表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/263

56 一日目:いせかいのことば

 天空の魔法陣から姿を現したのはドレスのような白銀の鎧を身に纏った戦乙女。

 聞き取れない言葉で謡いながら、全長1㎞もあろうかという女性が王都の空に降臨する。


 ……あれ、やりすぎたかな。


 今更そう思うのは術者本人であるユリスタシア・ナターシャ。

 魔力の使い過ぎなのか若干ぼーっとする頭でぼんやりと頭上を眺める。

 戦乙女は上空から王都内の全人類に語りかけるように唄う。


『……Aim cellonfis yu sellon wthelon?(私を呼び起こしたのは誰ですか?)』


『……Aim wet so hofenis se?(私に何を望むのでしょうか?)』


 そのまま同じ言葉で繰り返し何かを問い掛ける戦乙女。

 綺麗な声で歌ってるけどやべぇ何言ってるか分かんねぇ。ガチモンの異世界言語だよアレ。

 ナターシャ、ユーリカ、斬鬼丸は呆然と空を眺めているなか、ケーシーはあの言葉は……と言いながら手で口元を抑えて驚いている。

 そしてユーリカもハッと意識を取り戻し、ナターシャに命令する。


「ちょ、ちょっとナターシャ! あんな大きな精霊出してどうするのよ! 早く消しなさい! 早く!」


「えぇっ!? ちょ、ちょっと待って……」


 ナターシャ達が消す魔法を考え始めるのを他所に一歩前にでる少女が。ケーシーだ。


「け、ケーシー? どうしたの?」


 ユーリカの心配そうな声を聞くと振り向いて微笑む。

 そして再び前を向き、一人戦乙女に合わせるように謡い始める。


『Aim litellg wis fef, yh. clossiria wis fef. (はい、私が少女にそう願いました。光の精霊を見せて欲しいと願いました。)』


『en Aim hopeni aiwerthan fefny is sse.(どうか私の想いに答えてくれませんか。)』


 ……なんで喋れんのケーシーさん。というか意味分かってるの? すげぇ。

 戦乙女もその言葉に反応し、返答する。


『his hopenicca……assiey.(貴女の想いは……そうなのですね。)』


 戦乙女は謳う事を止め、普通に話し始める。


『his miellg abilissami herinh. apir ri tradnef, th abilissami hon Furaasika. (貴女は私の娘の力を受け継いでいます。見た目こそ伝承と違いますが、その力は間違いなく光の巫女の物です。)』


『herinher. nef,min ne miellg. Ririfth doonoer leitadvens.(受け継ぎし者よ、いえ、我が新たなる娘よ。安心して暗闇に迷いし者を導きなさい。)』


 その言葉を聞き、ケーシーは涙を流して一言だけ告げる。


『assennya……!(ありがとうございます……!)』


 何やら感動的な話し合いが行われたっぽいけど何言っているか分からんからどうしようもねぇぞ?

 とりあえずケーシーにもう消して良いか許可を取り(号泣しながら頷いたのでOKだと認識)、呼び出しておいて申し訳ないのだが光の精霊さんには元の場所へご帰還いただく。

 グッバイ光の精霊。


「“古の伝承に残る光の巫女と神聖なる精霊を導きし大いなる母よ、その御身の神姿を隠し、蒼穹の果てにて我らを見守り給え”」


 ナターシャの言葉と共に戦乙女の足元に大きな魔法陣が発生。下から飲み込み消滅させていく。

 戦乙女が消える直前、ケーシーに向かって微笑んだような気がした。


 そして完全に消え終わり、王都に再び平穏が戻った時。

 オレンジ髪の少女が嬉しそうに泣きじゃくっている。


「うぅ……っ! ひっぐ……っ! 良かっだよぉ……っ! やっと分がっだよぉ……! わだしの……ぐすっ、力の……っ!」


「……良かったわねケーシー」


 何かを悟ったユーリカがケーシーの背中を擦ると、ケーシーがそのまま身体を寄せる。

 そしてそのままユーリカの胸の中で泣き続ける。ホントに一体何があったんだろうか。

 姉に説明を求めても『泣き止むまでちょっと待って』と言われるだけなので若干いじけ気味。


「いた! ガエリオ隊長! あそこです!」


 そこに多分ナターシャが魔法を使う瞬間を見ていたのだろう、一人の騎士が、壮年でガタイの良い男性を連れてくる。完全装備で兜だけを外し、脇に抱えている。よくその装備で動けるな。


