79 二日目:真・甲冑修復術式:零
大分改稿
でも大筋は変わらず
リュックの中、天使ちゃんとLINEするナターシャ。後ろではその様子を姉が見つめている。
LINE上では日本語での会話が行われている。
天使
[完璧に鎧直す魔法? それならー……リペアを改造する?]
ナターシャ
[リペア?]
天使
[うん。本来は折れた骨なんかを繋ぐ為の魔法なんだけど、それを応用してざんきっちも直しちゃおう☆]
ナターシャ
[へぇ、回復魔法にも種類があるんだ……]
ヒールだけじゃ直せない物もあるんだなぁ、と思うナターシャ。
天使
[そだよー♪ ヒールは傷、リペアは骨、キュアは毒や病気な感じだね。まぁでもハイヒール開発されてからはリペアは利用されなくなっちゃったね]
ナターシャ
[そうなんだ]
時代の流れって残酷だなぁと思うナターシャ。
ナターシャ
[リペアの詠唱は?]
天使
[砕け折れし骨よ、元の形に戻り接合せよ。修復だね♪]
成る程? でもそれだけじゃ情報が足りないなぁ……
スマホをリュックの中に置いたまま、左手で額を撫でるナターシャ。
直すのは鎧だろ? 壊れる前に戻す……のは時空干渉に引っかかりそう。
でもリペアの魔法を見る限り再生は可能。傷とか怪我を治すのは時間を巻き戻さないからセーフって事なのか?
なんか魔法って思ってたよりも奥が深いな……でも再生か。そこら辺をヒントに創るしかないよな……。
再生……再生……蘇り? お、蘇りはアリかも。
ぼんやりとイメージが浮かんでくる。
後は……鎧の直し方か。軽く調べて……うわメッチャ内容濃い……。
情報量の多さに目を顰める。……でも大体分かった。ありがとう先人達。
西洋甲冑は完全オーダーメイド。着用者の身体に合わせて直す訳なんだけども、今からするのは詠唱魔法だ。
体格についてはある程度は省けるにしても、直し方はそれなりに細かく言わないといけない。
でも、流石に溶接までは拘らなくても良いハズ。それ入れ始めたら沼だし。……溶接沼ってなんだよ。
リュック内部でスマホを弄り、眉間に皺を寄せながら詠唱文を創り上げていく。
数分後、目を開けたナターシャは創り上げた詠唱文をLINEに投稿。
ナターシャ
[これでどう?]
天使
[最後に表面が輝く事も入れといたら完璧?]
ナターシャ
[りょーかい]
天使ちゃんの指示通りに修正して再投稿。
ナターシャ
[これでどうだ]
天使
[良いと思うよ♪ ……でも、今どうやってLINEしてるの? ざんきっち動けないならそれなりに野次馬とかいるのでは?]
ナターシャ
[リュックの中で隠しながら弄ってる]
天使
[ふむふむ。……まいごっとの力を疑ってるな?]
ナターシャ
[まぁ、“持っていて当然だ”程度の力じゃ、ねぇ?]
天使
[失敬な! それちょーつよいんだからね! 事実誤認と認識阻害入ってるから!]
ナターシャ
[全然実感が湧かない……]
天使
[帰ってきたらそのぱうわーを見せつけてやりますからね! 覚悟してなさい!]
ナターシャ
[あぁうん分かった。とりあえず斬鬼丸直してくる]
天使
[ちょっと! まだ話は終わってないよー!]
天使
[こら――
ナターシャは容赦なくLINEを終えるとアイテムボックスにスマホをしまい、リュックを後ろに。
そして地面に跪く斬鬼丸に右手を向ける。
斬鬼丸も気付きコチラを見上げてナターシャと視線を合わせる。
「今治してあげるからね斬鬼丸。痛かったらごめん」
なんだか斬鬼丸からめげそうな雰囲気が漂ってきていたのでそう告げる。
「……忝い」
斬鬼丸は一言告げると動作をやめて静かになり、ナターシャの魔法を待つ。
上手くいくかどうかは正直賭け。でもやるっきゃないと。
早速創った魔法を試す。
「――“圧壊せし白金の鎧。全は一。其は原石。百錬の鍛冶師により打たれし鋼。錬鉄の叡智の結晶”」
ナターシャの詠唱が始まる。
紫の魔法陣がナターシャと斬鬼丸を取り囲み、斬鬼丸の身体が白く輝く。
「――“千の鏨で穴を開け、万の槌にて歪みを正す。嚙合い組合い、軋み無し。繋ぐ鋲子は強く安らか。縛る調帯は堅く動かず。容に一つの狂い無し”」
斬鬼丸の身体の内、外。複数の箇所から金属を優しく叩く音が鳴る。斬鬼丸の身体の凹みや潰れ、身体の歪みが治されていく。弾けて外れたベルトのピンも宙に浮き、ベルトと再結合。しっかり締められる。
斬鬼丸も次第に動けるようになっていき、手や身体を見回し、手を開いて閉じて感触を確かめている。
ナターシャはそれを微笑ましく見ながら詠唱を続ける。
「“鍛冶と技巧の神すら魅入る姿形と輝きを取り戻し、最強の戦徒へと今再び、今此処に蘇れ。――……?”」
……なんだ?
