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55 一日目:騎士団宿舎とナターシャの精霊魔法

 国の入場口から見えていた城門に辿り着く三人。守衛に止められて再び検問に入る。

 城門の壁の中には半月型の窓が開いていて、顔の見えない審査官がギルドの身分証と入場する理由を求める。

 ユーリカは騎士団宿舎の宿泊証を提示、ナターシャも父から貰った許可証を提示する。

 暫く経った後許可証が返却され、ナターシャと斬鬼丸に革製の首掛け入場証が配られる。中にいる際は常に見える位置に出しておくようにとも指示される。

 入場証には今日の日付と共に有効期限が書いた紙が入っていた。期限は明後日まで。


 何故斬鬼丸も貰えたのか分からなかった為許可証を確認すると、斬鬼丸の宿泊許可まで書いてあった。同じ部屋だが大丈夫なのだろうか。

 姉にその事を聞くと知ってると呟く。斬鬼丸さんには別室を用意するとの事。結構広い部屋に住んでるんだねお姉ちゃん。


 ナターシャ達は首に入場証を掛け、城門の中に入る。

 中にはまだ城壁と城門が存在していて、その城壁に沿うようにして白い壁に黒い屋根の建物が建てられている。

 建物の前には木の柵で囲ったスペースがあり庭のようになっている。

 建物の隣には馬小屋があり、幌馬車用の車庫もある。

 それ以外のスペースは全て舗装されていない乾いた土の道で、埋まっているであろう木の丸太に木剣を叩きつける様子や、訓練中の騎士が集団でランニングを行っている様子が見える。


「騎士団専用のエリア?」


 ナターシャは思った事を口にする。


「正確には騎士団と王城や宮廷貴族の家で働く使用人さんの居住区よ。他にも食糧庫、武器庫、各種武器の訓練場があるわ。手の空いているコックさんや下働きさん達による共同食堂なんかもあるわね。騎士団でも美味しいし安いって評判よ」


「そうなんだね。その食堂って食べに来る人多いの?」


「いいえ。此処に入れるのは一部の許可を得た人達だけだから、一般の人は多分存在を知らないわね。でも食べにくる事は不可能じゃないわ。ちゃんと住民登録して、正当な理由を示せば中に入場出来るから」


「正当な理由?」


 ナターシャは首を傾げる。


「共同食堂を利用したいって言う正直な気持ちよ。」


 とんでもない感情論を言ってのける姉。

 そんなんで良いのだろうか。割と悪用しそうな人が多そうなんだけど。


「そんな単純な理由で入れるの?」


「目的がそれだけならね。他に理由があった場合絶対に入れないわ」


「……そんな事分かるの?」


 若干疑心暗鬼気味に聞くナターシャ。


「分かるみたいよ。私にもそれが判明する理由は分からないけどね」


「そっか」


 どうやら姉も詳細を知らないらしいので諦めて周囲を眺める。

 黒と白のモノトーン気味な建物近くにある城門の奥には高級そうな住宅街とまだ奥に存在する城壁。その中から突き出る純白の城が見える。あれが王城だろう。

 エンシア王国って四重もの城壁で囲ってあるのか。重厚な国だねホント。


「さ、私の部屋に行くわよナターシャ」


 城門の向こう側を眺めていたナターシャは姉に手を取られて引っ張られていく。

 一応見た目麗しくか弱い少女なんだからもう少し自由奔放にさせて欲しい物だなホント。

 入場口から右折、感覚的には街のかみの方に向かって進む。

 途中までは似たり寄ったりの建物だったが、途中から様相を変えて少し高級そうな建物に代わる。

 屋根は同じ素材だが、壁全面を水色の長方形タイルで隙間なく埋めて造られた建物だ。

 建物に付いている窓の木枠には透明なガラスが嵌め込まれている。


「なんか建物豪華になってない?」


 姉に質問するナターシャ。


「えぇ。ここら辺は有力な貴族の子息や子女が住むエリアだから建物も上等な物よ。騎士団は身分に囚われず分け隔てなく接するよう指導しているのだけど、有力貴族出身の彼らにはプライドの問題があるから平民の騎士宿舎よりも豪華に造られているの。国の意向って奴ね」


 ……ドロドロしてそうだなぁ、国の上層部って。

 既得権益の果てしない殴り合いが繰り広げられてそう。


「ユリスタシア家って有力な家系なの?」


 そしてナターシャは姉から聞いた話の中で浮かんだ疑問を尋ねる。


「いいえ、そうでもないわ。普通の家系よ。普通のね」


 少し含ませたような言い方をするユーリカ。


「じゃあ何でこの場所に?」


 ユーリカは少し誇るように笑い、努力の成果よ、と話す。

 ナターシャは軽く首を捻るが、多分養成学校で頑張ってるんだろうなぁと結論付ける。


「さ、着いたわよ」


 姉が立ち止まり、向いた先に見える建物はバルコニー付きの大きな家。二階建て。

 他の家と違い赤いタイルを身に纏ったその家の前にはテラスがあり、テーブルセットが設置されている。そこには姉と同じくらいの年齢の少女が一人その椅子に座り、ティーカップ片手にくつろいでいた。


