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63 一日目:ギルドマスターとの会話中だけどくっきーおいしいです

 うんめぇコレ。

 メイドさんにより用意されたクッキーをぼりぼりと頬張るナターシャ。

 頭の上では楽しそうに毛が跳ね、感情を表しているようだ。

 純粋に甘くてクリーミーで程よいサクサク感を持つクッキーでありながら、この美味さは何なんだ!?


「フフ、喜んでくれたようで何よりだよ」


 フランシスも孫娘を見るような感じでナターシャを見ている。

 そして本題を切り出す為に質問を始める。


「……さて、どうかなナターシャくん。気持ちは和らいだかい?」


 クッキーを食べながら頷くナターシャ。

 手を止めないのは行儀が悪いと思うがこの甘さが癖になって止められねぇ!

 フランシスはニッコリ笑うと手を組み、トンと膝の上に置いて話を切り出す。


「……私も報告は聞いている。君が何もない空間からブロックボアーの亡骸を出した事を。それは、召喚魔法なのかい?」


 ナターシャは少し考えたのち首を振って否定する。


「……ふむ、では魔物は君が討伐した物なのかい?」


 ナターシャはクッキーをまた一つ食べながら頷く。


「そうか。では単刀直入に聞こう。君はあの量の魔物を自由に持ち運べる魔法を持っているね?」


 その言葉を聞いて飲み込みかけたクッキーが気道に入りむせる。

 そして何故分かったんだという視線をフランシスにぶつける。俺まだ何も話してないぞ!?


「……何故分かったんだ、という顔だね。なぁに、私も昔はそれなりに頭の切れる人間として通っていたからこの程度予測するのは造作も無いのさ。……まぁ、種明かしをすると君の魔法の詠唱を職員が完全記憶していたお陰なんだがね。そこから推論したまでさ」


 楽しそうに笑うアラフィフのギルドマスター。

 解説でもしてあげようと言って話し始める。


「……まず、万物に影響されぬ秘匿されし宝物庫、だが、まずそんな物は現実に存在し得ないという事は明らかだ。森羅万象全ての物は時間と言う檻に囚われ、生者必衰、栄枯盛衰の理により老化し、腐敗する。それらを弾くというのだから、まずこの世では無い何処かに繋がってると予測できる。それこそ天界や、更に言うなら別の理を持つ世界か。そして宝物庫、という単語から連想できるのは収納庫、倉庫。更に秘匿されているという事から普段は見えないという事が分かる。逆に言えば、詠唱者本人はそれを認識している事から自由に接触できる方法があるという事も分かる。その理論からすると、やはり自在に物を入れて持ち運べる便利な物だという事が推測出来る。……君の使った魔法、別の詠唱もあるんじゃないか?」


