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61 一日目:ななさいのちのう

 ハハハ、ようやく自由な時間を手に入れた。


 と軽いピクニック気分で夜の宿舎街を歩く、少女というより幼女寄りな見た目の銀髪蒼眼で服の上からマントを羽織った赤城恵ナターシャ7歳。

 現在、冒険者ギルドに向かっている。


 理由は簡単。アイテムボックス内に未だ残るブロックボアーの処理。

 まだアイテムボックスの中に大体40頭くらい残ってるんだよな。

 それを取り合えず10頭程ギルドに提出して、あわよくば旅の食糧にしてしまおうという作戦。

 そうすれば食費が浮く分路銀が増える。ついでにお小遣いも増える。とてもハッピーな作戦ストラテジーだ。

 もし解体するのに時間が掛かるようなら提出する量を減らして最終日に間に合うよう調整するまでよ。


 豚一頭丸ごとで7人家族3か月分の食肉が賄えるって動画で見たし、全長2mは下らないブロックボアーなら食用可の部分が肉だけだとしても3頭あれば一週間5人分程度は余裕だろう。

 いや、上手くやりくりすれば1頭でもいけるかもしれない。うん完璧だな。


 まぁ運が良ければっていう気持ちで向かってるけど、やってなかったらやってなかったで普通に観光して帰るだけだ。次の日姉と共に冒険者ギルドに向かって解体を依頼すればいい。


 城門に辿り着き、守衛に入場証を見せて外の街へ出ていく。

 いくら上京したての田舎者でも大通りへの道程度は分かります。


 街は昼頃の中世ヨーロッパな街並みに未確認飛行物体な魔道具が数多漂っている事により、ファンタジーというよりSFじみた光景になっていた。キャトられそう。でも見ごたえはあるね。

