68 二日目:麦粥と道草商会
今度はオートミール……どうやらロールドオーツの事らしい。それを購入する為各店を見回っている。
……が、どの店も大体同じ値段なので違いが分からない。大体1㎏で銀貨4枚程。
強いて言うなら小銀貨1枚程度の差しかない。何処で買えばいいんだよオートミール……
ナターシャは困り果ててガレットに尋ねる。
「ガレットさん、オートミールってどんな店で買えば良いの?」
「何処でも良いですよ。私が歩いている方向は商会のある方ですから。店を眺めているのは貴女の感性を高める為です」
見定めているのは店じゃなくて俺だったんかい。
先に言ってくださる? そういう大事なこと。
「ここで買わなかった場合は?」
「商会でも買えます。ここで買わないという選択肢もありですね」
「……じゃあ商会で」
「いいえ、オートミールはここで見極めて買いなさい。あくまでも商会で買うという選択肢もあると言っただけです」
そんな事言われてもなぁ……店先の麻袋に入ったオートミールに顔を近付け、臭いを嗅いだりして確かめるも特に怪しい臭いとかしないので判断が出来ない。
試食も出来ないし、ホントに値段だけで判断しろと?無茶言いなさる……
ガレットさんと姉は今回あくまでも見る事に徹するようだ。
……仕方ない、ここは良し悪しの分かる人に聞くしかないな。俺だけじゃ埒が明かない。
店先に居る店主に話しかけるナターシャ。
「すみません店主さん」
「ん? なんだいお嬢ちゃん」
話しかけられた店主がナターシャに対応する。
「オートミールってどんなのが美味しいんですか?」
「ロールドオーツの事か? そりゃあ、お嬢ちゃんの趣向によって変わるなぁ」
「趣向?」
「あぁ。味は基本的に大差ねぇ。ただ粥にした時の食感が店によって違う。因みにこの店の食感は少しぷちぷちとした感じだ。買うか?」
「……ちょっと相談してきます」
ナターシャは二人の元に戻り質問する。
「オートミールの食感の違いを見極める方法ってあるの?」
「そうですね……粒の厚さでしょうか。厚ければカラス麦の食感の残る粥、薄ければトロトロとした食感の粥が出来ます。好きな方を選びなさい」
ガレットさんが問いに答える。
正直どっちでも良い……でも個人的に残ってる方が好きかも。
なら今の店で良いかな。
「じゃあ、2日3食4人分は何グラムですか?」
「一食70g前後として、1680gですね。キリを良くする為に1.7kg買いなさい」
「分かりました」
ガレットさんに量を聞いて先ほどの店に戻る。
「店主さん、オートミール1.7kg下さい。……あ、騎士団の使いです。商品は会計の後、男性用宿舎、6号の201号室に届けて下さい」
「あいよ。金額は……銀貨6枚……小銀貨3枚……銅貨20枚だな。ちょっと待て……よし、この羊皮紙にサインしてくれるか?」
そして先ほどの店と同じように品物、量、日付が書かれた羊皮紙が出される。
品物と量が合っている事を確認してからサインをする。
「確かに。じゃあ会計だ」
店主がナターシャのサインを確認すると会計に移行する。
ナターシャが銀貨7枚を支払うと店主から銅貨80枚が返ってくる。合ってるか数えるのめんどい。
銅貨を入れる為の革袋を追加で買い、そこに銅貨を入れてリュックを使いアイテムボックスにしまう。
「また来てくれよ。」
その言葉を受けて店主にペコリと礼を返す。
買い物が終わったナターシャは少し駆け足でガレット達の元に戻る。
「良く出来ましたナターシャ。買い物方法は覚えましたか?」
いやまぁ、見た目7歳の少女だからそう言われるだろうね。
中身大人なんて誰も思わない訳だし。
「基本は分かりました。騎士団の使いじゃない場合の買い物方法はどうすれば?」
「……王都でもしも騙されたなら、湧き上がる怒りは一度収め、守衛所に連絡したのち警備兵を連れて店に向かうのが正しい方法です。そしてですが、地方の村では多少ぼったくられるのは覚悟しなさい。それでも高すぎる場合は妥協点を見つけるのが一番です。とんでもない物を掴まされた場合はその村を治める領主に連絡するしかないですが、裁判が行われるかはその領主次第ですね」
基本は変わらんって事なんだろうな。
あと地方の村での買い物はどうしようも無いと。
法律とかはあるだろうけどまぁやはり中世である。現代と違って生々しい。
「さぁ、最後のレッスンです。商会での買い方を覚えましょう」
そう言い終わるとガレットさんは再び歩き始める。
どうやらもう店を見る気は無いらしく真っ直ぐ進んでいく。ナターシャ達もその後ろに続く。
……俺今思ったんだけど、商会でも似たような買い方なんじゃないんですか?
