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70 二日目:観光気分で楽しむナターシャ

 姉に遊ぶ事を促されたナターシャ。

 しかし今の気分的にスマホを弄りたくて仕方がないお年頃。

 冒険者ギルドに向かう足取りも重い。


 どっかの物陰で軽くネットサーフィンするだけでも良いんだけどなぁ……天使ちゃんとのLINEもしたい。

 ってか大通りの写真撮って今ここーってしたいんだけど。それでわいきゃあ言い合いたい。

 それに天使ちゃんの近くにクレフォリアちゃんも居るだろうからついでにそっちの様子も教えて欲しい。

 あ、でもそれだと天使ちゃんが俺より先にツーショット撮るって事になるのか……?

 く、くそぉ、羨ましいぞ天使ちゃん……!


 ナターシャは内心で実家にいる天使ちゃんに羨望しつつ、リュックからスマホを取り出して写真を撮りたい欲にも駆られる。

 しかしそれを行える程ブレイブメンではないのでチキンハーツがブロイルされない為に口からため息を吐く。


「はぁ~あ~……」


「……随分と落ち込んでおられますなナターシャ殿」


 後ろにいる斬鬼丸から心配の声を掛けられる。


「……落ち込んでる訳じゃないよ。一握りの勇気があれば良いな、って思っただけ」


 斬鬼丸は十分勇気に満ちていると思うのでありますが……と言うが本人にはその自覚が無い様子。

 そんなこんなの内に冒険者ギルド前に着いたので中に入り、地図を購入する事にする。


 受付にて、斬鬼丸に持ち上げて貰い受付職員に掛け合う。地図は銅貨2枚だった。


「なんでこんなに安いんですか?」


「まぁ王都の東の一区画のみの地図ですから。他は商業区なので用事が無い限りは立ち寄る事もありませんし。それにあんまり高いと駆け出し冒険者さんが買えませんからね」


 成る程?つまり、


「……量産出来る技術が?」


「はは……機密事項です。ナターシャさんは年齢にそぐわずとても聡い人ですね」


 ふむ、黙秘は肯定とみなすがいいか?

 活版技術が育っているのかは分からないけど何かしらの増産手段があると見て間違いないな。

 本が安くなる日も近いかもしれない。


「地図ありがとうございます。感謝します」


 ナターシャは斬鬼丸に降ろして貰い、礼をする。


「どういたしまして。観光楽しんで下さいね」


 受付職員も手を振り、ナターシャに別れを告げる。

 うん、色々すっ飛ばしている気がするがエンシア王国の冒険者ギルドとはいい関係が築けそうである。


 さて? 問題の地図だ。ナターシャは購入した地図を見る。

 今居る冒険者ギルドを中心として、内の城壁から外の城壁の間を扇状に区切って創られた地図のようだ。

 地図を見る限りかなり細かく記されていて、区画毎の売り物が記入されている。

 上の方は食料店や宿屋が多くて、下は武器屋や防具屋が多いのか。教会の近くには広場があるな。

 ふむ、公衆トイレと浴場の位置も書いてある。しっかりした地図だが、贅沢言うなら魔法でナビ機能とかも付けて欲しいね。

 ……創るか? ナビ機能付けて転売すればバカ売れしそうじゃね?


 少し悪い事を考えつつも地図は邪魔にならないよう折り畳んでベルトと服の間に挟む。

 この服ポケットないんですよね。黒ブラウスと茶スカートです。


 ナターシャは思考をスマホから観光へと切り替えて冒険者ギルドから出る。

 まーもう歩き回って遊ぶくらいしかやれる事ないしな。折角だ、楽しんでいこう。


「斬鬼丸ー」


「なんでありましょう」


「何処行く?」


「そうですなぁ……武器屋に行ってみたいであります」


 そう言うよなやっぱ。

 まぁ俺も気になるし行ってみるかぁ。

 ……でもその前にぃ。


「小腹空いたから買い食いしに行っても良い?その後武器屋行こうよ」


「構いませぬ。ご自由に動いて下され」


「さんきゅー」


 まーずーはー、あの食肉街に戻ってスパイシーリベンジだオラァ!

 伊達に歳重ねてねぇって事を知らしめてやるよぉ!