 フランシスの言葉に驚き、クッキーを取りこぼすナターシャ。

 この爺さん何者だよ。前半の詠唱だけでそこまで辿り着くとかバケモンだろ。

 多次元解釈をこの時代に出来るとかあり得ねぇ。


「……良く分かりましたね。正解です」


 その為、少し赤城恵成分を出しながら話す。

 多分この人にはこれくらいが丁度良いと思う。


「それで、ご用件は何ですか?」


 少女らしさは残るものの少し大人びた声質の話し方になり、老人もこの少女にはやはり何かがあると悟る。

 老人は少しだけ楽しそうな顔をすると呟く。


「……ふむ、思っていたより聡い子のようだ。とても7歳とは思えない」


 まぁ中身26歳ですしね。

 追加で7歳くらいは生きてるけど精神構造に変化はあんまりないです。

 未だハーレム目指して生きる程度の思考回路です。


「じゃあ早速本題なのだが……君の知っているその魔法、我々に教えて欲しい」


 フランシスは直球で聞いてくる。

 その言葉を聞き、どうやらどう編み出したかなどは聞くつもりは無いと理解する。

 良かった。チートの説明しなくて済むなら楽だ……しかしだ。

 ここで、はい教えます、と教えるような人間じゃつまらなさすぎる。

 ちょっと駆け引きっぽい発言をしていこう。


「……何故知っているか、などは気にならないのですか?」


「勿論気にはなる。しかし、君の左手にある紋章を見て凡その予想は付いた。……天啓を得たんだね?」


 ナターシャは思い出したように左手の甲を見る。

 そこには未だ家で酔いつぶれているだろう熾天使の赤い紋章が付いている。

 ……目の前のギルドマスターはこの紋章が何なのか知っているらしい。

 なんか勝手に悟ってくれて有難い。思考しなくて済むって楽だ。

 手の甲を見ながら目を少し細め、微笑みながら話す。


「……えぇ。神の祝福により魔法を授かりました。しかし、この魔法には一つ難点があります」


「難点? ……と言うと」


「私はこの紋章の通り加護を得ているので使用出来ますが、一般人では魔力が足りず利用出来ない可能性が高い。教えても利用出来るかは分かりませんよ?」


 ギルドマスターは少し考えると頬を歪め、それを隠す為に一度口元を手で覆い、直ってから何事も無かったかのように話しを始める。


「……それなら問題はないよ。この世には高レベルで魔力消費の多い魔法を運用にする為にスキル化する、という手段がある。魔法より性能はかなり落ちるが、誰でも使用出来るようになるのさ」


 成程、そういう手段もあるんだな。

 スキル本とかそういうのを創るんだろうか。

 原理は分からないけど凄い事だと思うよ?


「一つ聞きたいんですが、仮に私の魔法の収容数を百とした場合、スキルはどれ程の性能になるのですか?」


 ナターシャの問いかけにフランシスは考えながら答える。


「……そうだね。スキル化した場合、最初は十程だが最終的には五十程度には使用出来るようになる。魔力消費もそれに比例して上がるが、スキルを使用していればMPも次第に上がる。それにスキル化すれば状況に応じて強弱も付ける事が可能になる。魔法よりも使い勝手が良いのだよ」


「成程。しかし魔法と違い性能を完全に発揮できないというデメリットも抱えているのですね」


「そういう事になるね。……だが、君の魔法は多分神域の魔法と言われている最高位に近い魔法だと予測出来る。例え一割だけでも我々にとっては十分過ぎる程のスキルになるんだ」


 そう言って老人はどうかね?と一言話す。言わなくても分かるだろう、という意味らしい。

 確かに、俺の収納魔法をスキル化すれば万人に使えるスキルとなり、世界の物流なんかが超活性化する未来しか見えない。

 魔物の素材売買を生業とする冒険者ギルドにとっては魔物の収容、運搬、保管と何にでも使える、喉から手が出るほどに欲しい魔法だと理解出来る。

 しかし、なぁ……。教えて良いのかなぁ……。

 所詮一般人な赤城恵ナターシャには未来を背負う事なんで出来ないので腕を組んで唸る。


 ……いやね? ここで魔法を教えてしまえば将来絶対助かると思うんだ。

 ギルドとの繋がりも出来るし。俺もスキルとして覚えれば一々魔法を唱えなくても済むだろうし。

 たださぁ……、そんな急速に世界発展させちゃって良いのかなぁ……って。

 何れ技術革新とか文明開化とか訪れるのは社会の常だけどぉ、俺がそれ担える程ブレイブハートしてないっていうか……

 エンシア王国も更に盤石になるだろうね? 冒険者ギルドが発展するって事はさ。

 お父さんも俺の功績だって分かれば喜ぶだろうし、運が良ければ爵位も上がるかもしれない。

 メリットしか今のところ思い付かないけど、もし、もしも収納魔法のおかげで起こった技術革新が原因で戦争とか起こったら洒落にならないんだよなぁ……。

 うーん…………仕方ない、ここはあの手を使おう。


 考えても答えは出ないので、そしてギルドマスターの真意を問う為、ある質問をする。


「……フランシスさん、聞きたい事があります」


「なんだいナターシャくん」


「……貴方は、この魔法を正しい道に使えると誓えますか?」

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