78 二日目:始まりの前奏曲(プレリュード)
次の部を修正する為にこの部も修正
斬鬼丸のダメージがけいげんされました
そしてスマホをリュックの中で弄るように変更
何故取り出させたのだ俺は
「……と、いう事でピエール。早速移動させてくれる?」
笑顔で命令するヘカトリリス。
ピエールはニュール何ですが……と言いつつもベッドから降りて立ち上がり、シルクハットを手に取る。
「場所は?」
「まずはスタッツ。その後エルフォンス。最後にエルリックかな。移動する時に連絡するね」
「多いですねぇ……。じゃあ、帽子の中に飛び込んで下さい」
ピエールはシルクハットをくるりと一回転させて床に向かって投げる。
シルクハットは床に付くギリギリの位置で浮き、クルクルと独楽のように回る。
帽子の中に飛び込む前、ヘカトリリスは思い出したように告げる。
「あ、そうそう。クレフォリアの居場所がユリスタシア家で確定したよ。ヘレンに言っておいて」
「お任せあれ」
「それと面白い情報」
「なんですか?」
腕を組むピエール。
ヘカトリリスはシルクハットに近付きながら話す。
「クレフォリアの隷属魔法を解除したのはナターシャみたい。その場で創ったって。裏には熾天使アーミラルが絡んでるってさ」
「……ほう、魔法を創ったと。そしてまた大層な名前が出てきましたね。良いですね。気になります」
楽しそうに笑うピエール。ホホホと笑う。
ヘカトリリスも軽い感じで提案する。
「弟子に向いてるかもよ?」
「えぇ、期待させていただくことにしましょう。さ、後は我々に任せて行きなさいヘカトリリス」
「うん。頼んだ。じゃね」
ヘカトリリスは帽子に向かって飛び乗ると足先から飲み込まれ、その場から消える。
シルクハットはその衝撃で浮き上がり、ピエールの手元に戻る。
「さて。私達も行動しますかリリィ」
シルクハットを指で回しながらリリィの方を見るピエール。
『同意。そして追加提案。空き時間にダンジョンにてアダマンタイト収集を行いましょう。王家からの供給は期待できそうにありません』
リリィはピエールの傍に近付きピエールの顔を見上げる。
「アダマンタイトにはまだ余裕があるのでもう少し先送りしましょう。それよりも先にエルリックで情報収集です。明日か明後日にはイクトルも気付きますからね」
『承認。そして疑問。カモフラージュを展開したまま移動しますか?』
「お願いします。近くでしっかり聞き取るのが大事ですからね。」
ピエールは帽子を指で突いて空中に浮かせ、左手で取るとそのまま回転してリリィを抱き寄せる。
リリィはカモフラージュエリア展開と告げると二人の姿が消えていく。
完全に消える直前、シルクハットに飲み込まれる二人の姿が見えた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――時間は戻ってヘカトリリス達が逃げ去った後の場面。
「もうっ! 突然居なくなって心配したんだからぁっ!」
ユーリカがそう言いながら妹であるナターシャを抱きしめている。
因みにナターシャは7歳女児の可愛いほっぺが持ち上がるくらい強く抱き締められているのだが、一体全体何があってこの状況に陥っているのか理解が出来ない。
……まぁそれでも一つ分かる事があってね? そう、ユーリカ姉の胸部の大きな柔らかさ。
それには驚かされるし成長している事を実感出来て嬉しいんだけども……
あれ……なんかその事考えてたらどうでも良くなってきたな……このまま流れに身を任せてしまうのも良いかもしれない……
この感触に比べたら他の事なんてどうでもいいよな……やはり大きいは正義……
目を細めて微笑むナターシャ。
……ってぇ、流されてちゃ駄目だ。こういう時主人公なら必ず何があったか尋ねるハズ。きっとそうに違いない。
ナターシャは姉と斬鬼丸に状況説明を求める。
「私の知らない内に何があったの?」
ユーリカは抱き締める腕を緩め身体を離すと、簡単に教えてくれる。
姉と妹は向かい合う形になる。
「3人で冒険者ギルドに向かってる途中、突然居なくなったのよ。私は急いで城門に走って行って、斬鬼丸さんには路地の確認をして貰っていたの」
それを聞きなんと、と驚くナターシャ。
話の続きは斬鬼丸が引き継ぐ。
「……その後、拙者が怪しい女性と共にいるナターシャ殿を発見し、戦闘。ナターシャ殿を取戻しはしたものの、肝心の相手には逃げられてしまったであります。不覚」
兜の中の炎が揺れる斬鬼丸。悔しそうだ。
つまり、俺が悪い人に誘拐されて連れ去られそうになったって事?
やだ異世界怖い……。道中の記憶が無かったって事は洗脳でもされたのかな? 今大丈夫かな、まだ洗脳魔法残ったりしてないよな……?