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 辛い……辛いよぉ……

 山椒の和風な辛さでピリピリして舌が痛いよぉ……


 十数分後、串焼きの辛さに敗北したナターシャは水袋からエールをがぶ飲みしている。


「……姉上の警告を聞くべきだったのでは?」


「うるひゃい! しょくよくにはかてにゃいんだい!」


 辛さで舌が真っ赤になっているナターシャは呂律が回っていない声で反論する。

 嘗ての俺ならば喰えた物を食えないというのはとても辛い。何故なら香りで食欲が湧いてしまうのだ。しかし食えない。辛い。

 猫〇っしぐらよりまっしぐらにここに向かったがやはり既に違う肉体だという事を実感させられる。


 しかしまだ負けない。負けは認めない。そうだ人間は痛みに慣れやすいと聞く。

 こうして辛い物を食べ続けていれば何れ舌が慣れてこんなにもスパイスてんこ盛りな肉だって食えるようになる筈なのだ。

 つまりこの辛さは俺に課せられた神からの新たな試練!何れ好きなだけ飲み食い出来るようになる為にもう一本いくぞオラァ――――



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「じゃんきまりゅ……おみゅず……おみずどこでうってるの……」


 ひんひん泣きながら斬鬼丸に手を引かれ進む7歳の少女。その様子はまるで迷子である。


「もう少しでエールを売る店に着くであります。それまで我慢してくだされ」


 地図を片手に道を進む斬鬼丸。

 主の不屈の精神には称賛の声をあげたい物の、無謀であると伝えるべきだったと後悔している。


「着いたであります。失礼」


 石積みの店の中に入ると台代わりの樽の上に蛇口の付いた樽が積まれている。それが店の右壁から奥側に至るまで何セットも。

 店の左手には小さなスペースが作られていて背の高い丸テーブルと椅子が置いてあり、その奥のカウンターには本を読みながらリラックスしている店主の姿が。

 店主は入って来た客に気付き対応する。


「いらっしゃ……な、なんだ? 迷子か?」


 騎士に連れられ、嗚咽を挙げながら涙をぽろぽろ溢すナターシャを見て驚く店主。当然である。


いえ、先ほど食べた串焼きで痺れた舌を治す為に飲み物を探していた所であります」


「あぁ、成程なぁ。肉屋街の串焼きに挑戦したけど辛すぎたって訳か。チャレンジ精神あるなぁそのちっこい嬢ちゃん」


 腕を組み感心する店主。


「拙者もそう思うであります。それで、エールをこの……水筒程の量売ってほしいであります」


「あ、あぁ。金は後で良い。先に飲ませてやるよ」


 店主も同情したのか、受け取った水袋の飲み口を樽の蛇口にあてがってから栓を緩め、中にエールを入れてナターシャに渡してくれる。

 ナターシャはごくごくとエールを飲み、痺れた舌が少しだけマシになったのか涙が止まる。


「ありがとうございます……幾らですか?」


 落ち着いたナターシャが感謝して値段を尋ねる。


「小銀貨1枚で良いよ。ついでに追加しとくか? サービスするよ。」


「お願いします……」


 店主に小銀貨を一枚と水袋を手渡すナターシャ。

 受け取った店主も水袋にエールを追加してナターシャに返す。


「まぁ、あんまり無謀な事はしない方がいいぞ嬢ちゃん。大人になったらいずれ食えるようになるんだから」


「はい、気を付けます……ありがとうございました……」


 店主の忠告をしっかり受け取り、店を後にする。


「……拙者も止めはしなかったでありますが、やはりまだあのような辛い食べ物は早いと思うであります」


 斬鬼丸も流石に苦言を呈する。

 ナターシャもそれを聞き、少し無理を自覚して次のような発言をする。


「……今回は負けを認めておくよ。次は負けない」


「次回以降も負ける未来しか見えないであります……」


 今回はナターシャの完全敗北で終わったが、次回以降はきっと進化しているだろう。

 ナターシャ達は当初の目標通り武器屋を目指して歩く事になる。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 大通りを地図に従って東に渡り、食料品や雑貨店が立ち並ぶエリアの路地の中にポツンと建つ武器屋に向かう。

 こういう隠れ武器屋ってのは良い商品を売ってるのが相場なのだ。俺の感が正しければね。

 それならば斬鬼丸も満足するだろう。


 武器屋に向かう途中、教会のある広場に到着する。

 Yではなくy字路の中央には白い大理石で造られた噴水広場。

 その後ろ、Vの間に控えるのは同じように品のある構えをした教会。

 こんこんと湧く水は噴水の皿から流れ出て広場の四方に開く隙間に流れ込んでいる。


 その場にいる人も啓蒙そうな人間が多い。

 黒いシスターのような服装の人や聖職者らしく白い祭服に身を包んだ男性、更には物珍しいリブ生地のセーターにプリーツスカートを履いて腰に可愛らしい天使の羽を付けたピンク髪の少女が噴水の近くにある大理石の椅子に座って暇そうにしてい……


 ……あれ、なんか見たことあるぞあのピンク髪のダブルお団子ヘアー。

 ピンク髪の少女は暇そうに辺りを見渡していて、ナターシャの姿を確認すると立ち上がり喜んで手を振ってくれる。


「やっほーなっちゃーん! 貴女の傍に這い寄る清純! 天界一位様とは私の事よォー!」


 バァーン!と謎ポーズを取って口上を名乗る熾天使。

 いや、いやいやいや……なんでいるのさ天使ちゃん。

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