76 二日目:運命の出会い。そして戦い。
「ナターシャ。ご飯食べに行くわよ」
斬鬼丸の膝に頭を預けて寝ているナターシャを叩いて起こすユーリカ。
ナターシャは不機嫌そうに目を覚まし、呟く。
「んあ……なに……?」
「ご飯よ。晩ご飯。冒険者ギルドに行きましょう」
「うん……」
体を起こしたナターシャは伸びをしながらふわぁ~あと大きく欠伸をする。
いやーよく寝たわ。寝る子は育つを常に実践する身としては良く頑張っている方だと思う。
早くしなさいと急かす姉に待ってーと言いながら立ち上がる妹。
先ほど寝たせいか寝癖が酷くなっている為アホ毛が立っているのだが、鏡を見る時間が無いのでそれに気付いていない。
そんな寝癖混じりの髪をぴょこぴょこ揺らしながら姉の後ろに付き、冒険者ギルドに向かう。
玄関の外は再びSF世界。謎の飛行物体が宿舎街を照らしている。
道の左右に複数建つ一軒家の屋根付近にたまにぶつかりながらも常に光を放つ魔道具について再び言及する。
「あの魔道具って何を催して作ったんだろうね」
「分かったら苦労しないわ」
ですよねー。
内心でそう言いつつ一軒家街を通り過ぎ、今度はアパート街に入る。
アパート街は相変わらず。魔道具が浮かんで辺りを照らし、丸太に木剣を叩きつける訓練や騎士がランニ……いや違うぞ。あれはランニングじゃなくて競歩だ。
何故……? ランニングでは育てられない部分の筋肉を育てる為なのか……?
不思議そうな顔で超早歩きする集団を見つめるナターシャ。速度も走ってる時と大差ねぇ。
すると斬鬼丸がナターシャを追い抜いて珍しく姉に話しかけ、訓練場を使えるかなどや行っている訓練内容について話し始める。
姉もそれに対応し、結構熱い議論を行い始める。
そんな様子を後ろで眺めるナターシャ。たまに斬鬼丸がチラチラとコチラを伺っているのでしっかり護衛をしているのだろう。大丈夫だぞ斬鬼丸。俺は飯食ったら風呂入って寝るつもりだから。
そしてアパート街を抜けて城門前に出る。ナターシャは城門を通りすがる際、守衛に向かってお疲れ様です!と今日3度目くらいの挨拶する。
守衛さんも微笑ましく手を挙げて返してくれるので嬉しい。大分仲良くなれたと思う。
大通りも昨日の夜中に見た通りSFチックな感じなので特に何も言う事も無い。
そしてサムライさんまた魔道具を見てる。飽きないねぇ。
良きかな……と言うサムライの後ろを通り過ぎると、少し先の方にある路地からとても印象の強い服装の女性が出てくる。
黒に赤を合わせたフリル地獄のドレス。そして同系統の傘。この人ともよく会うね。
女性は左右を見渡しナターシャの方を向くとコチラに向かって歩いてくる。
そして女性の顔をよくよく見れば、碧だった右眼がいつの間にか金色になっている事に気付き厨二病時代の黒歴史が呼び起こされて精神に深刻なダメージを受ける。
ほ、ホントやめろや! マジでやめろ! オッドアイで右眼が金色なのは俺の未来視の魔眼と同じなんだぞ!
観測眼は黒歴史の中で一番思い出したくない存在なんだよぉぉぉぉぐあぁぁああああ……っ!!!
内心で叫び、表ではとっても顔が引き攣るナターシャ。
オッドアイにメイキングした女性はナターシャに視線を合わせると、金色だった瞳が碧色に変わりいや何で今色……が変わっ……あ……れ…………?……――――
そこで俺の意識は途切れた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――暗い暗い路地の中。
ヘカトリリスはそんな暗がりにナターシャを連れ込み、誰にも見つからない影で詰問を開始する。
「……ナターシャ。喋る事を許可。そして命令。質問に答えなさい」
「……はい。ヘカトリリス様」
虚ろな目をしたナターシャが話す。
その目に自我や感情は無く、ただ命令に従う事だけを第一にしている。
「クレフォリアは今貴女の家に居るの?」
「……はい。います」
「どうやってユリスタシア家に連れてこられたの?」
「……深夜、私がクレフォリアちゃんを助けてそのままテントで一夜を明かし、次の日の朝、父に見つかり自宅まで連れ帰られました」
その答えに眉を潜めるヘカトリリス。
「……助けた? 何をしたの?」
「……隷属魔法を解除する魔法で、クレフォリアちゃんを助けました」
ヘカトリリスはそれを聞き困惑する。
奴隷の解除魔法は商会しか知らないハズ。何故こんな少女が知っているの……?
「……解除魔法は何処で知ったの。教えた人間も答えなさい」
自身は既に代償を支払い本家から抜け出した物の、一人の奴隷商として、そして幼い頃から両親、親戚に叩き込まれた一族の掟に従い、解除魔法を漏洩した人間は須らく断罪しなければならない。
傘を持つ手を握りしめ、怒りの表情を露わにするヘカトリリス。
そしてナターシャの答えを聞き、驚く。
「……解除魔法は創りました。教えた者は人間ではなく熾天使アーミラルです」
…………どういう、事?