「ユーリカ! ケシリュシア! 一体何があった!」


「ガエリオ先生……」


 未だ泣くケーシーに代わりユーリカが対応する。


「さっきのは何だ! 何が起こった!?」


 焦るような口調で話すガエリオ。

 ユーリカはケーシーの背中を擦りながら話す。


「……先生。ケーシーは自身の力の根源が誰か分かったみたいです」


「……な、なんだと!? それは一体誰なんだ!?」


 ガエリオという男性は先程起こった現象を棚に上げ、ケーシーの力の根源についての詳細を求める。

 ケーシーも少し泣きながら説明する。


「……エンシア王国の伝承に残る光の巫女、フラーシカです」


「フラーシカだ、と……!? 馬鹿な、ただの御伽噺じゃなかったのか……!?」


 狼狽えるガエリオ。

 しかしケーシーは首を横に振り、本当だという事を告げる。

 そしてガエリオは後ろに控えていた騎士に『王家にそう伝えろ』と命を出す。

 指示を受けた騎士は王城へと急いで走っていく。


 因みに話に付いて行けず、完全に蚊帳の外となってしまったナターシャは暇そうに土弄りを始めた。

 斬鬼丸も乱入し、思い思いの絵を描いていく。

 あ、コラ。俺の絵にとりあえず足を付けるのを止めろ斬鬼丸。

 『これはムカデでは無かったでありますか?』じゃねぇよ! ネコだよコレは! 耳生えてるだろうが!

 『触覚だと思ったであります』じゃねぇよ!


「……では、先ほど現れた大きな女性は……!?」


 ガエリオはどんどん踏み込んだ話をしていく。

 ケーシーが推測ですが、と前置きした上で説明する。


「光の巫女を私の娘、と言っていた事から、光の巫女フラーシカと共にこの世に満ちていた闇を討ち払い、人の住める世を創り上げたと言われる英雄グレンフィス達の守護精霊、クレラフィサ本人かと」


「エンシア王国の守り神が……!? 馬鹿な! そんな物を召喚するなんて命がいくつあっても足りないぞ!」


 ガエリオは信じられないと言いながら首を横に振り否定する。


「……そう思いますよね。でも私は、あの人が本物のクレラフィサだと信じたい。私の事を娘だと言ってくれたあの人の言葉を信じたい」


 ケーシーは涙を拭い、嬉しそうに微笑みながら話す。


「だって私に、初めてのお母さんが出来たんだものっ」


 ガエリオは泣きながら微笑むケーシーに祝福の言葉を述べ、誰が召喚魔法を使ったのかという話に戻す。

 そしてケーシーが誰が召喚したのかを話し、ユーリカがしまったと額を押さえる。


「つまり、ユーリカ。お前の妹が先程の現象を引き起こしたと……?」


 ガエリオがユーリカに質問する。


「……はい、そうなります」


 ユーリカはポーズを解き、ガエリオの言葉を肯定する。


「何という……」


 ガエリオが見つめる先には、余りにも蚊帳の外なので地面に落書きして遊んでいた銀髪の少女。

 その少女もおっさんと姉とケーシーに見つめられている事に気付き、声を出す。


「えっ、何?」


 ナターシャは不安そうな表情でガエリオを見る。


「ナターシャ、だったかな?」


 ガエリオがナターシャに近づいて来て話しかける。


「はい」


「さっきの魔法は自分で作ったのかい?それとも、誰かに教えて貰ったのかい?」


 ナターシャは少しソッポを向いて考えるような仕草をした後、笑顔で振り返り、元気よく発言する。


「光の精霊呼ぼうと思ったら突然出てきたの!」


「そうか。たまたま出来たんだね?」


「うん! おじさんなんでか分かる?」


「おじさんも分からないなぁ。……本当にたまたまだったんだね?」


「……たまたま出来たんだよ!たまたま!」


 魔法の詠唱はな。


「そうかぁ。よーく分かったよ」


ガエリオはナターシャから離れてユーリカとケーシーの所へ戻る。


「……どうやら、本当に奇跡的に成功したらしい。会話術スキルを使って確認したが嘘を付いていなかった」


 ガエリオは安心した様子でため息をつく。

 そんな魔法を創ったとなれば一大事だ。

 精霊召喚では稀に高位の精霊が召喚される事があるから、それがたまたま起こったんだろう。


「そうなんですか……でも何故……」


 ケーシーは不思議そうに考え込むが、そこにユーリカが口を挟む。


「……そう言えば。妹のナターシャは神の加護というスキルを持っています。だから、本当に運良く召喚されただけなのだと思います」


 ユーリカの言葉にガエリオも少し納得を示す。


「確かに、神の加護を持っているならそんな奇跡を起こしても不思議ではないな。召喚自体もすぐ終わったようだし、たまたま条件が整っていたのだろう」


「え、えぇ。その通りです。ホントにたまたまだったんだと思います」


 ユーリカは手を合わせて、若干焦りながらも肯定する。


「……ふむ。では今回の事件は、召喚者本人の証言とユーリカの証言を鑑みた結果“召喚事故”という事が一番納得出来る。しかし神の加護、羨ましいな。ギャンブラーが欲しがるのも納得できる」


