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75 二日目:暮らしの中の光と闇

 さぁて、まずはナターシャの居場所を突き止めないと……

 行動を開始したヘカトリリスはとある宿屋に向かう。名は満月亭。

 エンシア王国の情報屋が多く宿泊する店だ。


 中に入ると一階は酒場になっている。8人掛けの長テーブルが3つと簡素な暖炉。

 左手には宿の受付が存在し、受付近くには店主用の出入り口の他に厨房に繋がる大きな入口も見える。

 ヘカトリリスは受付に居る宿屋の男店主に軽く手を振り、二階の大部屋に向かう。


 階段を登りきるとそこは大部屋。等間隔で並べられたベッドの間や床には冒険者らしき人間が何人も寝転んでいる。宿代が足りない冒険者はよくこうして寝ている事が多い。

 冒険者を踏まないよう避けながら歩き、目的の人物の元に辿り着く。

 その人物は大部屋の奥で壁にもたれ立膝をしながら座っていて、近づいてくる人影に気付き顔を上げる。


「リリック。教えて欲しい情報があるんだけど」


「……ヘカトリリスか」


 黒いローブに付いているフードを目深に被り目元を隠した男リリックは、親指でフードを上げ、黒い左の瞳をヘカトリリスに見せる。

 髪の毛も黒くぼさぼさで、全く手入れされていない。その影響で右目を完全に隠している。


「何の情報が必要だ?」


 再びフードを被り直し、目を隠すリリック。

 立てた膝を抱えて不信感を露わにする。


「内の宿舎街に出入りした人の情報。私が求めているのは年齢は7~8歳くらいで、髪は銀色の女の子。お供にフルプレートアーマーを着た男が付いてる」


 ヘカトリリスは気にせずに問い掛ける。この程度いつもの事だ。

 リリックは少し間を置いてから話し始める。


「……あぁ、知っている。その子の何を知りたい?」


「泊っている宿舎と人数。もしくは外出するタイミング」


「……後者は分からない。そして前者はタダで教える気はない」


 そう言うとリリックは手を差し出す。


「金貨1枚だ」


 ヘカトリリスはスカートを捲り上げ、太腿ふとももにベルトで巻き付けている袋から一枚の金貨を取り出す。

 その金貨をリリックに投げ、リリックはパシリと受け取る。


「……確かに。泊っている宿は貴族訓練生用宿舎街。9の609番。赤いタイルだから良く目立つ」


「その宿舎には何人泊っているの?」


「……甲冑の男も入れて5人だ。3人は養成学校に通う訓練生。一人は少女の姉だ」


「そう。感謝するねリリック。またよろしく」


 ヘカトリリスは軽く手を振る。


「……話し合いは終わりだ。さっさと失せろ悪魔」


 リリックは忌み嫌うように顔を伏せ、眠りに付く。

 仲間なのに相変わらず付き合い悪いなぁと思いながらヘカトリリスはその場を去る。


 満月亭を出た後、ヘカトリリスは早速行動に移す。

 何、手間取る事は無い。いつも通りやれば良いだけなのだから。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 あ゛ー…………、暇。