買い方の勉強する必要あるの?
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「いらっしゃいませ!旅の事なら何でもお任せ、ウィード商会へようこそ!」
入店者に掛けられる元気な職員の声にちょっとワクワクするナターシャ。
現在、糧食街を中程まで進んだ所で見えた煉瓦製の建物の中に居る。
外装は両開きの木製のドア。その左右に大きな田の字のガラス窓が付いている構造。
2階建てで、上の階もガラス窓が3つ付いている。
内装はシックな木製の床と壁、壁際には薄い色の長椅子が2つ。
そして店の中央には横一直線に貫かんばかりの長いカウンター。窓口が複数あるが、冒険者ギルドほど高いカウンターじゃないので俺でも頭一つ分くらいは出る。早くこいこい成長期。
窓口の奥にはいくつかデスクが存在し、そこに座る人が表から流れてくる書類の処理を行っている。頑張れ事務員さん。
店内の客も商人風の装いの人が多い。奥の方の窓口では職員と取引話を行っていたりもする。
ガレットさんは迷わず窓口まで進み職員に話しかける。
「騎士団の使いの者です。旅の食料を買いに来ました。一覧はありますか」
「はい。主要な物はコチラになります」
職員は品物一覧が書かれた羊皮紙を提出する。
分類は大まかに5つ。主食・栄養食・乾物・飲料水・嗜好品。
主食はコンプリートしているのでこれから買うのはそれ以外という事になる。
「では栄養食ですね。イチジクとレーズンのドライフルーツを各100g程、ザワークラウト300g入り1瓶」
「乾物は燻製肉を2㎏。飲料水は生姜入りの水樽10Lとエール樽30L二つ」
ガレットさんによりサクサクと進む買い付け。
窓口の職員が言われた品物を記述していく。
「嗜好品として15㎝のホールチーズ1つ。他には……ナターシャ、何か欲しい物はありますか?」
ガレットさんに尋ねられてナターシャは羊皮紙の嗜好品の欄を見る。
主な物は果物の砂糖漬け、蜂蜜漬けが多い。純粋に砂糖だけで作った飴も売っているが何故か値段が高い。
ここの選択は結構重要だよな。個人的には昨日のクッキーが忘れられないけど、あれ絶対高いから買えないと思う。かといって妥協したくも無い。
なので安定して美味しいと知っている食べ物を発言する。
「……リンゴの蜂蜜漬けが食べたい」
やっぱこれだね。リンゴと蜂蜜の甘さで二倍、更にそれを漬け込む事で二倍、最後になんやかんやで三倍で光の矢になって〇ノンド〇フを封印するのだ。
それに〇ーモンドカレーとかに入ってるくらいだから絶対美味しいだろ。
「分かりました。リンゴの蜂蜜漬けを200gお願いします。以上を……この番地まで届けて下さい」
ガレットさんは窓口に置いてあるメモに羽ペンで宿舎の番地を記入し差し出す。
職員もそれを受け取り、品物を書いた羊皮紙にサインを要求する。サインからはガレットさんではなく俺の仕事らしい。
サイン記入後、会計を行う。金貨13枚、銀貨13枚、小銀貨2枚。中々の金額だ。
中でも一番高かったのが俺の蜂蜜漬けだった事は言うまでも無いだろう。金貨6枚だってよ。
ナターシャはリュックから金貨袋を取り出し、金貨14枚を提出。お釣りとして銀貨6枚と小銀貨2枚返ってきて買い物が終わる。
「……と、このような形で売買を行います。買い込む量が多いときは商会を利用するのが一番です。扱っている商品一覧は必ず存在するのでそれを見て買い付けを行うように」
「はーい」
子供らしく返事を返して場を和ませ、ようやく実地研修も終了する。
今の俺の見た目からして、こういう初歩的な勉強になるのは仕方ない事なんだろうなぁ。