なんの魔法だって?
「“……修復魔法の神髄。その極地。全ての鍛冶師が目指す頂き。そして――”」
詠唱の途中、ナターシャの脳裏に突然ある単語が過る。
まるで初めから決まっていたかのように振舞う一つの単語は詠唱文に入り込み、溶け込み、ナターシャも違和感なくそのまま詠唱を口にする。
「“――――そして、極唱魔法が一つ。真・甲冑修復術式:零”」
詠唱が終わり、魔法の真の力が発動する。
二人の足元にある魔法陣が消え、辺りが暗闇に包まれる。
……その暗闇の中、斬鬼丸の頭上から一筋の光が差す。天から舞い降りるそれは一欠片の鉱石。
純白に輝く金属はゆっくりと降着し、斬鬼丸の右肩に触れる。
そして水面に落ちる水滴のように優しく当たり、溶けて鎧全体に広がり、斬鬼丸の身体の輝きが変わる。
その輝きは熾天使アーミラルが降臨した時に見えた天空の光のよう。眩しいながらも清く、荘厳な圧力をその場に放つ。
「おぉ……」
光を放つ本人も驚いた様子。片膝をつく体勢を解き、立ち上がる。
すると斬鬼丸の身体から放たれていた輝きは最後に強くなり、鎧の表面を綺麗に磨き上げるように胸部から剥がれ落ちて消えていく。
「……調子はどう?」
不安そうにナターシャが尋ねる。
身体を動かして調子を確かめる斬鬼丸。暫くして確認を終え、ナターシャに一言。
「……天晴であります」
上手くいったようで何より。
ナターシャは安堵してふぅと肩の力を抜く。
すると、
『おォォーーーーーーーッッ!!!!』(パチパチパチパチ……)
「い、今のはまさか、極唱魔法……!?」 「な、なんだと……!?」
静まり返っていた周囲が突然五月蠅くなる。
なんだ!?と思ってナターシャが周囲を見ると、野次馬達はナターシャに向かって拍手と歓声を送り、守衛達は驚愕の表情を浮かべて絶句している。
そんな中、思考停止していた守衛達の内一人が我を取り戻す。隊長格らしき黒髪の男性だ。
「……き、君ッ! 今の魔法は何だ!?」
その男性は取り乱しながらもナターシャに尋ねてくる。
ナターシャは少し困惑した表情で申し訳なさそうに話す。
「え? いや、ただの修復魔法です……鎧の……」
「よ、鎧の!? 嘘だろ……!?」
たじろぐ黒髪の男性。
しかしそこは仕事人。すぐさま事態を収拾する為に最善の手を尽くす。
「……ま、まぁ話は後だ! これ以上騒ぎを大きくしない為にも一旦守衛所までついてきてくれるか!?」
「あっ、はい……」
ナターシャは流されるままに任意同行に肯定の意を示してしまう。ユーリカ、斬鬼丸は快く許可。
主要メンバー3人への同行許諾を得た黒髪の男性は大声で指示を飛ばし、その声で守衛達も動き出す。
まず周囲への聞き取りを一旦中止。その後全員でナターシャ・ユーリカ・斬鬼丸の三人を取り囲み、護衛しながら守衛所へと向かう。
黒髪の隊長が先陣を切って野次馬の壁を掻き分け、内の城門の方へと向かっていく。
その間野次馬からナターシャに向かって質問の声や称賛の声が贈られる。
『今の魔法すげぇな嬢ちゃん!』 「コラ、近づくな! そこを退きなさい!」
『私にも教えてー! どうするのー!?』 「そういった質問は記者を通して!」
表情を悟られないよう顔を伏せながら歩くナターシャ。姉や斬鬼丸は緊張気味に歩いている。
なんか一躍有名人になった気分だけど、あまり良い気分じゃない……ってェ、そんな事思っている場合じゃない。
どどど、どうしよう……この後に控える聞き取りへの言い訳の為、必死に思考を巡らせる。冷や汗ダラダラである。
……そ、そうだ。と、とりあえずコレがある。思い出したように左手の甲を触る。
そこには燦然と輝いてないけど天使ちゃんの赤い紋章。魔法と魔力についてはこれで言い逃れが出来る。
そして今回スマホは誰にも見せていない。聞かれても何の事か分からない。リュックの中で光を出したのは熾天使様に祈る為の自己暗示ですと言い切ってしまえばいい。
嘘発見器されたら熾天使様に尋ねていましたと言おう。嘘じゃないし。オッケーこれで言い逃れられるハズ……
守衛に間違いなく聞かれるであろうチート3種関連の質問への簡素な答えを頭の中で造り上げたナターシャ。
他に困った事を聞かれないよう神様に祈りつつ、緊張した面持ちで城門近くに建つ守衛所へ入っていくのだった。