 ナターシャは現在、宿舎のリビングの暖炉前に座りひたすら火を眺めて時間を潰している。

 隣では斬鬼丸が座禅を組んでいて精神統一をしている。


 姉はそんな二人の様子を遠巻きに眺めながら紅茶を飲んでいる。


 出来る事ならば今すぐにスマホを触りたいのだが、姉が居る以上滅多な事では触れない。特に組織に関して聞かれると面倒だし。

“組織から連絡が……?”とか、“ついに動き出したのね……!”とか言われたら心が持たない。


 なのでたまには心を無にして火を眺めようと思い立ち、斬鬼丸の修行に付き合い始めたのだがおおよそ90秒程で飽きた。

 今では眠気でぽやぽやとしながらそのまま寝落ちするまでぼーっとする事になっている。

 何を言っているか分からないと思うから分かりやすく言うと、眠くなるまでぼーっとしようという作戦だ。


 現代人のようにせわしく小学校に通っていないこの肉体は、おやつ時になると強烈な眠気に誘われる。

 うつらうつらとしてきたならば斬鬼丸に頭を預け、そのまま眠ってしまうのが一番だ。

 この後は特に用事も無いしね、と大きくあくびをするナターシャ。そろそろかな。


 斬鬼丸の膝にポフンと頭を預け、何事?と下を見た斬鬼丸を他所に眠りに入ろうとする銀髪の少女。

 しかしそうはさせぬと玄関のドアをノックする音が聞こえる。


「誰かしら……? はーい!」


 姉が席を立ち、玄関に向かって歩いていく。こっちは良い感じで寝れそうだったのに出鼻をくじかれた気分だ。

 不機嫌そうに頭を上げて座り直すナターシャ。目を擦っていると姉が戻ってくる。


「学校からの使いの人だったわ。学食で食べていない分の食券を渡しに来てくれたみたい。冒険者ギルドで使いなさいって」


 ナターシャは暖炉を見ながら質問する。


「何枚?」


「4枚ね。ただ使える時間に制限があるわ。午後5時から6時の間だって」


「なんで?」


 ナターシャは質問しながら顔を下に向けてゆっくりと左右に揺らす。


「騎士養成学校では学校を休んで、学食を食べれない訓練生向けに冒険者ギルドの食券を渡すの」


「でも5時から6時って一番忙しい時間じゃないの?」


「冒険者ギルドが混み始めるのは、職人や商人が準備を終えて朝食を取る朝6時、昼の12時から1時、宿に荷物を置いた宿泊客が落ち着いて外に出始めた6時くらいよ。この食券は午後5時から6時。忙しい時間よりはちょっとだけ早いわ」


「なるほど……?」


 首をぐるんと回すナターシャ。そして大きくあくびをする。


「極力安く、しかし丁度いいくらいの時間に買っているのよ。よく考えられていると思わない?」


「そうだね……しゅごい」


 そして再び斬鬼丸の膝にポフ、と頭を乗せる。ご飯行く時間になったら起こして……



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 大通り近くの路地の中。

 虚ろな目の貴族風の男がヘカトリリスに告げる。


「……ヘカトリリス様、ユーリカに食券を渡す事に成功しました」


「そ。終わったからどっか行って」


 ヘカトリリスの右眼が碧から金色になると男は我を取り戻し、首を傾げながらその場を去っていく。

 そして呆れた様子でため息をつくヘカトリリス。


「……宮廷貴族のレビィ。この時間は大抵酒場に居るからホント扱いやすくて便利」


 間抜けっていうのはああいう男の事を言うんだろうね。

 ヘカトリリスは、酒場で日々賭け事に明け暮れる宮廷貴族の男を利用してユーリカにギルドの食券を渡す事に成功したのだ。

 そこに再び人形が姿を現す。


『……お呼びですかヘカトリリス。当機は相棒の努力を他所に宿屋で平然と熟睡する自称メカニックのピエールを物理的に起床させ、早急にアダマンタイト回収の任務に就こうとしています。端的に言うと時間が惜しいです』


 リリィはヘカトリリスに無機質な表情を見せる。

 まぁ普段から無機質なのだが。


「呼び出してごめんねリリィ。でも私だけじゃ勝てないから力を貸してくれる?」


『質問。誰と戦うのですか?』


 首を傾げるリリィ。


「リリィにはもしもの際ナターシャの従者の男の相手をして欲しいんだ。私は後ろでサポートするから」


『承認。そして再度質問。従者の男というとあの西洋甲冑の男でしょうか』


「そうだよ。相手取れる?」


『戦闘予測…………エラー発生。生体認識変更。魔力生命体で再演算。……戦闘予測終了。肯定。ヘカトリリスのサポート込みならば当機の兵力の凡そ70%の力で拮抗できると予測します』


「結構きつそうだね。ニュールも連れてきた方が良いかな?」


『否定。ニュールではなく自称メカニックのピエールです。そして彼を連れてきた場合被害が拡大して大事故が発生する事が想定されます』


「なんで?」


『返答。当機とピエールの現在のシンクロ率は10%程です。当機の感情回路暴走からくる兵装の過剰使用により周辺への被害が拡大します』


「なるほどね」


 感情を持つ人形っていうのも考え物だなぁ。

 それを上手く扱うニュールも凄いけどね。


「ま、良いや。実行時間は午後5時から午後6時。それまでは宿舎街と冒険者ギルド途中の路地で待機ね」


『……承認。待機中はスリープモードに移行します。起動には音声認識が必要です。起動コードを録音してください』


 リリィがドレスの右袖を捲り上げると前腕部が開き、折れ曲がったつくしのような黒い棒が伸びてくる。

 ヘカトリリスはそれに向かって話しかける。


「えーっとコードは……“撃退せよバスター”」


『……音声登録終了。当機は規定の位置に移動後、登録者による起動コード詠唱まで、もしくは午後6時を過ぎるまでスリープモードにて待機します』


「うんお願い。じゃあまた後でね」


『承認。規定位置への移動を開始します』


 リリィは路地を出て大通りに抜けていく。

 ヘカトリリスは畳んでいた傘を差し直すとくるりと回す。


「魔力生命体って何なんだろ。魔法でも使えるのかな、あの騎士」


 軽く首を傾げたヘカトリリスはそのまま後ろを向き、考えながら大通りと反対の道へ去っていった。

散々迷った挙句元に戻す男!〇パイダーマッ!


……言い訳します。いやホントルート決まらなかったんです。

今まで誤魔化し誤魔化し進んできたけど、ここからが本題だったのです。

読者さんゆるして。

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