくり食事でも取っていてくれ」
そう言って立ち上がり、部屋から退室していく。
扉が閉められ、部屋に残される姉妹二人。
「忙しそうだねぇ」
他人事のように呟くナターシャ。
意外と引っかかりなくチート問答が終わったので気持ちに余裕が出来ている。
やはり天使ちゃんサイコー!な気分である。
「騒動が起こったんだから忙しいに決まってるでしょ。ナターシャは被害者なんだからもう少し危機感を持った方が良いわ」
姉は妹の態度に注意する。
真面目である。
「そう言われても記憶無いし……」
「まぁそうだけど……」
ナターシャの返答に渋々同意する姉。
姉も妹も言葉に困ったのでそのまま無言でサンドイッチを食べる。
騎士団って良い物食ってるんだなぁ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
姉妹がお手製サンドイッチ食べ終わった頃、突然走り込む音と鎧がガチャガチャ鳴る音がする。
その足音は二つあり、この部屋へと近付いてきてバァン!と扉が開き、
「極唱魔法を使ったのは本当かァッ!!!」
と兜以外の西洋甲冑を着込んだ壮年の男性が叫びながら入室し、
「ガエリオさんそれ叫んじゃ駄目ですって! 禁則事項ですよ!」
その後ろから守衛隊長のフェリスが息の粗い壮年の男性を宥める。コントか。
……しかし、ガエリオ?どっかで聞いた名前だな。
ナターシャが疑問に思っていると姉は入室した男性の顔に驚いて姿勢を正し、
「おっ、お疲れ様ですっ! ガエリオ先生ッ!」
と叫ぶ。
あぁそうそう。ガエリオ先生。
俺が光の精霊呼び出した時に顔を出した人だ。
思い出したナターシャはぽんと手を叩く。
部屋に入ってきたガエリオはナターシャの対面に座り、フェリスはその後ろに控える。
そしてガエリオは机に組んだ手を置き、話し出す。
「……また会ったねナターシャくん」
「……こんばんは」
軽い笑顔で対応するナターシャ。
内心は若干焦っている。
ガエリオはニッコリ笑うと圧を込めて質問する。
「……自己紹介は要らないだろうから簡潔に聞こう。君が鎧の完全修復魔法を使い、それがたまたま極唱魔法だった。それは事実だね?」
初手嘘発見器モードのガエリオに恐怖し、ナターシャは押し黙る。
ヤバい、泣きそう。
「どうなんだい?」
ガエリオはもう一度問い掛ける。威圧感タップリだ。
ナターシャはとりあえず困ったように愛想笑いを浮かべて微笑む。
そして内心でめっさ焦る。
ヤバいヤバいヤバいこの状況は全然想定出来てない……。どう返答しよう。どうすれば言い逃れ出来る?
強張る口元を隠す為に左手で覆う。
そして視線をガエリオから外してどう答えようか考えている風を装う。
ガエリオは気配を緩めずナターシャを見つめている。
その圧に耐えられず隣をちらりと見ると姉と視線が合う。
特に意味は無いけど軽く頷くと、姉が小さく口元を緩ませてナターシャに代わり話し始める。
……えっ?
「……はい、先生。私の妹が極唱魔法を使ったのは確かです」
「……ふむ、そうか」
威圧感を解き、顔を綻ばせるガエリオ。
姉も軽く笑みを浮かべると、不安げな表情を浮かべる妹の近くに椅子をずらして移動。口元を手で隠してナターシャの耳元で囁く。
(……この後どう説明すればいいの? 組織の事は話せないんでしょ?)
驚いたナターシャは姉を見る。
そこには優し気な表情を浮かべる姉が。
それを見て少しだけ勇気が湧く。俺は一人じゃないって事か。
……オーケー?
ナターシャは左手の中、隠された口元を歪めてほくそ笑む。