 しかし宮廷魔術師はなんでUFOなんぞ量産しているんだろうか。

 光って宙に浮いて磁力を発生させる魔法で何を作ろうとしているんだろう。

 何かの物体の再現なのか? 分からん。


 大通りの歩道にはナターシャと同じように魔道具を眺める旅行客っぽい人や冒険者が見える。

 その中には昼間見たサムライの姿も。立ち振る舞いだけでも相変わらず渋い。


 ナターシャは昼頃の記憶に従って冒険者ギルドへ向かう。

 城門から真っ直ぐ歩いていった場所にあるし、入口の上部に大きな看板が掛けられているので良く目立つ。

 どうやら魔物の受け取りはまだ行っているようだ。魔物を乗せた荷車が1台道路で待機している。

 ナターシャは急いで最後尾に並び、目の前の荷車に座る男性冒険者と顔を合わせる事になる。

 服の上の装備は金属製のブレストプレートに両肘から手首、両膝から脛にも同じ金属のサポーター。

 茶髪でロングヘア―、髪は若干くせ毛気味で口ひげと顎鬚がダンディな男性だ。年齢は30代程か。

 腰に帯剣している鞘やレザーウエストポーチには使い込まれた跡が見える。


「どうしたんだいお嬢ちゃん、こんな時間に出歩いてるって事は家出か?」


 ナターシャを見た男性冒険者から当然の言葉を掛けられる。

 冒険者との始めての会話なので緊張した面持ちのナターシャ。

 しかし強気に出てこそ冒険者の仲間入りなのでハキハキと答えていく。


「ううん。魔物の買い取り」


 ナターシャが正直に話すと、男性はハッハッハと大声で笑う。

 そして十分笑うとナターシャに冗談混じりの声で話し始める。


「家ネズミでも退治してきたのか? 冒険者ギルドじゃそんなもん買い取りしてないぜ?」


 その言葉にナターシャは少し眉をひそめる。


「ちゃんとした魔物だもん」


「だとしたらスライムか?」


「スライムじゃない」


 食い下がるナターシャの様子を楽しみながら男性は少し考え、一つ結論付ける。

 人差し指を立て、それをナターシャに向けて話す。


「……分かった、ホーンラビットの角を売りに来たな。何処かで拾ったんだろ」


「違うもん」


「なんだと、違うのか? んー、他に気軽に持ち運べる物は……」


 男性は真面目に思考し始める。

 どうやらナターシャは男性の暇つぶし相手に扱われているようだ。


「……アコローンの木の実」


「違う」


「マルシェルームを捕獲」


「違う」


「……まさかストロリザードの尻尾? レアものだぞ?」


「ちがーう!」


 ナターシャは少々ムキになって否定する。

 なんか遊ばれてるようでムカつく。

 そんな膨れっ面の少女を見てまた笑いだす男性。

 更に頬が膨れるナターシャは逆に聞き返す事にする。


「おじさんは何を狩ってきたの」


「俺のか。見たいか?」


「うん」


「銀貨一枚で見せてやる」


「なんでさ!」


「大事な情報をタダで教える訳がないだろう」


 その言葉にピン、と気が付き、キメ顔をして答えるナターシャ。


「……分かった、つまりレアな魔物って事?」


 ナターシャの指摘にしまった、という表情をする男性。

 そのままあークソ、まさか子供に感づかれるとはなぁ……!どうやって隠そう……とブツブツ呟いている。


「……隙あり!」


 そんな隙を狙ってナターシャは荷車に乗る魔物を見る。

 掛けてある覆いを捲り上げ、その秘密を白日の下に……


「……鳥?」


 荷車に乗っていたのは人間大のニワトリ。コケッコー。

 既に息は無く、しっかり血抜きされているようだ。

 そして男性が再び笑い始める。

 引っかかったことに気付いたナターシャはまた頬を膨らませて、


「騙したー!」


 とおこな表情で男性に詰め寄る。

 男性も笑いながら魔物の正体を教えてくれる。


「ハッハッハ、コイツはビックチキン。木の上に住む超でかいニワトリだ。残念だったな」


「全然レアじゃないじゃん! ニワトリじゃん!」


 ナターシャの怒りの発言に男性も否定の言葉を返す。


「おいおいそんな事ないぜ? コイツ等はその名前の通り臆病でな。狩るのが結構大変なんだ。その分報酬が高いんだよ」


 その発言を聞いて少しだけ落ち着いたナターシャが質問する。


「……どれくらい? 草原に住んでる牛さんと同じくらい?」


「いや、それよりもかなり高い。コイツ一体を丸々無傷で仕留めて大体銀貨20枚。冬場はもう少し値上がりするかな。冬の貴重な金策手段だ」


「……これくらい私にも狩れるもんっ」


 意固地になって張り合うナターシャ。

 男性は長年の経験則から正直に話しておく。


「残念だがお嬢ちゃんにコイツは狩れないね。危機感知能力の高いコイツを狩るにはコツが要るからな。それに、騎士団直轄外の森は道が分かりづらい。安易に踏み込めば迷子になってお陀仏だ。やめときな」


「むぅ……」


 ナターシャは真っ当な意見を受けてぐうの音も出なくなる。

 そこで建物から次の方を呼ぶ声がする。男性の番のようだ。


「おっと、俺の番が来たらしい。暇つぶしに付き合ってくれてありがとよ」


 男性は荷車を引いてギルド横の建物の中へ入っていく。性格も言動も随分と冒険者らしい人だった。

 ただ俺を弄んだ事はちょっとだけ許さん。根に持っとく。


 残されたナターシャはその場で斬鬼丸と共に順番を待つ。

 歩道に腰かけて空に浮かぶ魔道具を数えて暇を潰していると受付終了でーすという声が聞こえる。

 ナターシャは驚いて立ち上がり、建物の前に居るギルド職員に駆け寄る。

 ちょ、ちょっと待って! 俺! 俺ガイルから!


「すみません! 私もお願いします!」


 職員の男性は建物の施錠を止めてナターシャに応対する。


「あぁ、お待ちの方だったんですね。ですがすいません、今日はもう締め切りなんですよ。魔物や素材の受け取りは致しますので、雑多な処理は明日という事で宜しいですか?」


 その言葉を聞いてナターシャは安心する。

 喜んではい!と答え、建物の中に入っていく。

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