戸惑うヘカトリリスは言葉に詰まり、何も言い出せなくなる。
静寂に包まれる暗い路地。見つめ合う一人の少女と女性。
――――そして大通り。この路地に繋がる道。
そこに、怒りと殺意の波動を撒き散らしながら姿を現す一人の騎士。
西洋甲冑のその見た目。兜の隙間から見える青い光は強く輝き悪事を照らす。
鎧の節々からは青い炎が漏れ出し、地面を焼き、空気を焦がす。
路地に潜む人影の存在に気付いた騎士は無言で鞘から剣を抜き、ゆっくりと右手に持つ剣の先を向け、主と向かい合う一人の怪しげな女性に向かって本気の殺気を放つ。
「……貴様……我が主に何をしたッ!!!!!」
空気が痺れるような、圧倒的で威圧的な叫びと殺意。
ヘカトリリスはその殺意に心底恐怖し、心から叫ぶ。
「……ッ!撃退せよ――ッッッ!!!」
ヘカトリリスの助けを呼ぶ声が夜の街に鳴り響く。
すると路地の上空、一呼吸も置かずに何かが降臨し騎士と女性の間に墜落。
ズドォン……という重い音と共に砂埃が舞い、地面が揺れ、大気が震える。
斬鬼丸が片手で剣を構え、前方を本気で薙ぐ。
その風圧で砂埃の煙幕が払われ、中から姿を現したのは、三転着地をした一機の人形。
その人形の背中からは三つに分かれ、翼状になった噴出口が露出。両眼は路地の中で怪しく、赤く光り、関節部からは水色の光が漏れ出ている。
未だブースターに火の燻る人形は、ゆっくり立ち上がると同時に両の前腕部を解放。変形。
綺麗だったドレスの袖が肘ギリギリまで破れ、青い光の筋が電子回路のように走る実体剣へと構造を変形させる。
『……コールサイン認証。バスターモードに移行』
そう言い放つと剣を前に出し、二刀流の構えを取った人形は甲高い稼働音を鳴らしながら目の前の騎士を見据える。
斬鬼丸は腕を引き、剣を顔の横に立てて構える。
息が詰まるような張り詰めた場の雰囲気から、ヘカトリリスが息を呑む。
そして両者見つめ合った。その瞬間。
ヘカトリリスが動きやすいよう足を広げる為動かした際、ザリ……という音がその場に響く。
それを逃す2機では無かった。
一方は主を守る為。一方は主を救う為。
リリィは全力で噴出口を吹かし、斬鬼丸は地面がひび割れる程強く踏み込み勢いよく突撃。
そして凡そ一歩で互いの暴風圏域に突入。
全力の一撃を互いの刃で受け止めた後、目にも止まらぬ速さの剣戟が始まる。
狭い路地の中で行われる瞬息の攻防。
互いに一歩も引かず、その場に踏みとどまり相手を絶命させるべく必殺の剣を振るう。
一歩間違えれば壁に剣が当たり、相手に隙を晒すような場所で行われる速攻の連撃。
一秒間で何重にも、何十にも見える互いの斬撃は衝撃波を生み、空気を切り裂き真空の刃を創り、周囲の構造物に数多の切れ目を入れる。
「ぐぅっ……!?」
ヘカトリリスはその衝撃波をまともに受ける。右腕を前に出し、目に暴風が入るのを防ぐ。
(……なんて戦い……! こんなの、私が入る余地なんて……ッ!)
恐怖と絶望で忌々しく唇を噛み締めるヘカトリリス。
その間もどちらかが事切れるまで終わらない斬死の舞踏は続く。
騎士と人形。互いに一呼吸も動きを止めず、場が膠着し始めたと思われた時。
ついに動きが起こる。
まずリリィ。現段階で収集した情報から導き出される斬鬼丸の動作パターンを完全に読み切る為、攻撃処理に使っている余剰分のリソースを少し演算に回す。そして双剣の手数を生かして防御体勢に入る。
対して斬鬼丸。相手が明らかに防御姿勢に移行した事から既にコチラの情報を読み取っていると悟る。
ならばその予測を上回れば良いと主から供給される潤沢な魔力をふんだんに使い、精霊である自身の膂力と動作速度を一時的に超強化。
鎧の隙間から漏れ出る青い炎が途切れずに筋を創る速度で神速の三連撃を叩きこむ。
右下、左下、右上の三方向からほぼ同時に放たれたその斬撃は、リリィの首を的確に狙う。
今までの相手の剣筋からその三連撃が全て首狙いだと予測していたリリィは右下と左下からの斬撃、最初の二撃こそ防ぐものの、僅かに足りなかったリソースの隙を突かれて右上からの最後の一撃を防ぎきれずに首筋に攻撃を受けてしまう。
斬鬼丸の剣がリリィの首にめり込み、外郭をひび割れさせ内部を切り裂く。……かに思われた。
リリィは外郭の堅さで斬撃が止まったその一瞬に間に合わせる形でブースターを起動。後方に自身を飛ばしこれ以上のダメージを防ぐ。
そのままヘカトリリスの近くまで飛び距離を取る。
斬鬼丸はその隙を逃すまいと既に二歩踏み込み、三歩目で飛ぶ事で間合いを詰めていて、リリィの身体を左右に両断すべく身体を右に捻らせて下段から全力で斬り上げる。
リリィは不利な体勢を防ぐ為にブースターの自立制御装置を解除。そして全力で噴出。無理矢理身体の天地をひっくり返し、クロスさせた刃で斬鬼丸の斬撃を受け真上に吹っ飛ばされる。
斬鬼丸はその場で一瞬の思考。リリィは一時戦闘離脱としてすぐさま狙いをヘカトリリスに変更。
光も届かぬ暗い路地の中、静かに灯る青い炎の眼光がヘカトリリスを見据える。
「ひっ……!」
見つめられたヘカトリリスは恐怖で攻撃出来ず、後ろにたじろぐ。
斬鬼丸はヘカトリリスの傍にいるナターシャを抱き抱えると後ろに跳躍。そのまま大通りに飛び出した。
久しぶりに戦闘書くのたのちい