「……うーん良い茶葉……美味しい……」


 軽装備な少女の髪色は何とも珍しいオレンジ色。ショートカットヘアーのその少女は帰宅したユーリカを見て嬉しそうに手を振る。


「あっ、ユーリカお帰り~♪」


「ただいまケーシー。お父様からお守を頼まれてきたわ」


 ナターシャを引き連れてテラスに入るユーリカ。

 ケーシーという少女もティーカップをテーブルに置き対応する。

 こういう人と初めて会う場面では第一印象が大事だったな、という事でナターシャもしっかり印象に残る挨拶をしていく。


「妹一号です。宜しくっ!」


「おぉー! 私は妹弟子二号! 宜しくっ☆」


 互いに変なサの字のようなポーズを取るナターシャとケーシー。


「まるでまだ妹が存在するような言い方は止めなさいナターシャ。そしてケーシーも乗らないの。弟子じゃなくて同期でしょ貴方」


 ユーリカに指摘されて楽しそうに笑うケーシー。

 そして改めて自己紹介し直す二人。


「えへへ、冗談冗談。私の名前はゲデュルス・ガーランド・ケシリュシア。エンシアの西方にあるガーランドっていう街を治めてるゲデュルス伯爵の一人娘だよ。貴族同士の堅苦しい付き合いとか苦手だから、気軽にケーシーって呼んでね」


 椅子に座りながら軽く手を振るケーシー。


「ユーリカお姉ちゃんの妹のユリスタシア・ナターシャです。これから三日間お世話になります」


 ナターシャはスカートの裾を掴み丁寧にお辞儀をする。

 インパクトを与えた後は優しく礼儀正しく。これがクレバーな男の鉄則だ。

 まぁ今女だけど。


「おー偉いねぇー良く言えたねー♪」


「っ!? や゛ぁぁー!」


 そして近づいてしゃがみ込んだケーシーに撫で繰り回されるナターシャ。

 頬をむにむにされたり髪の毛をクシャクシャにされたりとやりたい放題だ。

 必死に抵抗するもケーシーとの腕力対抗ロールに失敗し、なすがままになる。


「気に入られて良かったわねナターシャ。ケーシーって結構正直だから嫌いな人には嫌いってハッキリ言うタイプなのよ」


 そりゃどうも親戚のお姉ちゃんに弄り倒される弟の気分だよコッチはァ!

 ナターシャの抵抗虚しくそのままケーシーの攻撃は続き、最終的に髪の毛がくちゃくちゃになってしまった。ご自慢の綺麗な髪が絡まって右や左や上に向いて大変な事になっている。


 ……髪は手櫛で治るし? 別に泣いてなんかねぇし。瞳の端に映る涙は粘り勝ちの証だし?

 何かを我慢するようにぷるぷると震えるナターシャ。


「……それで、ソチラの御仁は何者で御座るかい? ユーリカちゃん」


 ナターシャでたっぷり遊び終えたケーシーはユーリカに近づき、ナターシャの背後で静かに佇む西洋甲冑が誰なのかと質問する。


「あぁ、その人……ではないけれど、彼は妹の護衛よ。斬鬼丸さん、自己紹介をお願いします」


 斬鬼丸はユーリカのその言葉を聞き自己紹介を始める。


「……拙者は、ナターシャ殿の護衛を努めている斬鬼丸という精霊であります。まだ生まれたばかり故分からない事が多いで御座るが、全力を賭してナターシャ殿をお守りするで候」


 ガシャ、と気合を入れるような動作をする斬鬼丸。


「へぇー斬鬼丸さんって言うん……精霊!? せ、精霊……」


 ケーシーは驚き、しげしげと斬鬼丸を眺める。ユーリカもケーシーの様子を見て同意するように頷いている。

 そんなケーシー達に向かって手をバッと広げ自身を大きく見せる斬鬼丸。ケーシーも負けずに威嚇し返す。なんの勝負だ。

 そんな遊びがちな斬鬼丸に、半泣きになりながら手櫛で髪を梳くナターシャが質問する。


「……さっきのケーシーさんの行動はガード判定に入らないの?」


「何、少女同士の戯れ程度で本気を出すような愚か者ではありませぬ」


 ハハハと愉しそうに笑う斬鬼丸に怒りの鉄拳をポコゥとぶつけるナターシャ。ガァンという音と共に金属を殴った反動が拳に跳ね返ってくる。

 クッソこの精霊愉悦部だ! 許しちゃおけねぇ! でも殴ると手が超痛い……!