 ガエリオも自身の中で納得がいったようで、嬉しそうに頷いている。


「そうですね。私も妹が羨ましいです」


 同意し続けるユーリカ。


「まぁ原因が分かった以上、此処に長居する必要は無いな。書類にはそう纏めておくから、妹にはまた事故を起こさないように、と注意しておいてくれユーリカ」


「はい! 注意しておきます!」


 姉とケーシーの礼を見てから、ガエリオも来た道を戻っていく。

 そして完全に見えなくなった後、姉のユーリカは安心したようにため息をつく。


「はぁ~~……」


(危なかった……

 下手したら、ナターシャが国家反逆罪で囚われていたかもしれない。

 妹の裏事情に関しては説明しようにも信じて貰えないだろうし……

 とりあえず、神の加護を持っていてくれて本当に助かったわ……

 でも、あんな事をするなんて何が目的だったのかしら……)


 そこで、泣き止んだケーシーが尋ねる。


「……ねぇユーリカ。ホントにたまたま召喚したの? 結構しっかりとした詠唱だったと思うけど……」


「……それよりもケーシー。力の根源が分かって良かったわね。おめでとう。これで突然、貴女の髪の色が変わる理由に正当性が出たじゃない。お父様も魔に連なる者じゃなかったって一安心するでしょうね」


 ユーリカは話題を切り替えてケーシーを安心させる事で、詠唱に関して触れさせないようにする。


「あ、うん! えへへ、やっと解放された気分だよ! 早速お父さんに手紙出そうっと」


 ケーシーも割と単純なので話に流された。

 その後、軽く雑談した事で何とかその場が収まり、ケーシーは楽しそうに家の中へ入っていく。

 父に向けて手紙を書くのだろう。


 ユーリカは疲れたようにため息をついてから、ナターシャに近づく。


「……ナターシャ」


「なぁに?」


 地面に何やら謎の物体を書き続けているナターシャは姉を見上げる。

 その殆どが壊滅的な見た目だ。何を描いたのだろうか。


「説明をお願い出来るかしら?」


 姉の質問に事実を述べ始めるナターシャ。


「……たまたまだよ。あんなのが出るなんて思ってなかったもん。もっと小さい物だと思ってた」


「それにしては大層な詠唱だったけど?」


 ナターシャは見上げるのを止めて、地面を弄りながら話す。

 声のトーンが少し低くなる。


「……実は、魔法に関しては魔道具を通じて事前に教えて貰った。私はそれを詠唱しただけ」


「……つまり、組織にはナターシャ以外に別動隊が居るという事?」


「……それは言えない」


「そう……」


 何とも言えない雰囲気で話が終わる。

 『まぁ良いわ』と姉は疑問を吹っ切り、ナターシャと斬鬼丸に家の中を案内した。


 一階は共同スペース。リビングは小さな暖炉とテーブル、風呂場に繋がるドアという簡素な造りだ。

 そして二階が宿泊スペース。5つ程部屋があり、3室使用中。ナターシャの宛がわれた部屋は二畳一間程度の小さい角部屋。窓が無く、ベッドだけが置いてある。牢獄かな?

 その右隣が斬鬼丸用の部屋だが、どうも姉達の私物らしい物が何点か置かれていた。

 まぁそんなに散らかっている訳ではないし、片付けもすぐ終わるだろう。


「とりあえず家の説明はこんな物ね。トイレは階段の裏にあるわ」


 ユーリカは二階の廊下にて、満足した様子で威張るようなポーズを取る。


「分かった。キッチンは無いんだね」


「一応暖炉でお湯くらいなら沸かせられるけど、基本的にただの宿泊施設よ。それに、私達訓練生は毎日三食出るから必要無いの。まぁ、たまには自分達で作って食べたくなるけどね」


「そういう時はどうするの?」


「調理器具を借りて外で調理よ」


「とっても野性的だね」


 軽口を叩く妹。


「僻地遠征用の実地訓練と言ってくれるかしら」


 妹の軽口を軽くあしらう姉。


「じゃあ、家の案内も終わった所でガレットさんの所に行くわよ」


「はーい」


 3人は家を出て、ガレットさんという人物の元へ向かう。

突然の架空言語。

割と適当に作ったんで言語警察に怒られるかもしれない。

そして途中で疲れたんで描写カット気味


今更ですが唐突に中二病設定や厨二病ムーブが出てくるのがこの作品の特徴になっております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