ナターシャは両手を眺めたり目を瞑って自身の思考に異常がないかを確認したりするも全然分からん。解除されてる事を祈るしかねぇ。
もう分からない物は分からない。不安になっていても仕方がないと割り切って斬鬼丸に預けていた身体を起こし、立ち上がる。
「……洗脳とかされてるかな?」
しかし不安なので姉に尋ねる。
「なら聞くわ。……何処かに向かわなきゃいけない、とか何かをしなくてはいけない、なんて強い感情はある?何よりも優先しなきゃいけないっていう意識」
姉も立ち上がるとナターシャを顔を両手でむにゅっとしながら聞く。
……なんでむにゅっとするの?
「にゃいよ。」
姉の行動への疑問は棚に上げつつ返答する。
「なら多分大丈夫。洗脳魔法での洗脳は睡眠よりも優先されるくらい強い物だから」
姉がナターシャの頬をむにむにしてからぎゅっと抱きしめる。
睡眠より優先されるってかなり重い物だな。俺も毎日昼頃に訪れる睡眠欲には勝てないし。
たしか三大欲求に入ってるんだっけか睡眠って。
ナターシャも抱き締め返して姉の良い香りを堪能する。香水振って色々と気を付けてるんだねお姉ちゃん……薄いユリの花みたいな香りがする……。
そこに鳴り響く金属の軋む音。ギギギ、ゴゴ、という音。
驚いて振り返ると、斬鬼丸が動作しようとして鳴らしている音のようだ。
「……これは困った事になり申したな。動けませぬ」
困った声音で小さく呟く斬鬼丸。それでも諦めずに動こうとチャレンジしている。
その身体だがパッと見では違和感がない。しかしよくよく見ると身体のあちこちが歪んでいる。
中々のダメージに再び驚くナターシャ。
「……そんなに激しい戦闘だったの?」
というか中身大丈夫なんだろうか。精霊だから大丈夫なのかな?
「否、技は使っていない故まだ本気ではありませぬ。しかし、ナターシャ殿を助けた際に受けた相手の突進を流し切れずにこの有様であります。不覚続きであります」
やはり戦闘経験の少なさ故でありましょうか……とも言う。
そして無事な左腕を動かし、歪みを治そうとする斬鬼丸。グ、ググと音が鳴る。力が強いお陰で多少は直るものの、やはり歪な形だ。
金属の擦れる音を鳴らしながら右手を開閉する斬鬼丸を見て考えるナターシャ。
……これはもう、天使ちゃん案件なのでは? まずそう結論付ける。
エンシアからの帰国後にスタッツへの旅が控えている以上、此処で斬鬼丸に脱落されると困る。だって食事と睡眠不要とかもう護衛として完璧すぎる。必要不可欠。
でも、今から防具屋で鎧を修理してもらう時間もお金も無いし、かと言って安易に創った修復魔法で鎧を直しました!でも形が歪で動けません……なんて事になったら大惨事。その後しっかり直したとしても護衛に支障が出るかもしれない。
ただでさえ俺は後衛向きのステータス。更に7歳で引きこもり気味のフィジカル貧弱ナメクジ。それなのに盗賊と接近戦タイマンなんて張らされてみろ。2秒で負けるぞ。
いやまぁバフ魔法あるから最悪10分は逃げられるけど10分後までに片付かなかったら敗北確定だし……
しかしなぁ……。と辺りを見渡すナターシャ。スマホ、今ココで使うか? どうする?
判断が付かず、眉を困らせる。
周囲では守衛が戦闘の被害確認や目撃者への聞き取り調査を行っている。
騒動によって野次馬も増えてきていて、大通りの両端に守衛達が張るガードラインの外には結構な数が居る。
先ほどから被害確認を行っている何人かの守衛がコチラの様子を伺っているのは、話しかけるタイミングを見計らっているのだろう。空気の読める人達ですねホント。
……でもまぁね? と、思考を改める。
まずココで直さないと斬鬼丸が動けない訳で。
そして応急処置程度で直る被害状況でも無い訳で。
仮に防具屋に運んだ所で時間や金額がいくら掛かるか分からない訳で。
スタッツに行く以上下手にお金を使えないし、エンシア王国に居られる時間も殆ど無い訳で。
とどのつまり余裕が無い。俺がここで魔法を創って、何とかするしか無いって事だよな……。
頭を掻き、空を見上げる。そして再び前を向き、目を瞑る。
……仕方ねぇな。やるか。
「はぁー……」
ナターシャは大きくため息をつき、覚悟を決める。
ゆっくりと開かれた目には覚悟が宿り、その強い目つきは7歳の少女だと到底思えない。
リュックを前に向け、中を漁る振りをしながらアイテムボックスを心の中で詠唱して発動。
スマホを取り出し、リュックの中で弄る。こうすればバレないバレない誰にも見えてない……
周囲の目線を気にしないよう視野を狭めつつLINEを起動。天使ちゃんに問いかける。
ナターシャ
[天使ちゃーん。斬鬼丸壊れた]
天使
[え? どゆこと?]
ナターシャ
[鎧直す魔法教えて?]
天使ちゃんに向かって軽い感じに問いかけるその周囲では姉が、守衛が、道端の野次馬がナターシャの怪しい行動を見ている。リュックもスマホのライトで眩い光を放っている。
なので、神様に祈るナターシャ。
……どうか誰にもバレませんように。




