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62 一日目:チートは程々に。

 ギルドの横にある建物の中は壁から床に至るまで規格を統一した石材と鋼鉄製の柱で隙間なく造られ、天井に至ってはコンクリートで出来ている。

 入口は馬車2台並んで入れる程とても広くて高く、内部は馬車が3台収納できる程の広さだ。

 天井には魔物を吊り下げて運ぶ為、2本の平行に設置された金属のレールに、レールに沿って移動する滑車が付いている。かぎ爪付きだ。

 建物の右の壁にはもう一つ出口があり、終わった馬車や荷車はそこから出ていくらしい。

 中を覗いてみると大きな倉庫になっていて、荷馬車や荷車が何十台も設置されている。

 視界の左、倉庫の奥には出口とカウンターがある事から貸し出しも行っているのだろう。


 分かりやすくする為にギルド横の建物の方を魔物回収場と名付けるが、魔物回収場の奥には4畳程はあろうかという広くて低いクリスタルで出来た台座がある。

 どうやら魔道具の一種らしく、先ほど俺を弄んだ冒険者の獲物が乗せられると兄の鑑定スキルと同じような青い光の波長を放つ。

 台座の左側にはデスクがあり、眼鏡を掛けた職員が書類の作製を行っている。

 デスクには台座と同じ素材で出来た長方形の物体が置かれている。


 そして台座の奥には天井に付く金属のレールが地続きになっている入口があり、奥が見えないよう革で出来たカーテンが施されている。多分解体場だろう。


「お、さっきの嬢ちゃんか」


 数人の魔物解体師らしき人間が台座にビックチキンを乗せているのを、傍から見ていた冒険者の男がコチラに気付く。


「台座に乗せるとなんだか小さく見えるね」


 ナターシャは少し仕返しを込めて煽る。

 男性も少し驚いた顔をするがすぐにニッコリと笑うと言い返してくる。


「バッカ野郎。銀貨20枚あれば一週間は宿に泊まりながら平和に暮らせるんだぞ。しかも冬場で。その素晴らしさが分からないのか?」


「分からないよ。7歳だもん」


少しクソガキ感を出すナターシャの言葉を聞いて驚く男性。


「7歳? スキル覚えたてのペーペーじゃないか。魔物を捕獲出来たのは後ろの騎士のおかげか?」


「教えてあげなーい」


 ナターシャがそっぽを向くと男性は顔に手を当て、最近の貴族の子供はこんなんバッカなのか……?と嘆く。

 そこに職員の声が入る。


「ディビスさん、鑑定が終わりました。相変わらずいい仕事ですね」


「まぁな。それでいくらだ?」


 冒険者の男は職員の座る机に近付きそのまま会話を始める。

 どうやら男性の名前はディビスと言うらしい。


 ナターシャがぼんやり待っているとディビスは少し嬉しそうにして黄色い紙を受け取る。

 買い取り金額が良かったようだ。


「良かったねディビスおじさん」


 名前を聞いたナターシャが煽りを込めて祝福する。

 ディビスは眉を顰めて怒るような表情を見せながら注意する。


「そのおじさんって付けるのをやめろ。俺じゃなかったらぶん殴られてるぞ」


「人は選んでるから大丈夫」


「余計にタチ悪いじゃねぇか……まぁ良い。そんじゃあ俺の獲物を見せた代金として、お嬢ちゃんの獲物を見せて貰おうか?」


 どうやらディビスはこのまま居座るようだ。腕を組んでコチラを見ている。

 ナターシャは職員に呼ばれて机の近くまで移動する。

 そして冒険者カードの提示を求められる。


「……はい、確認しました。ナターシャ様ですね。受付は終了していますので今回は魔物の鑑定と預かりのみとなります。解体後の肉・素材を売却するかどうか、魔物の討伐報酬などは明日ギルド受付にて行って下さい」


「分かりました」


 何点かの注意を受けた後、ナターシャは魔物の提示を求められる。その為台座の近くに移動する。

 ナターシャはある理由で今、少しだけ気分が乗っているので収納魔法の詠唱を唱えて出すことにする。

 さて? そこで薄ら笑いを浮かべながら俺を見ているディビス。お前の度肝を抜いてやるよオラァ!


「“万物に影響されぬ秘匿されし宝物庫。土の属性を持ち、獰猛に猛進せん大猪。拾の頭数を揃えて我が前の台座上に現出させよ”!」


 ナターシャが魔法を唱えると台座の上の空間が歪み、丸くて黒い異空間を作り出す。

 バチバチと蒼電を走らせる異空間は台座と天井のレールギリギリまで大きくなるとひび割れ、砕け散ると共にナターシャが呼び出したブロックボアー10頭分の亡骸が姿を現す。

 宙に浮いている亡骸がゆっくりと地面に落ち、ズン……と沈み込むような音を立てる。


「……これが私の獲物。ちょっとは見直した?」


 そう言いながらドヤ顔で後ろを振り向くとディビスは腕を組んだまま真顔で固まっていた。

 職員も眼鏡を震える手で外し、突然現れた魔物を見間違いかどうか確認している。


 ナターシャはディビスの様子を見て満足する。

 ふふ、どうやら驚いて声も出ないらしい。

 ちょーっとばかし精神にダメージを負ったけどもぎゃふんと言わせられた気分だ。


 腰に手を当て、ディビスに向かって偉そうに佇むナターシャに近付く影。


「……あの、ナターシャ様。」


「……なんです?」


 ドヤ顔で微笑むナターシャは後ろを向き、その光景を見て顔が引き攣る。


「……少々お時間を頂いても宜しいですか?」


 背後には途轍とてつもない笑顔を浮かべたギルド職員の後ろに、解体師の男性陣が滅茶苦茶期待を込めた目をして並んでいた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ……どうしてこうなった。