 殴った右手を労わりながら左手も使おうか思案するナターシャ。


 対するケーシーは精霊という言葉に驚き、顔を伏せて考えている。

 そして答えが出たのか話し始める。


「つーまーりー……、ナターシャちゃんは精霊魔法使えるって事?」


「そういう事ね」

「そういう事でありますな」


 ユーリカと斬鬼丸が答える。

 それを聞いたケーシーはナターシャの目の前にしゃがみ込み、


「じゃあナターシャちゃん他の精霊魔法って使える!? 私光の精霊さん見てみたいんだけど!」


 手を握って懇願する。

 しかしナターシャはジト目でケーシーを見つめ、


「謝って」


「えっ?」


「謝って。じゃないと見せてあげない」


 おこぷんぷんな表情で謝罪を迫る。

 その様子を見たケーシーも態度を改め、


「……ごめんね?」


 と軽く可愛く謝罪した。


「いいよ」


 ナターシャも笑顔でその言葉を受け入れる。

 まぁ髪くちゃ程度で激怒する程人格ボロボロじゃないんで。気持ち籠ってなくとも軽い謝罪聞けたらそれで満足よ。許して差し上げますとも。

 じゃあまぁとりあえず適当にそれっぽい言葉並べて光の精霊召喚してみますか。

 えーっとどう言おうかなー……


 詠唱文を考える為に目を閉じ、顎に手を当てる。


 そんなナターシャの様子を三人は静かに見つめる。


 光の巫女に導かれし神聖なる精霊よ、今此処に君臨せよ、で良いかな?

 んーでもそれだと弱いかもなー。それに導かれし精霊だと人が対象になっちゃうかもしれないし。

 じゃあなんだろ。光の巫女はアリだよなー……あ、そうだ。光の巫女と神聖なる精霊を導いた存在を召喚すれば良いや。

 それに光の精霊の信仰を組み合わせると……

 つまり、“古の伝承に残る光の巫女と、それに導かれし神聖なる精霊を守りし大いなる母よ。光の信仰を身に纏い、安らぎの歌を称えながら御身の神姿みすがたを此処に現し給え!”だな。よっしゃ決まった。


 魔法が決まったのでテラスから出るナターシャ。

 両手を前に出し準備万端だ。魔王ゾー〇!


「じゃあいくよー」


「おねがいしまーす!」


 ナターシャの緩い掛け声にケーシーが返答する。

 その返答を聞き、魔法を唱え始めるナターシャ。


「……“古の伝承に残る光の巫女と、それに導かれし神聖なる精霊を守りし大いなる母よ。光の信仰を身に纏い、安らぎの歌を称えながら御身の神姿みすがたを此処に現し給え!”」


 ナターシャの足元に魔法陣が自立起動。

 しかし精霊が召喚されない。


 ……あれ? これで出ると思ったんだけど。

 あ、もしかして二つ名必要なの? めんどくさいなぁもう……

 サクッと考えた名称を魔法に名付ける。


「“光導地母神ガンダーラ・マザー・グース”」


 二つ名詠唱と共にナターシャの足元の魔法陣が二重、三重、四重とドンドン多重化。

 それと同時に遥か天空、王都の頭上の雲が晴れ、超巨大な光の魔法陣が出現。王都全体を眩しく照らし始める。

 当然街では大混乱が発生。突然の出来事に立ち尽くす者、逃げる者。見知らぬ家に飛び込む者、雄々しく武器を持ち構える者。

 宮廷魔術師の魔法実験の失敗かと慌てふためく者や、神に救いを求めて涙を流しながら祈りを捧げる者まで。


「えっ、何!? 何事!?」


 軽い気持ちで精霊魔法をお願いしたケーシーも動揺。

 とんでもない事になっている事を自覚しているが、既に止めようが無いのでナターシャとユーリカを交互に見ながらあわあわしている。

 姉のユーリカは頭上を見てポカンと口を開け、斬鬼丸は天を仰いでおぉ、見事。と声を漏らす。

 そして天空の魔法陣が回転を始め、ナターシャの指名した精霊がゆっくりと召喚され始める。


 かつて此の大地を照らし、闇を退けた勇者と光の巫女を導いたと言われる伝説の地母神。

 其れが戦乱の果て、遥か彼方にてようやく太平の世を気付き上げた王国に今姿を現す。

はいプロット崩壊~~(想定外の精霊魔法使用による神霊召喚)


というのは嘘でそもそも話の大筋以外は用意してないです。なんである意味想定内。

まぁやりたい放題やっていきまっしょい。大筋変わんなきゃ何とかなるんだから。

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