 現在ナターシャは冒険者ギルド、その二階にある応接間にて接待を受けている。


 シックな木目調の部屋には本の詰まった本棚、壁にはモンスターの角や武器が飾られていて、セットされている家具なんかも漆塗りの高級そうな家具ばかり。

 しかもどういう訳か天井から釣り下がるシャンデリアにはロウソクではなく光る石がセットされていて、少しオレンジ帯びた光が部屋の高級感を増している。


 黒革で出来た少し固めのソファーに座るナターシャに、ギルドマスターが来るまで少々お待ち下さい、とメイド服を着た女性が出してくれたのはホットワイン。

 少しスパイスを効かせた風味が変わった良さを出している。

 斬鬼丸にも同じ物を出してくれたが、精霊なので飲食出来ない旨を伝えると口元を抑えて驚いていた。

 しかしここに呼ばれた理由についてとても納得してくれたらしく、代わりに鎧を拭く為の布を渡してくれた。

 その後斬鬼丸は暇つぶしに鎧の表面に付いた埃を布を使って拭いている。


 因みにホットワインを飲み、落ち着いている雰囲気を出してはいるが内心激緊張している赤城恵ナターシャ7歳。

 手に持つティーカップと受け皿をぷるぷると震えさせながら、ギルドマスターとやらに何を言われるか想定を行っているが全然脳が働いてくれない。


 今回ここに呼ばれた要因はまず間違いなく収納魔法を使った事。

 しかしそれ以上の想定が出来ない。取り合えずスマホに繋がらない事だけは分かるから後は魔法創造と魔力無限なんだけどどう言い繕えば良いんだ……!?

 心を落ち着かせる為にとホットワインを一気に飲み、その際飲み会での一気飲みトラウマがフラッシュバックしてむせてゲッホゲホと咳をしている所で応接間の扉が開く。


「失礼するよ。……大丈夫かな?」


 部屋に入って来たのは皺の濃くなってきた顔に口髭も頭髪も白髪の男性。

 しかし堀の深い顔が昔イケメンだったという事実をナターシャに突きつける。

 服装も何処か品のいい感じで貴族のよう。胸元に見えるひらひらがなんというかカッコイイ。

 咳をしているナターシャが大丈夫だという風に手を挙げて口元を拭っていると、男性はハンカチを差し出してくれる。

 ナターシャはそれを使って手を拭って感謝しながら返すと男性は腰ポケットに収納する。

 そしてナターシャの向かい側、腰の低いテーブルを挟んで反対側のソファに座ると老齢な声で尋ね始める。


「えぇと、確か名前はユリスタシア・ナターシャ。エンシア王国国家騎士団、その副団長の娘さんという認識で良いかな?」


 咳が止まったナターシャが頷く。

 そして尋ねる。


「貴方がギルドマスターですか?」


 目の前の男性は頷き、自己紹介を始める。


「そうとも。私の名前はベリーディ・フェスティ・フランシス。エンシア王国直轄冒険者ギルドのギルドマスター兼、全ギルド統括を行う冒険者ギルド委員会の委員長。……とまぁ、堅苦しい肩書を持ってはいるが半分引退気味の老人に過ぎないよ。委員長と言っても採決する為の投票を見ているだけの係だからね」


 フフフ、と自虐気味に笑うフランシス。

 ナターシャはその肩書を聞いてなんかやべー事になっていると尚更緊張する。

 えっ、何? 俺地方のギルドマスターとの出会いぶっ飛ばしていきなりギルドマスター達のトップの人と会談しちゃってるの?

 手に汗が滲み、膝の上で握りしめて身体がカチコチになる。

 フランシスはナターシャの緊張した様子を見て、相手がまだ7歳だという事実を重く受け止める。


「……軽いジョークのつもりだったんだが流石に通用しなかったか。逆に緊張させてしまったね……ウェンディ」


 フランシスの声を聞いて外に居るメイドさんが中に入ってくる。先ほどホットワインを出してくれた人だ。


「なんでしょうかフランシス様」


「ナターシャくんが喜ぶようなお菓子を用意してくれ。緊張が解れるよう、とびっきり甘い物をね」


「畏まりました」


 失礼しますと言ってメイドさんは部屋を後にする。

 フランシスは手を組み、膝の上に置いて到着までの間適当な話で時間を潰すことにする。


「……ふむ。まぁ色々と雑多な話は後回しにしよう。その間の暇つぶしだが、冒険者ギルドであった事件なんかはどうかな? 大体が酒に酔って喧嘩した、なんてしょうもない物だが、ドラゴンの卵を持ち帰ったなんて話もある。そういうのに興味はあるかい?」


 ナターシャは緊張こそ解けないが、その数々の事件に好奇心が生まれてきたのでフランシスの話を聞く事にする。

 斬鬼丸は未だ呑気に鎧を拭いている。……俺もそれくらい図太い精神が欲しい。

なんか大変なことになりました。想定外です。

でも書くしかないのでこのまま書いていきます。

まぁ何とかなるっしょ!(浅い思考)

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